挑戦する前に諦めてしまう人に届けと願って、物議も厭わずに送った羽生結弦氏の思いのリレー。
「沖縄では日テレが映らないんです!」

そんなことを言い訳にするなと怒られそうですが、仕方なかったのです。僕自身もビックリしました。夏の心身回復のためにこの週末、僕は沖縄にいました。現地ではオリオンビールなどを飲みながらゆっくりとテレビを見て、ノートパソコンでカタカタやろうと思っていたのです。しかし、沖縄では日本テレビ系列が映らないということを、テレビの番組表を見て初めて気がつきました。

その結果、日本テレビ系で放映された「24時間テレビ」における羽生結弦氏の演技についても、帰京後に録画で確認することに。そして、その出演コーナーの告知が物議を醸しているということも、一周遅れて把握するような形となりました。SNSで流れを追えば、もらい事故のような格好で羽生氏が巻き込まれているようすも見られます。なるほど、これはせっかくの羽生氏の想いが損なわれるようで、残念な話です。

ただ、それはあくまでSNS上だけの懸念であり、改めて見た本放送というのは、とても価値のあるものだったように思います。小児ぜんそくを患いながらフィギュアスケートに打ち込む少年に、まさに同じ境遇の体験者としてのメッセージを送る。それは誰にでもできることではなく、羽生氏だからできることだったと思います。そこに出るだけの理由があるものでした。

そして本放送を見れば、SNSで騒がれているようなことを感じる人はいないだろうなと安心できるものでした。確かに本放送でも冒頭のナレーション部分で「羽生はぜんそくを言い訳にはしない」というフレーズこそ出てくるものの、羽生氏自身の言葉でぜんそくへの向き合い方というのが直後に語られるので、誤解を生むようなこともないでしょう。

↓羽生氏自身はぜんそくは「自分にとっては普通のこと」と受け止め、その「普通」のなかで頑張っている!

羽生氏:「まぁ、苦しいは苦しいですけれども」

羽生氏:「僕らぜんそく持ちの選手たちとかからしてみたら」

羽生氏:「たぶんそれが“普通”なので」

羽生氏:「自分がぜんそく持ちだから、こんなにも競技がしんどいとか」

羽生氏:「そういう思いはほとんどなかったです今まで」

(場面変わって、ぜんそくの少年との生電話に)

羽生氏:「せきいっぱい出る?つらいね」

羽生氏:「僕もそういう経験すごくあったし」

羽生氏:「今もあるんだけど」

羽生氏:「みんなと違う経験してるかもしれないけど」

羽生氏:「自分にとっては普通じゃない?」

羽生氏:「だから別に人と比べる必要はないよ」


羽生氏:「自分がそれが普通だと思うなら」

羽生氏:「それを克服するために」

羽生氏:「いっぱい頑張ればいいと思います」



言い訳にするとかしないとか我慢するとかしないとかじゃなく、「普通」なんだよね!

それが自分なんだから、その「普通」のなかで生きていくしかない!

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羽生氏はこの少年のもとに赴き、短い時間のなかでもスケートの指導をします。また、少年が実際にアイスショーで見たという郷ひろみさんとのコラボ演目を目の前で滑ります。目の前だからこそ「難しいことをやりたい」として、4回転を含む難度の高い構成で。練習の中で伝えた言葉、そして演技を通じて伝えた思い、それこそがまさに羽生氏のメッセージ。想いが詰まった、贈り物だったように思います。

苦しいとき、辛いとき、「大丈夫」「できる」という励ましが届くでしょう。しかし、言葉は所詮言葉。いくら「大丈夫」と言われても、自分自身が「大丈夫だ」と思えなければ意味がありません。疑いを持つ心に響くのは、事実であり体験です。「できる」ではなく「できた」だけが芯に響くメッセージとなる。

羽生氏自身もまた、そんな「できた」に励まされたひとりだと言います。ぜんそく持ちのアスリートとして広く知られるスピードスケートの清水宏保さんに会う機会を得た当時15歳の羽生少年は、「僕も金メダル獲りたいんです。ただ、ぜんそくだから…」と語ったのだとか。しかし、そんな羽生少年に清水さんは「大丈夫」と語りかけ励ましたといいます。

治療をしながら競技をつづけているのであれば、当然医師の言葉であったり、アドバイスであったりも受けていたでしょう。ある程度「やれる」という気持ちもあったはず。しかし、それでもなお疑う気持ちが残るからこそ、羽生少年は清水さんの言葉を求めたのだろうと思います。同じ境遇からでも「できた」人に、背中を押してもらいたかった。そして、チカラを得た。そんな経験を自分自身でもしていたのでしょう。

「できない理由」を見つけるのはわりと簡単なものです。お金がないから、時間がないから、探そうと思えばいくらでも出てきます。特に病気や身体的な不自由というものは、本当にできないことが生じる要因でもあり、それだけに大きな理由になるものです。ただ、「できない」のと「諦めてしまう」というのはちょっと違う。区別がつきにくいために、すべてを「できない」に入れてしまいがちではありますが、実は諦めてしまっているだけということがたくさんあるはずです。

そうじゃないんだということを伝えられるのは諦めてしまわなかった人、できた人なのだろうと思います。全員に金メダルを約束するなんてことは当然あり得ないですし、どんな症状のぜんそくであっても乗り越えられるというわけでもありませんが、挑戦する前に諦める必要はないんだと、清水さんや羽生氏のような「できた」人が何度も何度も繰り返し伝えることは有意義でしょう。いつ、どこで、そのメッセージが「挑戦する前に諦めてしまいそうな人」に届くかはわからないのですから。

今回物議を醸したことで、テレビに関わらなければよかったという意見も出るかもしれませんが、僕はそうは思いません。テレビやメディア、その中でも「24時間テレビ」なんていうのは、嫌っている人がたくさんいる番組ですし、今回のような巻き込まれ事案も生みやすい舞台です。何をやっても非難されやすい場ではある。ただ、そうした舞台が今なお強い発信力を持っていることは事実であり、どこにいるかわからない誰かにメッセージを伝えるための有力な手段であることは間違いないのです。

スケート教室に行って背中を押してもらうよりももっと手前で諦めてしまっている誰かに、諦めることはないと届けるには、そうしたチカラを借りることも必要なのです。そして、諦めてしまう人の周囲にいる「諦めさせてしまう人」にメッセージを届けるためにも、こうしたチカラは助けとなるでしょう。むしろ、そういう人にこそ届いてほしい。

24時間テレビを見ている人、作っている人のほとんどは「鳥」です。鳥は人間を見て、翼がない、飛べない、地べたを這いずる生き物だと憐れに思っているでしょう。ただ、人間にとっては翼がないことも飛べないことも「普通」です。悲しくもないし、辛くもない。そして、自分自身では飛べないことは確かだけれど、大空に憧れ、いろいろな工夫をしながら近づいていくのです。

見下ろしている人、「普通ではない」と思っている人こそ、一番の「挑戦する前に諦めてしまう人」です。そういう人が傍らにいれば、周囲の助力があれば諦めずに済んだことまで、「できない」に振り分けられてしまう。スケート教室で掛けられた言葉をも上書きして、「やっぱりダメなんだ」と本人にも思わせてしまう。

羽生氏がテレビを通じてこのメッセージを発信したことは、諦めてしまいそうな誰かだけでなく、諦めさせてしまいそうな誰かにも、同時に思いを伝えていくことにつながったはず。もしかしたら、物議を醸した告知ツイートさえも、物議を通じて思いを伝えることにつながったかもしれない。テレビだからこその残念さも、テレビだからこその力強さも、両方あっただろうと思います。

金メダルは世界で一人しか獲れないけれど、挑戦することは誰にでもできること。「普通じゃない」と思われている人も含めて、「挑戦したけれどダメだった」という当たり前の気持ちになれるなら、たとえ飛べなかったとしても、誰もが経験する「普通」のこととしての納得があるはず。羽生氏の思いがたくさんの人に届いてくれたなら、この物議もこらえる甲斐がある。僕はそう思うのです。



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本当に必要な人に届けるためには、物議を恐れてはいられない!