定時帰りの、腰掛けOLたち。

楽な仕事に給湯室での井戸端会議、充実したアフターファイブ。

”安定”という鎧を手に入れた彼女たちは保守的で、誰かが幸せにしてくれるのを待っている。

丸の内の大手損保会社に勤める愛華(26)も、その一人。典型的な腰掛けOLである彼女には、実はこんなあだ名がある。

“にゃんにゃんOL”、と。

元OLのアリサ(29)から檄を飛ばされ、腹黒系にゃんにゃん結衣に蹴落とされそうになり、バリキャリ系の景子の出現に焦る愛華。

そんな愛華を見て、アリサは...




ただ可愛い、だけで勝負できる時代は終わった


「アリサさん、和樹さんから、私のこと何か聞いてますか?」

梅雨明け宣言をした瞬間から約1ヶ月間、東京の空にずっと留まっていた厚い雲は、 ようやく何処かへ流れたようだ。

久々に見た太陽の下、テラス席でランチを楽しもうと思ったけれど、今日も私は、愛華の相談に乗っている。

彼女の相談事は、2パターンしかない。

恋愛相談か、ふわっとした将来の未来相談だ。

「愛華のこと?そうね...可愛い、とは言っていたけれど。」

愛華は商社マンの和樹に、出会った時から狙いを定めている。

女が、ただ“可愛い、綺麗”と言うだけで勝負できるのは一体何歳までなのだろうか、と愛華を見ていると考えずにはいられない。

女性が強くなってきた昨今。
可愛いだけでは、 結婚の波には乗れなくなってきた。

「アリサさんの方から、和樹さんのタイプってどんな女性なのか聞き出してもらえませんか?」

「そんなことよりも、愛華の方から連絡してみたら?」

しかし私は知っている。

云々と説教くさいことを言う前に、にゃんにゃんOL達は、本能的に身につけている技があることを。

結婚したいと狙いを定めた男は、必ず落としにかかる技である。


一見、ふわふわ系。しかし狙った男は手堅く、がっちり掴む裏の顔


医者や外資金融よりも手堅く商社マンを


「そうですよね、そしたら私の方から誘ってみます。」

目を爛々と輝かせながら、愛華が携帯をいじり始めた。

そんな愛華を見ながら、彼女たちのターゲットを絞る早さ、そして見極め力に感心する。

-外資系や、医者は少しハードルが高い。

きっとそれは、どこか肌身で感じているのだろう。

しかし出会いの数も圧倒的に多く、ちょっと頑張れば付き合える商社マン。

彼らは、彼女たちが理想とする“年収1,000万、タワマン、プチ専業主婦”などの理想を具現化にしたような、分かりやすい勝ち組アイコンなのかもしれない。

「和樹さんから、連絡が来ましたぁ!“来週の金曜日はどう?”ですって。嬉しい〜♡」

携帯の画面を嬉しそうに見せてくる愛華を見ながら、ふと思う。

-結局、愛華みたいな子が幸せを掴むのかしら...。

一見、女の子らしくて優しくて、癒し系に見える。でも実は、それこそ文字どおり“猫を被っている”可能性が高い。

しかも厄介なのは本人たちも気がつかないほどごく自然に、無意識のうちにそれを行っていることだ。

「デート頑張ってね。」

彼女たちは虎視眈眈と、結婚という二文字を狙っている。妻という座を獲得するため、誰よりも計算高く動いている。

ふふふ、と愛華が笑っていた。



「で、なんで私もここにいるの?」

愛華と和樹が約束した金曜日。

なぜか二人と、和樹の同僚・慎吾と4人で『センシ バイ ハインツ ベック』のテーブルを囲んでいた。




「和樹さんが、せっかくだから四人でご飯を食べようって。」

愛華が嬉しそうに話しているが、本当は二人の方が良かったのではないだろうか。そんなことを一人で色々考えているうちに、続々と料理が運ばれてきた。

「私、取り分けますから!」

率先して、愛華が運ばれてきたサラダを男性陣に取り分けている。そんな愛華の姿を、和樹が目を細めて見ている。

「アリサさんは、何もしなくて大丈夫です!」

-キタぁ!にゃんにゃんOL必殺技、料理を取り分けていい女アピール!

私には、率先して料理を取り分ける女性がどうも理解できない。

料理を取り分けるのは男性の仕事だと思っているし、各々好きなように取ればいいと思っているから。

そんな矢先、慎吾が放った一言で、私たちのテーブルは固まった。

「俺、自分でやるからいいよ。いわゆる“ゆるふわ系”がすることって、何かアピール感が凄くて、苦手なんだよね。」


いい女アピールにはうんざり?しかし狙った男は落とす、凄い実力とは


守ってあげたいと思わせる、にゃんにゃんOL達の嗅覚を侮るなかれ


「ゆ、ゆるふわ系は苦手...アピール感がすごい...」

ゆるふわ系とはその名の通り、揺れるピアスを身につけるような、ふわふわしている女子のことを指す。

にゃんにゃんOL達にとって、これは褒め言葉であり、雑誌などで特集されるに値する。

しかし慎吾の一言で、その幻想は見事に砕け散った。

「だって、君たちの将来って全て旦那頼みでしょ?」

慎吾の言葉に、更に場が静まり返る。私は越後もち豚グリルを黙って口に運ぶ。野菜のカポナータとの相性が抜群だ。

そんなことはお構いなしとばかりに、慎吾のお喋りは留まることを知らない。

「最近は女性も働いて稼ぐ時代の中で、最初から“駐妻狙ってます!”みたいな人は勘弁して欲しいよね。若さで勝負できるうちはいいけど、いい歳して自立してない女性は魅力的ではないし。」

誰も止めないのをいいことに、慎吾は益々饒舌になっていく。

しかし、そんな慎吾の饒舌を食い止めたのは、まさかの和樹だった。

「俺は愛華ちゃんみたいな子、好きだけどなぁ。」

一斉に、皆が和樹の方を向く。愛華の顔が、一気に華やいだ。




「だって、可愛いじゃん。」

和樹の一言に、思わず肘がテーブルからカクン、とずり落ちた。

にゃんにゃん系の必殺技。

それは、“俺がいないとこの子は生きていけないのではないか”と男性に思わせることだ。

「和樹さん、ありがとうございます。慎吾さん、ひどいなぁ〜。」

愛華が可愛らしい笑顔で、左手を和樹の右肩に寄り添えながら、慎吾に対して大人気のある対応をしている。

もたれかかられた和樹は、まんざらでもない顔をして、目尻を下げているではないか。

結局世の中の男性の8割は、この手のタイプの女性が好きなのだろうか?

一見、お気楽に見える毎日。しかし将来への不安は彼女たちが一番抱えており、何か人生を底上げしてくれるような大逆転を待っている。

そんな彼女たちは、実は生き抜く力が非常に強く、嗅覚が鋭い(そして計算高い)。

本能とでも言うのだろうか。自分を好いてくれそうな男性を敏感に嗅ぎ分け、結婚までこじ付ける能力に優れているのだ。

実は“自分で生きていけますバリキャリ系”は恋愛下手で、男性に可愛く頼る方法を知らない。

だから、婚期を逃しやすい。

私だったら慎吾に突っかかるか、そこまでスムーズに、和樹にボディタッチなど到底できやしないだろう。

-実は彼女達の方が一枚上手なのか?

愛華を擁護する和樹を見て、男性達は気がつかない、普段はゆるく、ふんわりとしたカバーに覆われている彼女たちの底力を見た気がした。

にゃんにゃんOL、侮るべからず。

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狭い世界だからこそ恐ろしい。表は笑顔、裏では足を引っ張り合う女の嫉妬