市場規模8.7兆円 社会的事業への「資金の流れ」を変えるには

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起業家のお金や知恵を効果的に社会貢献に活かす-。同テーマで提言を行う新経済連盟理事の井上高志(LIFULL創業者)に、今後の可能性を聞いた。

-2017年4月、「社会的課題の解決を意図した支援の促進」に向けた新たな提言書を公開されました。新経済連盟はなぜ、この領域に大きな関心を寄せているのでしょうか。

井上高志(以下井上):動きが加速したのは、15年12月に新経連代表理事の三木谷浩史とビル・ゲイツが同テーマで対談したことがきっかけです。

ビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめ、欧米の資産家はアントレプレナーシップを社会的貢献へ活かす方が多い。それに比べると日本はまだ少ないですが、経済規模を考えれば、広く浸透した時のインパクトは非常に大きい。そこで、新経連としても主体的に社会的課題を解決していくため、プロジェクトチームを設置しました。

日本においても環境面を整備すれば、社会的事業へ資金が流れ込むと考えています。日本の公益性の高い資金は、公募ベースや単発の助成金など短期のものが中心であり、中長期的に社会的企業の成長を支援していく資金・経営支援が乏しいのが現状です。

中長期視点の有効な打ち手となるのが、非営利組織や社会的企業に対して資金提供・経営支援を行うことで社会的課題の解決を加速させていく手法「ベンチャー・フィランソロピー」や、経済的リターンと並行して社会的課題の解決を追求した投融資「社会的インパクト投資」です。

例えば、米国のベンチャー・フィランソロピー「New Profit」は、1998年の設立以後、44の団体に対して約132億円以上の支援を実施してきました。原資は寄付などリターンを求めない資金です。支援分野は教育や公衆衛生など、経営支援にはデロイト等が参画しています。

一方、社会的インパクト投資を手掛ける英国「Bridges Ventures」が02年に設置したヘルスケアや教育などの分野で社会的価値を積極的に生み出す組織へ向けた専門ファンドでは、支援対象1件当たり約2.8億〜28億円を支援しており、1.6倍から22倍の高いリターンを得ています。

社会的事業、年間8.7兆円規模の可能性

-日本においても、こういった活動が欧米並みに広まった場合、どのくらいの経済的効果が見込めるのでしょうか。

井上:GDP比で試算してみると、ベンチャー・フィランソロピー等は年間約998億円から約1730億円へ、社会的インパクト投資は年間約337億円から約3920億円へ、社会的事業が年間約0.2兆円から約8.7兆円へ拡大します。日本はこれだけの市場規模に育つ潜在力を秘めているのです。

世界全体で見ると、15年の社会的インパクト投資額は約8兆円にも達しています。欧米だけでなく、インドなどでも広がっているため、現段階の日本はこの領域においては発展途上国だといえるでしょう。

そこで我々はまず、お金の出し手側の立場から、制度的課題の解決と環境整備に注力しています。今の制度はお金を出しづらい枠組みになっているのです。

例えば、財団法人や社団法人が公益認定を取得すると収支相償原則が生じます。基本的に単年度での厳格な収支均衡が求められ、各事業年度で生じた剰余金は原則として翌年度中に費消しなければなりません。これにより、公益法人は研究開発費や奨学金など、毎年度の費用が見通しやすい短期的な支援に偏りがちで、地方創生や少子化対策なども含め、中長期的に資金のやり繰りが必要となる支援に取り組みにくくなっています。

-その他には、どのようなことでしょうか。

井上:自民党の社会的事業に関する特命委員会でも、色々と意見を述べさせていただいています。例えば、欧米には民間団体による社会的企業の認証制度「B corporation」のほか、公的なものも含めて様々な認証制度が存在します。社会的企業の定義として、非営利法人の他、営利法人でもそれに該当し得るという背景に立った枠組みです。しかし日本では、非営利法人・営利法人に共通した社会的企業の認証制度がないため、社会的企業に対する積極的投資を志向するファンド等を設けること自体が困難になっています。