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●OJT以外のクルー教育

全国展開するチェーン店にとって、商品・サービスの水準を北から南まで均一に保つことはひとつのテーマだ。たとえば飲食店ならば、メニューの味、接客サービス、店舗の雰囲気などを全国で統一するというのが一般的だ。

ただ一方で、チェーン店ながら各店舗で独自メニューを展開する手もある。カレーチェーンのCoCo壱番屋などが、店舗オリジナルメニューで有名だ。このように、メニューならば店舗限定・期間限定といった手法で、ほかのライバルチェーンに対して競争力を生みやすい。だが、接客サービスとなるとどうだろうか。オーダーの取り方、メニューの出し方、クレームの処理の仕方などがバラバラでは、消費者に不信感を与えることも考えられ、場合によってはそのチェーン店を利用してもらえなくなる。

そうした店舗によるサービスのバラつきを抑え、サービス向上に結びつけるユニークな施策を行っているチェーン店がある。ハンバーガーチェーン最大手の日本マクドナルドだ。

○座学でマネジメントを学ぶ

何がユニークなのかというと、「ハンバーガー大学」という教育部門を設けていること。ここで人材育成に取り組んでいる。

仮に、飲食店にアルバイトとして入店したと考えてみてほしい。メニューの調理の仕方、接客、品だし、清掃の仕方などなど、先輩アルバイトや社員、店長につき、実際に行いながら教わるのが一般的だろう。つまり、OJTだ。控え室などでマニュアルを確認することはあっても、ほぼOJTで業務を身につけていく。

もちろんマクドナルドでもOJTが、クルー教育のメインだ。ハンバーガーやポテトの調理の仕方、基本的な接客技術は、現場で学んでいく。ただ、それだけではなく、マネジメントやチームビルディング、コミュニケーションスキルなどについて学ぶ場として、ハンバーガー大学を設けている。

では、この大学ではどのような教育が行われているのだろうか。正直、筆者は、おいしいパティの焼き方、サクッとしたポテトの揚げ方などを学ぶのではないかと、想像していた。だが、実際にハンバーガー大学に体験入学してみたところ、完全な座学だった。

●責任者としての知識を学ぶ

マクドナルドでは一般的なクルーから店長まで、かなり細かく役職がわかれている。クルー、クルートレーナー、スター、SWマネージャー、セカンドアシスタントマネージャー、ファーストアシスタントマネージャー、店長といった具合だ。

転機となるのはSWマネージャーだろう。店長や社員が店舗にいなくとも、時間帯責任者としての職責を負う。アルバイトのまとめ役といってもよい存在だ。この段階で、ハンバーガー大学へのトビラが開く。

では、どのような授業が行われるのか。SWマネージャーはハンバーガー大学で、都合3日間の授業を受ける。筆者はそれとは比ぶべくもない、わずか2時間という時間だが、ハンバーガー大学の模擬授業を受けてきた。テーマは「リーダーとは何かを学ぶ『リーダーの影』」「チーム力を高める『効果的なフィードバック』」の2項目だ。

とにかく、たった2時間だったため、授業は駆け足で進んだ。ただ、印象に残ったシーンについて列記してみよう。

○現場を仕切るリーダーの在り方

まず、「リーダーの影」についてだが、面白い体験をさせていただいた。教壇に立った茂木由規子 ハンバーガー大学 マネージャーは、20人ほど集まった記者などの模擬生徒に、「右手を挙げて」「左手を挙げて」「両腕を降ろして」といった指示を出す。当然、模擬生徒は、そうした指示に従って動作をする。

そして、「手の指で輪を作り、アゴに当ててください」という指示を出しながら、先生自身はホッペに手を当てた。そう、タレントのローラがよくする仕草だ。筆者は「あれ? アゴとホッペを言い間違えたのかな?」「それとも何かのワナか?」と思いながら周囲をみると、みな、ホッペに手を当てている。その状況を確認すると、筆者もホッペに手を当てざるをえなかった。

やはりワナだった。茂木先生は、「これがリーダーの影です」と強調。たとえ指示とは異なる行為だとしても、リーダーが行っていることに、周囲は準じやすくなる一例だという。リーダーが正しい行為をすることがいかに大切か、それを裏付けるテストだった。

●アクティブ・ラーニングでマネジメント能力を磨く

また、「効果的なフィードバック」では、目隠しをした記者(筆者ではない)が、バスケットにボールを投げ入れるアクティビティが行われた。

最初のテストでは、なんら指示もなく、ひたすらどこにあるのかわからないバスケットに目隠しした記者が15球ほどのボールを投げ続ける。当然、1球も入らない。ボールを集めて2セット目。今度は、「やはり文化部出身ではだめですね」「運動神経を鍛えないと」といった、ののしりともとれる口調で茂木先生が目隠しをした記者に声をかける。そして3セット目。次は「さすがセンスある」「いいフォーム」といったように、べた褒めの声をかけた。ただ、両セットとも1球もバスケットには入らない。そして、4セット目、今度は「もう少し右」「あと10cm遠くに」といった具体的な指示を先生が出したところ、6球がバスケットに入った。

つまり、どんなに叱責しようが、どんなに褒めようが結果は同じ。具体的なアドバイスをしないと、クルーの成長はないということ。「的確な指示を与えることで、生産性が高まるということのテストです」と、茂木先生は話した。

○学校法人からの要請も増加

正直、「子どもだましではないか」という気持ちもなくはない。だが、社会に出てからリーダーの本質を基本から学ぶ機会はあまりない。その意味で、非常に貴重な体験だったといえよう。加えて、マクドナルドは若いクルーが多く、理屈でリーダー論を教えるよりも、こうした体験型学習のほうが効果的ではないだろうか。

さて、こうしたハンバーガー大学の講義をしてくれと、高等学校といった学校法人からの要請が増えているそうだ。昨今、アクティブ・ラーニングが注目されるなか、こうした授業を採り入れるのは、学校側にもメリットが大きい。一方、マクドナルドにしても、同社の教育を、学生たちに“オモシロイ”と感じてもらうのは重要だ。何せ高校生といえば、アルバイトクルーの大切な戦力なのだから……。