天地始粛(てんちはじめてさむし)とは、暑さも収まり秋の気配が感じられる頃ということです。「粛」には静まる、ひきしまるという意味があります。
現実にはまだまだ厳しい暑さが残る日々を過ごさなければならないようですが、自然はそのうしろに確かに季節のうつろいをしのばせているようです。
五感を研ぎ澄ませてやってくる秋を探してみませんか。


見えますか? 空の色のやわらかな移り変わりが……

青空の鮮やかさとまぶしさは夏の代名詞。水平線を越えてどこまでも広がる海にわくわくした夏の始まり。なつかしい里山の景色や夏祭りの華やかさにホッとひと息ついたつかの間の休み。いつまでも続くかに思われた夏の暑さのなかで、ふとした瞬間に水や空の色からいつのまにか鮮やかさがうすれてきているのに気づくことがありませんか。
ああ、夏も終わるのかなと感じる瞬間。それは木々の緑や花の色といった身のまわりの自然からだったり、いつのまにか夏が姿を消している街中のショーウィンドウのディスプレイだったり……。現実に残る暑さのなかでも季節の移ろいは見えるものですね。


聞こえますか? 蜩や法師蝉のなかに鳴く虫が……

「秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」
目にははっきり見えませんが、なんといっても風の音に秋を感じますよ、と詠ったのは藤原敏行朝臣。今から1000年以上前の平安時代、10世紀初めに編まれた『古今和歌集』にある歌です。研ぎ澄まされた感性をもっていた歌人たちが季節を変わり目を感じたのは、いつも吹いているなにげない風の中なんでしょう。ハッと気づいた秋の気配の驚きが、現代の私たちにもストレートに伝わってきます。
「牛部屋に蚊の声弱し秋の風」
時代が下がって江戸時代の芭蕉は蚊の羽音を声と感じて、しかも牛小屋で秋の風を感じるなんて。ユーモラスでのどやかな風景が浮かびあがってきますね。五官を開いて旅をつづけた芭蕉のひょうひょうとした一面を感じます。
エアコンの中で過ごすことが多い私たちの生活では、風よりも鳴きつづける蝉の声が変わっていくことで、過ぎていく夏を感じることが多いのではないでしょうか。暗くなっても鳴き続ける蝉のあいまに、じつは虫が鳴いていることに気づいたり、静かになった夜に聞こえてくる虫の音には心が癒されて、落ち着いた眠りに誘われたりします。秋の気配を感じるのはそんな時じゃありませんか。


味わいましょう! 夏に蓄えた稔りの味を

やっぱり食欲⁉ 暑さに疲れた身体には夏のエネルギーがたっぷり詰まった味覚をさがしてみませんか。真っ赤なスイカが並んでいた八百屋さんの店先も梨やいちじく、ぶどうといった秋の果物が並び始めています。旬の作物にはその時に必要な栄養素がたっぷりと含まれているといわれます。
秋は春に始めたことや心を決めて挑戦していることなど、成果を出していきたい時でもありますね。暑さもおさまり活動しやすい秋にむけて、充実した秋の味わいで英気を養っておきましょう。豊かな収穫があってこその恵み、今年の夏は雨が多く日照不足から作物のでき具合や収穫が心配されています。春分から数えて二百十日ももうすぐ。台風にはまだまだ注意が必要です。私たちの生活の元となる秋の稔りのためにも、作物が無事に収穫できる天候を祈りたいものですね。
見つけましょう、あなたのまわりの小さい秋!