ぴあが手掛けるコンサートアリーナの完成予想図。

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チケット販売大手のぴあは7月、横浜・みなとみらいにコンサートアリーナを建設すると発表した。収容人数は約1万人で、この規模の大型ホールを民間が単独で建てて運営するのは珍しいという。2020年春に開業する予定で、東京五輪・パラリンピックの影響で不足するホールや会場を補う計画だ。

■拡大続けるライブ市場、会場の供給足りず

新アリーナは横浜高速鉄道みなとみらい線みなとみらい駅から西へ徒歩7分の場所に建設する。土地は三菱地所から1万2000平方メートルを借り受けた。地下1階、地上4階建てで、延べ床面積は約2万1000平方メートルとなる予定だという。

敷地内には路上ライブができるスペースやオープンカフェを設けることも検討している。今年12月に着工する予定で、初期投資額は約100億円。収容人数では大阪の大阪城ホールと同等となる。

ぴあ総合研究所によると、16年の音楽ライブ市場規模は3401億円(速報値)で、1634億円だった11年の約2倍に成長した。物を買う「モノ消費」が低迷する中、体験やサービスを享受する「コト消費」が拡大していることが背景にある。

一方、ぴあの小林覚取締役は「今、ライブやコンサートが開催できるイベントホールが日本で不足している」と現状を説明する。ニーズが増え続ける一方、1万人規模以上の大型ホールが首都圏で建設されたのは00年に開業したさいたまスーパーアリーナが最後だという。老朽化のため改修や立て替え工事も各地で随時行われている。

東京五輪も会場不足に拍車をかける。大会期間中、大規模なアリーナやスタジアムは五輪に“占拠”されるため、必然的に音楽イベントなど五輪以外の開催は制限されることになる。

小林取締役はこの状況を「音楽業界の不幸だ」と嘆く。「市場はまだまだ伸びるのに会場がなく、頭を上から押さえつけられているようなものだ」と東京五輪への対抗意識を隠さない。

ぴあは東日本大震災以降、東北や東京で小規模ホールの運営をし復興支援を目的としたチャリティーイベントなどを開く事業に取り組んできた。そこで培ったノウハウをみなとみらいでも生かす考えだ。

「民間でも1万人規模のアリーナの運営ができることを我々が証明すれば、後追いする会社も出てくるかもしれない。それで日本にライブ会場が増えれば音楽業界全体の底上げにつながり、本業であるチケット販売との相乗効果が生まれる」

■大胆投資に不安の声も、新たな登竜門になれるか

一方で音楽業界に詳しい楽天証券経済研究所アナリストの今中能夫氏は「投資額100億円に対してぴあの純資産は約80億円。さらに、ぴあの営業利益率は1.1%と低いので、大きなアリーナの建設はかなり大胆な投資だと感じる」と指摘する。

地方では劇場の苦戦が顕著だ。「名古屋三座」の名鉄ホールは15年に閉館し、同じく中日劇場も来年春に閉鎖する予定だ。もう一つの御園座も経営再建中で、現在は劇場の上層部がマンションになる一体型ビルへの建て替えが実施されている。

だが今中氏は「みなとみらいは交通の便がとてもいいうえ、1万人規模の会場は特に人気が高い。ライブ産業は不況にも強く、アリーナ事業がぴあの新たな柱になる可能性も十分に秘めている」とも分析する。

また、小林取締役も「まだ検討段階だが、ステージの真裏に大きな搬入口を設け、ライブの設営をしやすく設計する。搬入、搬出が極めて楽になるので、競争優位性としてかなり使えるはずだ」と話す。

満員にすることができれば“売れっ子”の証しになる日本武道館(東京)も1万人規模の会場だ。ぴあの新アリーナも人気アーティストを夢見る若きミュージシャンの登竜門となる日はくるのだろうか。

(鈴木 聖也)