都市の緑、保存する建物づくりを 自然と暮らしをつなげる「里山一体マンション」を巡る

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自然と人の暮らしをつなげつつ、長い歴史を持ってきた里山。近年、その維持管理が難しくなってきている。里山とは人の手が入ってこそ成り立つが、特に首都圏では伐採され、開発されてしまっているのが現状のようだ。しかし、すでに1980年台から「里山を残しつつ、そこに溶け込むマンション」をつくることで、自然と建築物の調和を目指してきた建築会社がある。その株式会社sum design の代表井出敦史さんに話を伺ってきた。

鳥になって空から見たときに美しい風景を作りたい

株式会社sum designのオフィスは、横浜市内と思えないような環境のHOMES20という集合住宅の中にある。お伺いしたときは真夏の昼間だったが、セミの声が響き渡る丘は、樹影が深く駅の近くより確実に涼しい。5階建ての建物の高さをはるかに越える木々がコンクリートの建物と見事に調和していた。

「弊社が目指すのは、新築時がベストではなく、10年20年の時間を経て徐々に完成していく建築物だと考えています。これは『斜面の魔術師』と言われた父の手法の体現でもあります。この建物も1990年に建築されたので、そろそろ完成形に近づいたと思っています」と井出さん。植樹をする際に大切にしているのは、元々そこにあったであろう植物を中心にして、なるべく外来種を取り込まないようにすることだそうだ。「そうでなくても種になって飛んできたりして、元々の生態系が壊れていくこともあります。その土地の気候風土に合った植物はそこで暮らす人にとっても安らぐと思っています」(井出さん、以下同)。

快適な住まいには街づくりから考える必要があると井出さんは話す。
「我々は自らが鳥になって空から眺めた時に違和感のない美しい風景を作りたいと思っています」
用途地域ごとに区切ってしまうのではなく、随所に森を残すような街づくりが理想だとのことだ。
「戦後、日本の建物は屋根の美しさを無視してきたような気がします。建築物だけが特異な存在として際立つのではなく、周囲の環境に建物が溶け込んでいるような感じを思い浮かべています」

【画像1】井出敦史氏(写真撮影/片山貴博)

自ら土地(里山)を手に入れ、デベロッパーとして分譲

斜面開発を得意とし「斜面の魔術師」の異名を持つ父親 共治氏の代から緑と調和する建物を作ってきた。そして、傾斜地に寄り添うように建てられたものが多い。しかしどんな傾斜地でもいいわけではないそうだ。
「季節や時間、天候を変えて、何度も何度も足を運んで、その土地の持つ力や個性を確認することにしています」
そうやってほれ込んだ土地だから、自分自身が設計するだけでなく、デベロッパーに売り込んで事業として成り立たせることもあった。

オフィスのあるこの建物は、なんとsumdesign(旧SUM建築研究所)が自らデベロッパー会社を設立し、分譲することにした。
「傾斜地は不動産としては価格が抑えられている場合が多いです。しかも南斜面に価値があると思われていますが、私は北斜面のほうがポテンシャルは高いと思っています」
自然の葉は南向きが表になっているので、北側から眺めたほうが自然の美しさは際立つと教えてくれた。また建物の高さによって、風景の味わいは異なるが、それぞれに良さがあるので、分譲価格はどの階も同じに設定したというのも特徴的だ。

【画像2】バルコニーからのぞむ、時を経て建物と一体化した植栽(写真撮影/片山貴博)

片側廊下を作らず風が通る設計、無垢材を使った室内

sum designのオフィスは事務所とは思えない空間だ。避暑地の別荘を思わせる。まず室内を囲む床、壁、天井のすべてがチークの無垢材が使用されている。
「集積材などに比べて、確かに均一性はありません。でもそれは木が本来持っている特徴なのです。湿気や乾燥で膨らんだり縮んだりすることを味わいとして楽しむ、ついた傷を家族の歴史として楽しむ、そんな人たちが賛同して私たちの作るものを受け入れてくれていると思っています」
と井出さん。

またマンションの設計によく見られる片側が共用廊下で片側が開口部という設計も採用していない。南北あるいは東西といったように開口を作り、風が抜けるような設計になっている。
「日本の建物は、本来風が抜けるように作られています。高温多湿な気候に合った作り方がされていたのです。その特徴を取り入れるようにしています」

エントランスに管理員の方はいるが、オートロックや共用のラウンジは作っていない。
「1軒ずつの家が集まった住宅の集まりなので、防犯は各住戸で考えればいいと思っています。また機械で完結するものではなく、『人』だと思います。ここは20戸というスケールのせいもありますが、見知らぬ人が入って来ると、すぐに気が付きますからね」

【画像3】無垢のチーク材が南国のリゾートホテルのような設えのオフィス(写真撮影/片山貴博)

竣工時から長く住み続けてくれる住人が多い

「やはり住んでいる人も自然や植栽にこだわりの多い人が多いです。管理組合での話し合いもおのずと熱くなりますね。それだけ皆さん大切に住んでくれているということだと思います」
井出さんによれば、新築時から住み続ける住人の割合が多いそうだ。

また長く住み続けるために、自然に生まれた法則もある。エレベーターを作らなかった集合住宅では、年齢に応じた住み替えが同じ集合住宅内で行われていることもあるという。「上階に住まわれていた方が年齢を重ねて階段の上り下りがたいへんになると、下の階に住んでいた若い方と交換されて住み続けてくれたりしています。他の集合住宅では珍しい例ではないでしょうか」

どうしても均一になりがちなマンションでありながら、井出さんたちの作る集合住宅の存在はかなり特殊かもしれない。しかしどの外観写真を見せてもらっても、竣工時よりも10年20年経った姿のほうが美しい。建物と植えられた木々が一体になっている。

井出さんが自宅として住んでいる「ヒルサイド久末」は、2013年に日本建築家協会25年賞を受賞している。建物の経年後の美しさはもちろん、住民の建物への愛情という意識の高さも評価されている。あらゆる意味で集合住宅のあるべき姿として参考にしてほしいと思う。

●取材協力
サムデザイン
(四宮朱美)