夏は暑い! 食欲も減り、普通に考えれば、痩せるはずだが…

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夏は暑い! 食欲も減り、口に入れるものは固形物ではなく水分ばかり。夏バテという言葉もあるくらいだから、普通に考えれば、痩せるはずだ。

しかし、それはすべての人に当てはまるものなのか? そう考えたのは、私事で恐縮だが、なぜか夏に太ることが多いからだ。どちらかというと冬に痩せる傾向にある。

"冬は寒い。それを防ごうと体内に蓄えたエネルギーをガンガン使うから痩せるのでは? ということは、夏でもエアコンをガンガンに効かせ、冬と同じ状況を作れば痩せるんじゃないか!"と、節電のご時世にブーイング覚悟で部屋のクーラーを16度に設定、フル稼働で夜を過ごしたが…全然痩せない!

果たして、この理論(笑)は現実的なものなのか。代謝の専門家である、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所の栄養代謝研究部長の田中茂穂先生を訪ね、このアイデアをぶつけてみた。

−夏に太る傾向があるんですけど、夏と冬では体内のエネルギー消費量は変わってくるのでしょうか。

田中 一般的には夏は痩せます。本来、動物はそうですよね。食べ物が豊富な春から夏にかけては体内に蓄える必要はありません。活動が鈍り、食べ物が減る冬に向けて準備をする。体脂肪は保温効果もあります。だから秋になると食欲が出るわけで、冬に太るのが動物本来のメカニズムと言えます。

−人間にも同じことが言えますか?

田中 そうですね。ただ、例外もあるようです。子どもを対象に体重の季節変動を調べたデータがあります。それを見ると、肥満児だけはかなりの割合で夏休みに太るという結果を示す論文が90年代から2000年代前半にかけて5本ほど発表されています。

−おおっ、その原因はどういったものなんでしょう?

田中 子どもの5月と夏休みにおける身体活動を比較したデータがあります。すると、傾向として夏休みは活動量が減るんですよ。おそらく通学で歩いたり、体育の授業など学校内外で動く機会がある5月に比べてたくさん遊ぶ子もいるんでしょうが、平均すると活動量は減るんですね。暑いからTVの前でゲームを楽しむという機会が増えているからかもしれません。その集団では肥満児が少なかったせいか、残念ながら、夏休みの体重変化と活動量の変化の相関までは出ませんでしたが…。

−その状況で食生活が変わらなければ太るわけですね。

田中 加えて、夏は冷たい清涼飲料水を飲む機会も増えますよね。当然、糖分を過剰に摂取しているわけです。明確な根拠はないですが、これが有力な原因ではないかと思われます。当たり前のことですが、例えば1日に4千キロカロリー消費する人は、同じ4千キロカロリーを食べないと痩せますよね。その逆で、消費カロリー以上に摂取すれば太るわけです。夏休みに太る子どもというのはそういうことが言えるのではないかと思います。

−ということは、私の場合は肥満児と同じような理由かもしれませんね(汗)…とはいえ、子供は成長過程にあるわけですから全体的には体重も増える傾向にあるはずですよね?

田中 そうですね。肥満児ではない子どもは体重が増えないのではなく、夏休みに体重増加のペースが落ちると言えると思います。

−では、やはり生物学的には冬に太り、夏に痩せるというのが一般的ということなんですね。

田中 そうです。ただ、日本の場合、夏は活動量が落ちるのですが、基礎代謝(人間がじっとしている時に消費するエネルギー)ということでは、夏と冬で大差がなく微妙なんですよ。というのも、基礎代謝は快適な温度環境で測ることになっているんです。だから、冬でも約25度の室温の中で測ります。すると、ほとんど差は出てこない。あったとしてもせいぜい5%程度だと思います。

−ということは、冬は寒さから身を守るために基礎代謝が上がり、夏はその必要がないから下がるというわけでもないんですか?

田中 季節による差は、基礎代謝に関しては大きく変わることはないんじゃないかと思います。

−ただ、それでも一般的にはエネルギーを蓄積するために冬のほうが太りやすいわけですよね。そして蓄積されたエネルギーは冬の間に消費されるともいえるかと。ということは、やっぱり夏に冬のような環境を作れば、エネルギーは消費されるのでは? 例えば、エアコンをフル稼働し、16度くらいに設定した部屋にいるとか…。

田中 それはちょっと極端ですよね。確かに暑い部屋にいるのと16度の部屋にいるのでは、寒いほうが消費量は多くなります。論文レベルでいうと、北海道大学の先生が夏に27度と19度という環境で比較したものがあります。それによると、多少の差が出ています。

−えっ、大きな差ではない?

田中 なぜかというと、褐色脂肪細胞が夏場は活性化しない状況にあるからなんです。

−褐色脂肪細胞?

田中 主に脂肪をエネルギーとして消費する細胞です。これに対して脂肪を蓄える細胞を白色脂肪細胞といいます。それが中性脂肪という形で脂肪をエネルギーとして貯めているんです。

−その褐色脂肪細胞が夏場に活性化しないということは、冬場に活発になるんですか?

田中 そうなんです。夏は寒くないから、火をくべる必要がないというイメージですね。逆に冬は寒いから、どんどん使っていこうと。実際、11月の終わりくらいになって、ようやく褐色脂肪細胞にスイッチが入るみたいなんです。

−だから夏場に、ある一定時間だけ寒いところにいても褐色脂肪細胞が眠っている以上、エネルギー消費量はそれほど増えないと?

田中 暑いほうが当たり前なので、体は準備ができていないんですよ。臨時的にクーラーで16度の環境を作っても褐色脂肪細胞は働かない。多少、消費カロリーは増えるかもしれませんけどね。だから同じ16度の環境にいるなら、冬のほうが消費します。

ある論文では、冬に17度の環境に1日2時間いるのを6週間続けると褐色脂肪細胞が"活性化する"というデータが発表されています。エネルギー消費量も上がるし、それに対応して脂肪が減ることもわかっています。11月の終わりくらいから毎日、寒いところに1日2時間いるようにして、褐色脂肪細胞を活性化させる冬ダイエットはありえるかもしれませんね。たぶん、微妙には痩せると思います。うまくいくと5kg…、それが難しくてもひと冬で2kgくらいならやせるかもしれません。

−冬にこそクーラーをガンガン16度に!? 慣れない寒冷刺激が褐色脂肪細胞を活性化したわけですね。

田中 そうです。冬に寒いところで頑張れば、6週間で2kgくらいは痩せるという結果でした。結構なダイエットですよね。これに香辛料を摂取すると、さらに褐色脂肪細胞が活性化することがわかっています。

−なんですか、それ?? 激辛料理を食べればいい!?

田中 寒冷刺激による褐色脂肪細胞の活性化は、その間にあるTRPチャンネルという温度受容体を通して行なわれます。同様にカプサイシンなどがTRPチャンネルを通して褐色脂肪細胞を活性化させることが動物実験を通してわかってきているんです。

−まさか、それも冬限定ですか?

田中 褐色脂肪が活性化する必要があるので、冬のほうが効果的と考えられます。

−寒冷刺激と香辛料。それが冬のダイエットの2大要素ということですね。

田中 11月以降に1日2時間の寒冷刺激を与え、カプサイシンなどを多めに摂取する。それによって、何もしないよりもカロリー消費が増えるということは確実に言えると思いますよ。

−その他に何か消費カロリーを増やす要素はあったりしますか?

田中 実は"美味しいと思うこと"も要素にあげられるかもしれないと言われています。交感神経を刺激することで褐色脂肪細胞が活性化するのではないか、ということです。

−うまいものを食べれば、痩せるんですか!

田中 まだヒトで十分に証明されたとまでは言えませんが、可能性がありそうだということです。

−最後に、普段からエネルギー消費を研究されている先生オススメのダイエット法を教えていただけますか。

田中 消費のほうについて考えると、結局、強度×時間なんですよ。弱ければたくさんやらなくちゃいけないし、ある程度の強度であれば少なくてもいい。例えば、鉄アレイを使うとしますよね。強度は強いのですが、長時間ではないので、あまり効果はありません。ただ、エネルギーの消費活動は運動をやめた後も続きますし、強い強度のほうが大きいんです。使っちゃったものを補充するためにね。筋肉を修復するためにもエネルギーを使いますから。

極端な例ですが、フルマラソンをすれば、そのあと3日くらいエネルギーの消費が続くかもしれません。だから、ある程度の強度でしっかりと運動することが有効なんですよ。

−でも、激しい運動は続けるのがとても困難ですよね…。

田中 確かに、なかなか普通の生活の中でそこまで激しくやるのは難しいです。だから、ちょっとだけ強度がありつつ、ちょっと疲れるくらいの運動を日常的な生活活動で続けられる中で見つけることができるといいですね。

個人的な例で言うと、今から15年ほど前に職場が引っ越したんです。それまでは自宅からドア・トゥ・ドアで片道30分ほど歩いた。しかも道中に上り坂もあったんです。それが引っ越しして10分で着くようになった。すると半年ほどで体重が6kgも増えてしまいました。これは逆の意味ですが、それくらいで体重というのは変わるんですよ。

だから、なんでもいいです。炊事でも洗濯でもオフィスワークでも。毎日、コツコツと動くことはとても重要ですので、ちょっとした生活活動を大事にしてくださいね。細切れの活動の方が1日全体では脂肪が燃えます。それに、カロリーの消費はそれほど多くなくても、食欲のコントロールがしやすくなるようですよ。

(取材・文/長嶋浩己)

田中茂穂(しげほ)

1964年宮崎県生まれ。東京大学大学院修了。(独)国立健康・栄養研究所 栄養代謝研究部部長。エネルギーの消費量や身体活動の評価法・変動要因が専門。厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2005,2010年版)』のエネルギー必要量や「健康づくりのための運動基準2006」の策定などにかかわる。