ハンドの判定が下されず主審につめよる磐田の選手たち【写真:Getty Images】

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「今シーズンで一番、サポーターに後押しされたゲームだったなと思う」(名波浩監督)

 26日、明治安田生命J1リーグ第24節の試合が行われ、ジュビロ磐田はヴィッセル神戸に2-1で勝利した。24分に神戸DFがボールを手でかき出したもののハンドの判定が下されず、スタジアムが騒然となったこの一戦。“疑惑の判定”を受け、サポーターを含め磐田側のボルテージが高まる中、名波ジュビロの背番号40・川辺駿は燃え上がる気持ちを勝利への執念に昇華していた。(取材・文:青木務)

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 何としても勝たなければいけない試合だった。

 今シーズン、ヤマハスタジアムで開催されるホームゲームは1試合を除いてチケットが完売している。毎試合、大歓声を受けて戦えることは選手冥利に尽きるだろう。スタジアムの雰囲気は常に素晴らしいが、この試合におけるサポーターのボルテージは異様なほど高かった。

「こんな展開になったので、『絶対に負けたくない』という気持ちを、ベンチメンバー、上で見ている選手達、もちろん(欠場した中村)俊輔も感じてくれたと思う。この夏休みラストゲームでどうしてもサポーターに勝利を届けなきゃいけなかったですし、個人的には今シーズンで一番、サポーターに後押しされたゲームだったなと思う」

“12番目の選手たち”が作り上げた最高のムードに、名波浩監督は感謝を口にした。また、敵将・吉田孝行監督もこう振り返る。

「後半のいい時間帯に点が入ったが、その後に失点するのがあまりにも早かった。相手のホームということで、そこからスタジアムの雰囲気がガラッと変わった」

 明治安田生命J1リーグ第24節。ジュビロ磐田はヴィッセル神戸と激突し、2-1と逆転勝利を収めている。

 決して簡単な試合ではなかった。前半立ち上がりのピンチを切り抜けると、磐田が攻勢を強めた。24分にはアダイウトンの放ったループシュートが絶妙なコースに吸い込まれていくはずだった。しかし、カバーに走った渡部博文にクリアされてしまう。映像を確認すれば手でボールを弾き出した“ように”見える。ハンドであれば磐田にPKが与えられるべきだったが、主審、副審ともにCKを指示。ジャッジが覆ることはなかった。

 レフェリーの判定は尊重されなければならない。Jリーグからのアナウンスがない現段階(本コラムを執筆した8月28日)で、あのプレーをハンドと断定することは避けたい。

 だが、磐田としてはやるせない思いだっただろう。冷静さを取り戻すには時間が必要だった。しかし、自然と増幅する闘争心がチームをより強固なものにしたとも言える。

「あの判定で逆に火がついた。負けたらもったいなかったし、前節のセレッソ戦で引き分けている中では、今日の試合で逆転できたことが非常に大きいかなと」

 仲間たちと同様、川辺駿もまた燃え上がる気持ちを勝利への執念に昇華させ、チームを牽引するパフォーマンスを見せた。

中村俊輔の欠場を受け、ポジションを一列上げた川辺

 メンバー表が差し替えられたのは、試合1時間30分前のことだった。出場予定だった中村俊輔が体調不良のためベンチから外れ、新しいメンバー表には上田康太がスタメンに名を連ねていた。その時点で彼とムサエフがボランチを組み、川辺が一列前でプレーすることが予想された。

 果たして、21歳のMFはより相手ゴールに近いエリアで攻撃の一翼を担うことになる。だが、川又堅碁、アダイウトンを含めた前線3人の配置は普段とは違っていた。

 中村俊輔が出場する際は右シャドーに入る。もちろん、10番には自由が許されており、ボールのあるところに必ず顔を出して攻撃を操る働きが期待される。

 しかし、数手先が見えるから守備のリスクも察知できる。例えば、中村俊輔が左サイドにいる状態で守備へ切り替わると、レフティーは周囲に指示を出し、アダイウトンに最前線を、川又には右サイドを見るようスライドさせる。それぞれのポジションが変動しても、1トップ2シャドーの形は極力崩さないようにしていた。

 川辺にもシャドーの一角の役目が与えられるかと思われたが、実際はアダイウトンと川又で形成する2トップのすぐ下でのプレーとなった。

 3人の形について、試合後の会見で名波監督に尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「川辺がいることで最初から2トップにしていたので、前2人が並んでいる状況だった。90分全てとは言わないが、70%くらいはお互いが2m、3mのアングルを作って、必ず角度のあるところでお互いが見える位置にいてくれた。それがドリブルで運ぶカウンターが多く実った要因だなと。

 それから、川辺の位置も自由にボールサイドに顔を出していい、(低い位置に)落ちてもいいという中で、彼を経由して展開するというよりも彼が間、間を意識して、相手の守備を下げさせることを意識させた。『合格』とは言わないけど、まあまあだったかなと」

守備のときは1トップ2シャドーに。臨機応変な対処

 昨夏に小林祐希がオランダ1部のヘーレンフェーンに移籍してから、川辺はトップ下でプレーしてきた。元々、攻撃面で多彩な能力を発揮できる選手だけに、このポジションにも柔軟に対応。そして今回、中村俊輔の欠場によってトップ下でのプレー機会が再び回ってきた。

 とはいえ、磐田は普段【3-4-2-1】の布陣で戦っており、特に守備時にはこの配置の方が各々のやるべきことが明確になる。連勝を重ね、安定感を手にした要因のひとつがこのシステムの採用だった。「攻撃になったら自由にやっていた」という川辺はこう語っている。

「最初あまり守備がうまくいかなかったし、相手のセンターバックが持ち上がることが多かった。1トップ2シャドーにした方がいつもやっているし、やりやすさを感じたので守備の時はその形にした」

 相手の出方を見て臨機応変に対処できるのも、今シーズンの磐田が成長した点だ。川辺は守備に回った時にはシャドーの位置で対応し、攻撃ではトップ下として名波監督の要求を体現した。

 中村俊輔が不在とあってボール保持時のタメの作り方は普段と異なった。川辺はゲームをコントロールするというよりは、より相手にとって危険なエリアで決定的な仕事をしようとしている。

「あまりボールに近寄り過ぎずに間、間で受けて仕事をすることができたので、良かったかなと」

 そう振り返った背番号40だが、同点ゴールはまさにその意識が生んだものだろう。51分、上田康太のボール奪取からショートカウンターが始まると、アダイウトンのパスを相手ボランチとCBの間で受けた川辺が絶妙なスルーパスを送り、川又が冷静にネットを揺らした。

 ボランチから急遽ポジションが変わる中、ゴールに直結するプレーをやってのけた川辺。加速度的な成長を遂げる男はこの日、柔軟性と知性を見せつけたのだった。

「勝ち点40」は達成。指揮官が伝えた目標の上方修正

 神戸を叩いて勝ち点を上乗せしたものの、順位に変動はなく6位のまま。しかし、上位グループとの差は着実に縮まっており、5位のC大阪とは3ポイント差と背中が見えてきた。

 そして、この日の勝利で勝ち点を42に伸ばし、昨シーズンは届かなかった『40』の節目を軽やかに越えた。すでに名波監督は選手たちに目標の上方修正を伝えている。具体的なことは明かさなかったが、チームの視線はさらなる高みに向けられることになった。

 チャレンジャーとして一戦必勝の思いで試合に臨むサックスブルーにあって、『勝ち点40越え』はハナから頭になかったのかもしれない。もちろん、前年以上の成績を残す上での目安にはなったはずだが、現在の42ポイントに辿り着くまでにチームは多くの自信と手応えを掴んできた。

 今回の神戸戦は判定を巡ってヒートアップし、後半早々にはビハインドを背負った。それでも、最後に笑ったのはサックスブルーだった。何としても勝たなければいけない試合をモノにした彼らは、ダークホース的な立ち位置からも脱却しようとしている。

(取材・文:青木務)

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