丸の内勤務の証券マン・江森(通称:えもりん)、30歳。おとめ座。

外見はプーさんそっくり、愛されキャラな男。好きな食べ物はハチミツ...ではなく、『ウルフギャング』のプライムステーキ。

港区生まれ、港区育ち、育ちのいい奴らは皆トモダチ。生まれながらに勝ち組な彼は、日本を代表するエリート・サラリーマンとして独身生活を謳歌している。

イケてるはずなのに拗らせ気味な男・えもりんは、恋人探しにことごとく惨敗。さらにイケメン商社マンの親友・ハルの結婚報告&説教をうける。

そして、強気な美女・まゆこの涙に心揺れるも、彼女は恋人とヨリを戻してしまい、損保OLの奈央とのデートで寂しさを埋めようとしたが...?




―えもりん、すぐ会いたいの。

まゆこからの突然のLINEをうけて、江森はデート中であった損保OLの奈央への言い訳もそぞろに、急いで解散した。

彼女に何があったのだろうか。また彼氏との間にトラブルでも起きたのだろうか。それとも......ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。

江森は淡い期待で胸が高鳴るのを感じながら、一呼吸置いて、まゆこに電話をかける。

「まゆちゃん、ごめんよ。電話に気づかなくて。どうしたの?何かあった?」

声がうわずってしまわないように、まゆこから「会いたい」と言われ浮かれているのがバレないように、江森はあえて低めの声を出してみたりする。

「ちょっと、大事な話があるの。どこか、ゆっくり二人で話せないかな?」

―じゃあ、ボクの麻布十番の隠れ家なんてどう?―

咄嗟にそんなセリフが浮かんだが、まゆこの切羽詰まった様子を踏まえ、自粛する。

「じゃあ、パレスホテルの『ラウンジ バープリヴェ』で待ってるよ」

江森はタクシーを捕まえ、まゆこの元へ急いだ。


“大事な話”は、想像以上に重く深刻なものだった...?!


授かり婚詐欺を企む、恐ろしい女


結論から言うと、まゆこの話というのは、恋人とのイザコザでもなく、ましてや江森が期待していた類のものではなかった。

しかし、事態は想定よりずっと重く深刻だ。

「ハルの彼女の子どもの父親が、ハルじゃない...?!」

親友のハルには、会社の後輩を妊娠させてしまったとのことで、結婚報告をされたばかりだ。

「そうみたいなの。私、どうしても見過ごせなくて...」

まゆこは、ハルと彼女と同じ商社で働いている。よって、知人伝いで情報が耳に入ってしまったらしいのだ。

ハルの彼女は、元々長く付き合っている恋人がいたという。

しかし、あの甘いマスクに惚れてしまい、二人は関係を持つようになる。だが、ハルの煮え切らない態度に不安を覚えた彼女は、元々の恋人との関係も切らずにいたらしい。

「たしかに、ハルは真剣に付き合ってたわけじゃないっぽかったもんね...」

「日数的にも、お腹の子どもの父親がハルじゃないのは間違いないらしいのよ。彼女自身もね、あとから罪悪感が芽生えちゃったらしくて、悩んでるんだって」

―女って、恐すぎる...。

夏の夜の『ラウンジ バープリヴェ』のテラス席の居心地は抜群で、暑さで火照った身体に夜風も心地良い。にも関わらず、江森は寒気で思わず身震いした。

ハルもまゆこも、地味だが堅実で真面目な子と、彼女を評価していたではないか。

これだから女は信用できないのだ。子猫のような可愛さを装いながら、突然猛獣のように牙を剥き、男を騙し傷つける。




「それでね、私、彼女とハルにハッキリこの事実を伝えようと思うの」

「えっ、まゆちゃんが...?」

「だって...このまま見過ごすなんてできないでしょ?ハルも彼女も本当の父親も、赤ちゃんにも、絶対に良くないじゃない!」

まゆこの真剣な表情に、江森は尊敬を覚えた。

だいたいの男はそうかも知れないが、基本的に“触らぬ神に祟りなし”である。面倒なことは見てみぬふり、よく言えばケセラセラ。何事も放っておけば、なるようになると思っている。

ましてや、こんなセンシティブな事件に自ら切り込んで行くなんて、根が小心者の江森にとっては苦手極まりない芸当だ。

「ハルは真実を知る権利があるし、きちんと話し合うべきよ。...お節介かも知れないけど、私は絶対に放っておけない」

江森はまたしても、胸がぎゅっと締め付けられるような痛みを感じる。

まゆこは一見すると高飛車な女だが、実はこんな風に妙に情が厚く、正義感の強い一面がある。そのギャップが彼女の魅力なのだと、改めて思う。

「そうやって他人のことを真剣に考えられるまゆちゃんは、やっぱり素敵だよ...」

江森がついポロリと本音を溢すと、まゆこは照れるように微笑んだ。彼女のこの可愛らしい笑顔を見れるのは、自分だけだと思いたかった。


真実を知ったハル。その決断は...?!


「あーあ、マジで、ひどい目に遭ったぜ...」

いつも飄々と涼しげなハルの顔には、めずらしく疲れが滲んでいる。

結局、ハルは婚約解消した。

恐ろしすぎてあまり詳しくは聞けないが、どうやら相当の修羅場があったそうだ。その挙句、例の婚約者は子どもの本物の父親である元彼とヨリを戻し、収まるところに収まったらしい。

江森に言わせれば、“真夏の丸の内の恐怖体験”とでも呼びたいホラーである。

「あんまり落ち込むなよ。彼女、それだけハルを自分のものにしたかったワケだろ。まぁ、その執念が恐いけどさ...。もう忘れようぜ。お前、モテるんだから」

精一杯の慰めの言葉をかけると、ハルはフッと薄く笑う。同じ男でもドキっとするような、色っぽい表情。

「でも何かさ...ぶっちゃけ俺、すげぇホッとしたっていうか、安心してんだよな。デキちゃったもんは仕方ないし、父親も悪くないかもと思ってたけど、一人は気楽だよな」

江森は「ウンウン」と、大きく頷く。

結婚だの父親だの、“いつか”とか“そろそろ”とは思うが、大きな責任を負う覚悟なんて、簡単にできるものではないだろう。

「俺、せっかくだから、しばらく自由に遊ぶわ」

結局ふり出しに戻ったハルとともに、二人は『ウルフギャング・ステーキハウス』に向かう。

「気晴らしに女の子と飲みたい」というハルのため、ダメ元で美人CAの菜々子に連絡したところ、意外にも誘いに応じてくれたのだ。




「今日はお誘いありがとうございます♡」

『ウルフギャング・ステーキハウス』に友人とともに現れた菜々子は、相変わらず最高に美しかった。スラリとした身体にフィットした黒いノースリーブのワンピースが、とにかくセクシーである。

そして彼女のCAの同期という絵美も、菜々子ほどではないが、なかなかの美女だ。

二人の女に見惚れつつもチラリとハルを見ると、この男も目つきが完全に獲物狙いモードに入っている。男は単純なのだ。

前回の鮨デートとは異なり、2on2の食事会はかなり盛り上がった。美女たちは2次会にも応じてくれ、丸の内の夜を存分に満喫できたと思う。

ただし江森は、気づいてしまった。

―菜々子ちゃん、ハル狙いじゃないか...orz

そう。自分とハルへの対応に、目に見えて温度差があるのだ。

しかも、それとは対照的に、絵美の方はやたらと江森に食いついてくる。要は、菜々子に「私じゃなくこっちを狙え」と、他の女の子を割り振られたのかもしれない。

やはり、女という生き物は恐ろしすぎる。

―はぁ。こんな生活、やっぱりもう卒業したい...。

江森はそれでもヘラヘラと絵美にまんざらでもない態度を取りながら、しかし頭の隅で、まゆこのことばかり考えていた。

▶最終回:9月5日 火曜更新予定
まゆこへの思いを確信していくえもりん。最後に男気を見せてくれるか...?!