2006-17オシムから始まった「日本オリジナル」を探す旅 後編

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対談『フットボリスタと日本サッカーの10年』後編

川端暁彦(元エル・ゴラッソ編集長)× 浅野賀一(フットボリスタ編集長)

「世界の強さを裸にしてやろう」(創刊号の巻頭言タイトル)。

06年のドイツW杯で日本代表が惨敗した直後に創刊されたフットボリスタは、欧州サッカーを追い続け、いつか追い越すことを宣言してスタートした。あれから10年、日本と世界の距離は縮まったのか――『エル・ゴラッソ』元編集長で国内サッカーのスペシャリスト、川端暁彦氏と、本誌編集長・浅野賀一が日本サッカー10年の歩みを徹底的に語り合った昨年12月号の創刊10周年対談を、日本サッカーの命運が懸かったオーストラリア戦を前に特別掲載。

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2014年W杯〜現在、そして未来
浅野 『ビルドアップvs前からのプレス』の駆け引きが常態化してきた
川端 それが日本でイマイチ起こっていない現象。その理由は…

浅野「それを受けた14年W杯以降なんですけど、ヨーロッパではさらに、特にクラブシーンで戦術が高度化して、スペイン代表や昔のバルセロナみたいなポゼッション特化型のサッカーが厳しくなってきて、特にスペイン2強のMSNとかBBCのカウンターが相当のズルいやり方(笑)」

川端「お金持ちにしかできない(笑)」

浅野「ポゼッションするけど、本当に強い相手と当たった時はそれをちらつかせてカウンターで勝つ。さすがのグアルディオラのバイエルンもこれの攻略は難しかった」

川端「ポゼッションとカウンターの使い分けですよね」

浅野「使い分けを本当に強いチームがするようになって、シメオネのアトレティコは相変わらず固いし、特に対ポゼッションのチームに対してはもの凄い強さを発揮して、結局15-16のCLもバルセロナとバイエルンを破っているからね。ユベントスもどちらかというとそちら側、複数プランを使い分ける日本人が苦手そうなところが今問われるようになってきている」

川端「日本人が臨機応変を苦手としているのは間違いない」

浅野「あとはポゼッションサッカーの根本であるDFラインからのビルドアップを狙い撃ちするようになった。基本的にはポゼッション派もカウンター派も蹴らなくなってきていて、低い位置からビルドアップしようという流れの中で、『ビルドアップvs前からのプレス』の駆け引きが常態化してきた。そこのハメ方と外し方が凄い高度化して。ペップだったりトゥヘルだったりの先発メンバーって、従来の枠にまったく当てはまらないような配置の仕方をしてるので」

川端「メンバー表を見た時にフォーメーションがイメージできないチームが増えましたよね」

浅野「攻撃と守備で並びを変えるのは今までも当然あったんだけど、変え方が従来の枠組みじゃなくなっているので、攻撃時に片側だけSBがボランチの位置に行きますとか、もう何かどうなっているのかエキスパートじゃないとわからない」

川端「これは森山佳郎U-16代表監督なども言ってますが、そうしたハイプレスをめぐる駆け引きというのは日本でイマイチ起こっていない現象なんですよ。これはハリルホジッチも指摘しているように、前からボールを狩りに行くチームが少ない。だから、それを外す側も進歩しなくなっちゃっているのは僕も凄く感じています。育成年代もその傾向があるので。最近ようやくそうじゃないチームがちょっとずつ増えていますが、それでもプレッシングを前面に押し出すチームって本当に少なくて、流経大柏くらいかな。彼らは柏レイソルのU-18チームにリーグ戦で1度も負けたことないんですよ。ポゼッションをプレスで押し込んでしまうサッカーなので、戦術的に相性がいい。一方、柏のような日本のポゼッションチームがそういうサッカーに対峙する経験値が絶対的に少ないので、対応力が身に付いていない」

浅野「高温多湿の気候が原因なのかな?」

川端「それもあると思うし、チャレンジしないマインドの問題もある。正直、審判の問題もあると思う。接触プレーに対して総じて厳しい。そうするとボールを果敢に奪いに行くことがチームにとってポジティブにならないケースが多いんですね。もともと教員が審判をやる文化の中で、全員がそうではなくてあくまで傾向ですが、ケガをさせないように笛を吹くことを重視している。それが一概に悪いとは言えないんだけど、ただ自然と接触プレーに厳しい文化が育った。そういう中でやってきたので、自然と前からボールをガンガン奪いに行くようなサッカーは危ないって疎まれちゃう。神奈川にアルゼンチン人が監督をやっているチームがありますけど、『荒い』って言われるんですね。激しくガンガンやるから危ない、と。でもそれってアルゼンチン人の感覚からすると不思議でしょうね」

浅野「そこが今の戦術のトレンドのコアになっている部分だからね。前からのプレスをめぐる駆け引き」

川端「ポゼッションして前からプレスを外すという流れの中で、最初から諦めちゃって『前からのプレスは外されるから、もうリトリートするしかないね』と日本はなっている部分はあります」

浅野「ボールを繋ぐことを覚えさせる育成年代がハイプレスを避けるのはしょうがない部分はあるのかもしれないけど、Jのレベルで前線プレスをかけるチームが少ないのはちょっと問題ですよね」

川端「14年W杯で痛感したんだけど、大きな差を感じるのは欧州において絶対的なフィジカルのレベルがもう変わってると思うんです。この10年の欧州でそこは本当に進歩したし、日本は置いていかれた気がします。原因はトレーニングかもしれないし、もっと科学的なアプローチが不足しているという根本的な問題なのかもしれない。ハイプレスをやるには体力と相手とガッチャンコになった時に勝てる強さの両方を持ってなきゃいけないので、それを日本人に持たせられていないからその戦術が流行らないのかなと」

浅野「それはハリルホジッチさんの言っている通りじゃないですか」

川端「言い方はいちいちムカつく方ですが(笑)、でもまあ言いたいことは凄くわかる」

浅野「正論だよね。ムカつくほど正論(笑)」

川端「ムカつくおじさんですけど(笑)、言っていることは、総じて間違っちゃいないなと感じます。じゃあアトレティコみたいな、あるいはドルトムントみたいなサッカーを成立させるためのフィジカル的なベースを日本人が持てているかというと持てていないのかな、と。その理由は何なのか。遺伝子なのか、トレーニングなのか、もっと科学的なアプローチの問題なのか」

浅野「ただ、前線プレスって本来はバルセロナが始めたことからもわかるように、機動力がある小兵選手が前からどんどん行くやり方じゃないですか。小っちゃくてもできるんですよね、本当は」

川端「もちろん。これは身長の話じゃないですよね」

浅野「だから選択されてないだけなのかなって気はするけど。だって日本代表レベルだとやっていたじゃないですか。ザッケローニのチームもよく前からハメに行こうとしていたし」

川端「ザックはそれをやりたかったんだよね。14年W杯で審判をやった西村さんが『世界のサッカーは凄い勢いでアスリート化が進んでいて、試合のスピードと絶対的な運動量がまず日本国内の試合とは違う』と。だから審判のアスリート化が求められているという話だったんだけど、逆に日本のサッカーはそこまで審判にアスリート化を求めるような試合をしていない。そこに問題を感じます」

浅野「根本的なフィジカル的な資質だけでなく、後天的な鍛え方だったりとか?」

川端「鍛え方はあると思うよ。そもそもフィジカルトレーニングを軽視してきた文化があるので。最初からそこは諦めちゃっているところもある。単にやり方を知らないだけというのもあるでしょう」

浅野「もうそのフィジカルが前提になっちゃっているからね、世界のサッカーでは。代表とクラブってかけられる時間が全然違うので、代表シーンでは少し遅れてトレンドが出てくるんだけど、EURO2016で顕著だったのは対ポゼッションの守備戦術が参加24カ国にほぼ行き渡るくらい完璧だった」

川端「もう知られているよね、完全に。EUROの51試合でポゼッションが上回ったチームが勝ったのは、たったの15試合だそうで」

浅野「だからもうボールを持つことが優位じゃなくなった。今の特にEUROレベルの国に関しては。スペインがすぐ負けちゃったのが象徴的ですけど」

川端「優勝したのがポルトガルというのも象徴的ですよね。まさにポゼッション捨てちゃった感じだったし」

浅野「ポゼッションしても点が取れない。だからもう“偽9番”じゃなくて長身のハンマータイプをCFに置いて、そいつにハイクロスを入れて最後点を取ってもらう状況。ポゼッション側は結構苦しい」

川端「“偽9番”対策も結構確立されてきた感じはありますよね」

浅野「具体的に言うと、西部謙司さんがよく言うように『ニアゾーン対策』と『バイタルエリア対策』なんだけど、SBがサイドに引っ張られるとCBとSBの間が空いて、そのスペースに入り込んで守備ブロックを崩すのがポゼッションサッカーの定石だけど、SBはサイドまで開かないでペナルティエリアの幅を4バックで守ってサイドはボランチやサイドMFに引かせて守らせる」

川端「この前ハリルホジッチがオーストラリアに対してやったようなやつですね」

浅野「そうするとペナの中にDFが4人いるので逆にバイタルエリアはDFラインから前に出て潰すことができる。そういう対策を参加24カ国がキッチリできているから、そりゃあボール持ってもなかなか点が取れない。EURO2016に関しては、研究して相手の良さを消すことをどのチームもやっていて、やらなかったのはスペインくらいだったんだけど(笑)。総じて守備が固くて、相手の良さを消して戦う。強いチーム同士だと特に。ある意味ハリルさんはトレンドに乗ってるんだよ」

川端「乗っているし、世界のトレンドは意識していると思う」

浅野「もともとハリルさんが敵を分析して相手によってやり方を変える、ボラ・ミルティノビッチみたいな短期決戦に強いタイプというのもありますけど」

川端「ジャイアントキリング狙いの監督ではあるんだろうなあ。だからこそジャイアントキリングの肝であるフィジカルの不足を感じるんだろうし。ハリルホジッチさんには気の毒というか、彼に十分な戦力を供給できていない育成面での敗北を感じますね」

浅野「若い選手が全然いないね」

川端「原口元気、ドイツでめちゃくちゃ変化したじゃないですか。レベルアップしたじゃないですか。守れる選手になったじゃないですか。走れる選手になったじゃないですか。頑張れる選手になったじゃないですか。その変化を日本で起こせなかったっていう責任というか、Jリーグの育成力をあらためて感じちゃうところですよね」

浅野「やれるんだもんね、ポテンシャル的には」

川端「身体能力はもともと凄まじいものを持っていますからね」

浅野「どうですか、U-17やU-19を昔から取材してますけど、未来は明るそうですか?」

川端「うーん、単純に明るいとは言いがたい(笑)。むしろ不足や課題を感じますよ。インテンシティが高いサッカーとぶつかった時の脆さだったり、あとは多様性ですよね。U-23の手倉森さんが2年間かけてとにかくこの世代の選手たちは柔軟性がない、柔軟なサッカーができない、そこをなんとかしなきゃってやっていたけど、確かにポゼッションとカウンターの使い分けじゃないけど、そういう引き出しを持っていない選手が多い」

浅野「自分で判断することは日本人が苦手なことかもしれないけど、教えられてないってことなのかな?」

川端「逆に一つのサッカーを叩き込まれ過ぎちゃってる感じはする。ポゼッションならポゼッションって。あるユース代表クラスの選手が『俺[4-4-2]じゃなければもっとやれるんすけどね、[4-1-4-1]ならやれるんすよ』みたいな話をしていて、『おいおい』と」

浅野「それは問題ですね」

川端「自分が小さい頃からずっと同じ戦術で育ってきてるので、それでやれば彼はもっと輝けるんだろうけど。それは本質からズレちゃった育成ではないのかな、と」

浅野「難しいですね。今、育成年代に戦術を教えるかどうか議論みたいのあるじゃないですか?」

川端「ありますね。ただ、それは『そもそも戦術って何?』という定義をしてくれないと何も話せない。森山さんは『サッカー理解』って言葉をよく使いますね。それは教えるかどうかはともかく、育成年代で体得していかないといけないもの。例えば、小さい頃から[4-1-4-1]の戦術に徹底して入り込めばいいのかっていうとそれは違う、と思いますけどね」

浅野「これからのことでいうと、世界のサッカーは常に変わっていくから今の状況で思考を止めるんじゃなくて、常に変化を注視していくのが大切ですね」

川端「あとA代表だけを追いかけていると限界があるかなと感じていて、下の年代は10年後20年後を見据えてやらなきゃいけないと言っていたのはオシムさんだけど、それは本当にその通りで、そのためのベース作りは凄く大事かなと。今のバルセロナに憧れるから下の年代もバルセロナというのは思考停止。10年後、20年後はきっと違うサッカーが主流になっている」

浅野「図らずも06年ってオシムさんが日本オリジナルのスタイルを築くべきって言っていた時期でしたけど、そこから10年経って、すぐにできるものではないけどその道のりを忘れてしまっていいものではないと思うんですよね」

川端「逆に言うと、試行錯誤した経験値自体はこの国のサッカー界に残ってはいると思うので」

浅野「ちゃんと日本サッカーを考えている上でハリルさんのサッカーに否定的な人っていうのは、日本のスタイルを探す旅からズレちゃってるんじゃないの?っていうことは思っているんだろうけどね」

川端「そうだね。ただ、日本のスタイルを探す旅の中にあるのかなと僕なんかは思うけど」

浅野「その心は?」

川端「古くは西野ジャパンのアトランタ五輪がそうだと思うんだけど、日本の比較的成功した世界大会ってそっち(カウンターサッカー)じゃない?」

浅野「そうだね。ロンドン五輪とかもそうだもんね」

川端「あともちろん南アフリカもそうだし」

浅野「ハリルさんもそこに乗っているからね。間違いなく」

川端「だからハリル自身はある意味日本の伝統の系譜の中にはあると思うんだよね。もう一つの実験としては、いつもアジア予選抜けてから守備中心のサッカーに切り替えますけど、そうではなくて予選からあのサッカーを貫いて磨いてやったらどうなるのかなというのはあります」

浅野「クラブシーンとは別に世界の代表シーンの流れでいうと、今は確かに互いが相手の良さを消すつまらなくなる方向に行っているんだけど、これでずっと良しとするわけではないので、ここからまた突破する流れが、しかも今のサイクルで考えると比較的早い段階で出てくるのかなと。だからそれを見逃さないこと。日本が世界に対して強みを発揮するとしたら、バルセロナ的スタイルの延長線上にあるのかなと僕は思っているので」

川端「JリーグはDAZNマネーをどう使うかですね。大物選手を獲るとよく聞きますが、僕は指導者に投資すべきだと思います。例えばJリーグにGKコーチの外国人指導者はほとんどいなくなってしまいましたが、これがいいとは思わないんですよ。もう一つはフィジカル。筋肉を鍛えるという部分で外の知恵を借りる。科学に投資するというマインドはもっとあった方がいい」

浅野「ベースですからね。ラグビーの成功も結局はそこにあったし。また世界に学ぶフェーズになって来たのかなと。未来への展望が見えにくい今だからこそ世界のサッカーを見てねということで」

川端「フットボリスタがそれを追いかけていきますよってことなんじゃないですか?ヨーロッパを追うだけじゃなくて、日本サッカーとヨーロッパという視点は創刊の理念として失わないようにお願いしますね!」

 

Akihiko Kawabata
川端暁彦

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』を始め、各種媒体にライターとして寄稿する他、フリーの編集者としての活動も行っている。2014年3月に『Jの新人』(東邦出版)を刊行。

Photos: Getty Images