オーストラリア代表の攻撃を操っているアーロン・ムーイ(左)とトム・ロギッチ(右)【写真:Getty Images】

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プレミアでチャンス掴んだ「GK大国」の気鋭

 2018年ロシアW杯アジア最終予選を戦っている日本代表。8月31日には勝てば本大会への切符を手にするオーストラリア戦に臨む。ハリルジャパンは“サッカルーズ”ことオーストラリア代表の誰を警戒すべきなのだろうか。オーストラリア在住の記者が要注意人物5人をピックアップする。(取材・文:植松久隆)

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 今回、フットボールチャンネル編集部からは既に来日したサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)の要注意選手を5人挙げて欲しいとの依頼が来た。それはそれで、さほど難しくはない。

 一般的な日本のサッカーファンが名前と顔を一致して覚えているサッカルーズの選手たち上位5人を最重要選手として挙げても、ほぼ間違いはない。しかし、それでこの原稿を仕上げてしまうのはあまりにも乱暴だ。当然ながらもう少し掘り下げる。

「豪州代表の選手で誰を知っていますか?」という質問をぶつけると、おそらくティム・ケーヒル(メルボルン・シティ)の知名度がダントツだろう。日本の“天敵”ケーヒルについては、わざわざ私がここで書かずとも他で取り上げるはずだ。

 実際、有力スポーツ紙の28日付の一面では、どアップの彼が親指を立てていた。ここでは、あえて彼にはお休みいただいて、他の22名から5名を選出しよう。

 このチームの核となる選手は、はっきりしている。23名のメンバー発表時にもアンジ・ポスタコグルー監督は、欧州の高いレベルでプレーしている選手への信頼は揺るがないとして、具体的な名前をいくつか列挙した。

 その選手たちも代えの利かない選手たちということになる。その時には、守護神のマシュー・ライアン、司令塔のアーロン・ムーイとトム・ロギッチ、そしてマシュー・レッキーの名前も挙がった。

 世界最高峰のイングランド・プレミアリーグでプレーしている時点で前述の内の最初の2人が実力上位なのは当然のことだ。この2人に関しては当然ながら要注意選手に挙げる。

 まずは守護神のライアン。あまり知られていないが、豪州は「GK大国」だ。黄金世代と呼ばれたハリー・キューウェルの世代には、プレミアで長くプレーしたマーク・シュウォーツァー、マンチェスターユナイテッドの正GKだったこともあるマーク・ボスニッチ、ACミランなどでプレーした“スパイダー(蜘蛛)”ことゼリコ・カラッチなど素晴らしいGKを続々と輩出した。

 その中でも、豪州代表の歴代最多キャップ保持者でもあるシュウォーツァーは長年、代表チームのゴールマウスに君臨し続けた絶対的守護神だった。現在でも守護神のライアン以下、代表クラスのGKの5番手くらいまではかなりの実力者揃いで、代表の3枠を争う競争はいつも熾烈だ。

サッカルーズを攻撃を司る2人のMF

 時代を担う気鋭の若手として期待を一身に集めてきたライアン。19歳年少の新星の登場とその成長ぶりを目の当たりにして、シュウォーツァーは2013年11月に41歳で代表引退を決意。それ以降、ライアンが一貫してサッカルーズの正GKとしてゴールマウスに立ち、25歳にして積み上げた代表キャップは既に35で、109を積み上げた大先輩を上回るペースを維持している。

 そのライアンは、ショット・ストッパーというイメージが強いが、実は足元の技術にも自信を持っている。総合的な完成度の高さを誇る守護神が、決定力不足という宿痾(しゅくあ=長く治らない病のこと)を克服しつつゴールに迫る日本攻撃陣の眼前に立ちはだかることになる。

 続いてはムーイ。今年からプレミアリーグに昇格したハッダーズフィールドの柱は、殺到するオファーを断り、所属元のマンチェスター・シティを双方合意の下で退団。完全移籍でレンタル先のクラブに戻って、大いに男を上げた。

 まもなく27歳になるムーイは決して若くない。昇格クラブで確実に自分の力を発揮して、ハッダースフィールドのアイコン的存在として、まずは残留を確実にしてからその先を目指すというキャリア設計を立てた。

 彼にとってもクラブにとってもプレミア初参戦の今季、ムーイはホーム開幕戦で技ありのミドルシュートを叩きこむなど、序盤4試合で3勝1分けと負けなしのロケットスタートを先頭に立って牽引する。

 そのムーイは、ボランチのレギュラーであり主将を務めるミレ・ジェディナクの不在を受けて、今回の日豪戦ではポジションをひとつ下げてボランチの位置から攻撃のタクトを振るうことも考えられる。そうなれば、最前線に近いところでより頑張らなければいけないのが、もう一人の攻撃の要であるロギッチだ。ムーイより2歳若い彼を第3の注目選手として指名しよう。

 長身の技巧派MFは、その展開力や思い切ったミドルシュートなど引き出しの多いプレースタイルで、スコットランドの名門セルティックで確固たる位置を掴んだ。そこでの刺激的な日々が、元々のポテンシャルを開花させ、自信を日に日に深めている。代表でも自分より若い選手が少しずつ増えてきたこともあって精神面での大きな成長を見せるなど、今、まさにフットボーラーとして充実の時を迎えつつある。

独り立ちしたエースFW、そして風格漂う守備の柱

 4人目にも攻撃的な選手の名前を挙げる。センターFWであるトミ・ユリッチの独り立ちがなってから、サッカルーズは正式に「ケーヒル依存症」を克服した。その意味では、現在のサッカルーズ最大の得点源であるユリッチの名前をこのリストに載せないわけにはいかない。

 2016年から17年に掛けてのW杯最終予選の戦いの道程は、それすなわちユリッチの独り立ちの過程でもあった。移籍したスイスリーグのルツェルンでエースFWとして活躍を見せるようになってから、代表でのパフォーマンスも上向きになった。この最終予選では4ゴール、コンフェデレーションズ杯のドイツ戦でもゴールを奪うなど確実に結果を残してきたことで、最近は貫禄も身についてきた。

 実はユリッチの代表デビューは2013年、事実上のB代表で臨んだ東アジア選手権だった。彼自身にとって2試合目となる大会2戦目の日本戦で、代表初ゴールを決めている。さらには、同じ試合で日本代表FW大迫勇也が2得点を挙げ、その1点目は彼にとっても代表初ゴールだった。それから4年の月日が経ち、それぞれ日豪両国のエースFWに育って相まみえる試合で、どちらのエースが意地を見せるのか――そんなところにも少しマニアックながら注目したい。

 前線のユリッチ、攻撃的MFのロギッチ、ボランチもできるムーイ、最終ラインをひとつ飛ばしてGKのライアンと来た。便宜上飛ばしたが、現在のフォーメーションの肝である3バックの最終ラインに言及しないわけにはいかない。サッカルーズの“センターライン”の最後のピースを埋めるのは、この男しかいまい。サッカルーズ次代のキャプテン当確とされる守備の要、トレント・セインスベリーだ。

 今年で25歳とまだ若いセインスベリーだが、3バックの要で守備をまとめる立場になってからは、リーダーの風格が漂ってきた。今回は、ジェディナク主将の不在で戦うサッカルーズだが、マーク・ミリガン、ケーヒルといった経験者を差し置いて、日本戦のピッチにキャプテンマークを巻いたセインスベリーの姿があっても私はまったく驚かない。

革命の集大成を見せるか。本気の“カンガルー”が”サムライ”を襲う

 その若きディフェンスリーダーが、同い年のベイリー・ライト、二つ年下になる23歳のミロシュ・デゲネクとで組む3バックは、まだ新しいフォーメーションになって日が浅いために、ともするとサッカルーズの弱点として指摘されてしまいがちだ。実際、このシステムになってから5試合を戦ったサッカルーズは、いまだに完封試合、いわゆるクリーンシートがない。

 しかし、その3バックも試合を追うごとにコンビネーションが磨かれてきており、先のコンフェデレーションズ杯では世界の名だたる強豪相手に3試合4失点とディフェンスラインが破綻することなく乗り切った。

 そのDF陣の今回の日豪戦に向けてのモチベーションは、「日豪戦という大舞台でのクリーンシート達成」ということになる。もし、それが達成されれば豪州には負けがないということ。

 日本にとってはまったく考えたくないシナリオだが、若きリーダーのセインスベリーに率いられる守備陣は激しいディフェンスでそのタスクを果たすべくぶつかってくる。日本にとっては何とも厄介な話だ。

 アンジ・ポスタコグルー監督は、自らの任期を2018年大会までと公言している。ということは、もし、この最終予選で敗れるようなことがあれば、そこで「ポスタコグルー革命」とも称される豪州サッカーの進化は終わりを迎える。

 その過程で辛苦を共にして、今や監督に心酔する現代表選手たちにしてみれば、少しでも長くポスタコグルー体制を維持したい。そして、日本という最大のライバルとの決戦の場で、今までと違うサッカルーズを披露したい。そんな考えで臨んでくる相手はいつものサッカルーズに輪をかけて厄介な相手だ。

 サッカルーズがサムライブルーに牙をむくとき、そのピッチで輝きを放つ選手たちの中には、ここに挙げた5人の姿が間違いなくある。この5人を中心に据えて、サッカルーズの面々は「ポスタコグルー革命」の、そのエッセンスを埼玉の地で具現化しにくる。

 引き分けなら解任など、どうでもいい。勝つと信じてぶつかるしかない。それができないならば、荒ぶるボクシング・カンガルーからの容赦のない一撃を喰らうことになりかねないぞ、日本。

(取材・文:植松久隆)

text by 植松久隆