一くくりに日本食といっても様々な食べ物があるが、海外で人気のある日本食はラーメンや寿司といったものや、日本の伝統的な和食だ。

海外に和牛を使った日本の焼肉文化を広めようとシンガポールにお店を開いた日本人がいる。日本で人気の焼肉サイト「YAKINIQUEST」を運営していた石田傑さんだ。

食べ歩きがキャリアのスタート

石田さんは2004年に焼肉サイト「YAKINIQUEST」を開設。当時は焼肉情報を伝えるサイトは少なく、ブログも盛り上がっていなかったので、美味しい焼肉情報を多くの人に伝えるべくサイトを開設したそうだ。

その時はお店を開くことは考えておらず、焼肉の食べ歩きを続けた結果、「日本人の焼肉の素晴らしさを海外に広めたい」という思いが芽生え、知人のつてもあってシンガポールにお店をオープンした。

筆者も都内だけでなく何度もこのサイトを参考にさせてもらい、焼肉を食べ歩いた。一般的なグルメ情報とは違い、1500軒ものお店を食べ歩いた人の感想はとても読みごたえがあり、説得力があった。

和牛は外国人に評判

ここ数年、海外でも和牛の評価は高く、牛肉を食べる目的で日本を訪れる熱心な外国人がいるほど。中には和牛を食べるために日本全国を回ったり、飛騨高山まで飛騨牛を食べに行く外国人旅行者もいるという。

日本まで牛肉を食べに来る外国人観光客はほんの一部ではあるが、海外のレストランの中には和牛を扱うお店も存在し、その評価も高い。

日本国内において和牛は日本国内で生産した日本由来の4種類の血統の牛肉を指す言葉だが、日本の和牛の種を海外で育てた”海外産のWAGYU”というものが国外には数多く存在する。

海外産のWAGYUの中にも品質が高いものはあるが、純血の和牛種でない場合があったり、エサや生育環境も違うため、日本で生産された和牛とは味に大きな違いがある。

海外のお店の中には、日本で育てた和牛と誤認させるような案内を行っているところも存在する。石田さんは自身が運営するお店で絶対そういったことがないように心がけているそうだ。

食べ歩き経験から見えた焼肉業界

石田さんは年間150軒程度の食べ歩きを10年間以上続けたことにより、足で稼いだ様々な情報が集まった。食べ歩き情報をネットに公開するだけでなく、焼き方についても情報を発信してきた。

自らの食べ歩きの経験を活かし日本の和牛文化や、日本人の焼肉の楽しみ方を世界に広げるために、和牛の質、カット、焼き方、味付けにまでこだわったお店をシンガポールに開いたそうだ。

焼肉屋さんは横のつながりが少なく、カットの仕方やタレの作り方などに関して情報交換を行う機会などは多くはないが、石田さんは様々なお店を食べ歩いたことで、焼肉店で修業した人とは違う焼肉を提供することができているそうだ。

特にサイトのYAKINIQUESTで有名だったのは「焼奥義」と言われる美味しい焼肉の焼き方。焼きムラを防ぐために、肉を箸で水平方向に180°回転させる技「180° (わんえいてぃー)」や薄切りの肉を筒状に巻いて焼き、肉汁を逃さないようにする技「RRS (あーるあーるえす)」などがある。


シンガポールにある店舗版YAKINIQUESTでは、オーナーの石田さんやスタッフが目の前でこれらの技を披露。

うわみすじはジューシーさを残すために厚めにカットされており、焼きムラを少なくするように180°回転させ全体に火を入れ焼き上げる。

石田さんは「店員が焼き上げるスタイルを取っているので、最適な切り方、最適な焼き方で焼肉を提供したいんです。例えば厚切りのタンならば隠し包丁を入れたほうが火が通りやすくなるので焼きやすくなるのですが、肉汁が出てしまうので肉の旨味が逃げてしまうんですよ」と焼きながらこだわりを語ってくれた。

コースを食べてみた

今回はYAKINIQUESTのこだわりを満喫すべくスペシャルおまかせコース (120シンガポールドル≒約9800円)を注文してみた。コースはふろふき大根から始まり、牛肉の刺身や焼物、デザートまで楽しめる。

メインの焼肉は表面がカリカリとした触感に焼かれたながらもジューシーさを残したタン、甘めのタレに付けて食べるマキロース、卵と甘みのあるタレに絡めても負けないような存在感のあるサーロインなど、石田さんが選んだ高品質の牛肉を、最適な焼き方や味付けで食べさせてくれる。


途中で出てくるガスパチョは、野菜の味が舌をリフレッシュさせてくれる。コースの最後には和牛すじカレーか稲庭うどん、デザートにはアイスが出てくる。

タレも自家製で、関東では一般的な醬油や砂糖の味が立っているタイプではなく、和出汁を使ったタレ。「甘味やニンニクの効いた味の強いタレは毎日食べると飽きてしまうので、海外で日本式の焼肉を出すということもあり、和出汁味を感じられるタレにしました」とタレへのこだわりも語ってくれた。

海外で仕事をするのに困ったこと、芝浦の肉が使えない…

海外で和牛の焼肉店をオープンするにあたり、まずは肉選びが重要になってくる。芝浦といえば日本各地から牛肉が集まる日本一の食肉市場。市場から牛肉を調達して海外でお店を開くのであれば、ここで仕入れた肉を海外で使うのが自然だ。

しかし、残念ながら芝浦は日本政府が輸出解禁を目指し協議をおこなってはいるものの、シンガポール政府から認可を受けていないため、シンガポールには輸出することができない。

日本の一部の食肉加工場はシンガポール政府から認可を受けており、九州の食肉加工場もその中の一つ。現在店舗で使う牛肉は九州産をメインに日本から輸入を行っているという。


九州での屠殺や解体、真空パック詰めなどを行い、さらに国内の空港に輸送し各種手続きを行うために出荷まで10日ほど時間がかかってしまう。真空パックで輸出を行うので、鮮度は落ちにくいものの、内臓肉を海外に輸出する際はすべて冷凍になってしまうそうだ。
石田さんは和牛の輸出量が増えている現状もあり、芝浦でも輸出をできるようにするための体制づくりが必要と感じているそうだ。

ラーメンや寿司のような存在に!

ラーメン、寿司といった日本食は世界的にも評価を高めており、和牛の評価も高まっているが、まだまだ日本式焼肉は海外でブレイクしていないのが現状。

「和牛を使って、焼肉の楽しみ方をもっと世界に広げていきたいんです。焼肉は和牛という食材を最も美味しく食べられる料理方法だと思っています。様々な部位を最適なカット、最適な火の通し方で、しかも全て熱々の状態で食べられるのですから!また焼肉は比較的歴史の浅い食べ物なので、今後も進化の余地がたくさんあると思っています。日本人でも気づいていないような焼肉の楽しみ方を海外に紹介していきたい。シンガポールがうまくいけば、他の国、例えばアジア諸国やアメリカ、ヨーロッパなどにも展開して焼肉の魅力を広めていきたいと考えています」と語ってくれた。

IRORIOでは海外で活躍する日本人の飲食店を取材を行っていく予定です。第2弾は同じくシンガポールの宅麺を紹介予定です。