みなさんは、夏休みの宿題をどうやって仕上げましたか?

多くの人に聞いてみると、7割の人が夏休み終盤に慌てて着手し、8月末ギリギリに仕上げたと言います。私たちは、追い込まれると「あれだけ膨大な宿題を短納期で仕上げる底力」を発揮するという性質を知っています。

これは「脳による火事場の馬鹿力」と言える能力。この底力を仕事や人生にうまく転用していく習慣を紹介したいと思います。

古川武士(ふるかわ たけし)/習慣化コンサルタント

関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約3万人のビジネスパーソンの育成と約500人の個人コンサルティングの現場から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、オリジナルの習慣化理論・技術をもとに個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援を行っている。主な著書に「続ける習慣」「やめる習慣」「早起きの技術」などがあり、全16冊、計70万部を超え、中国・韓国・台湾など海外でも広く翻訳され読まれている。公式サイト

なぜ、脳は平常時にパワーを温存するのか?

火事場の馬鹿力とは「とてつもなく追いつめられたときに、通常では考えられないほどのパワーを発揮する」という意味です。

一方、裏を返すと平常時は、私たちのカラダや脳は力を自動的にセーブするようにできているそうです。

理由は、非常時に備えて力を温存させるようにリミッターをかけているから。夏休みのスタート時点では追い込まれた緊張感がないため、爆発的なモチベーションが湧いてきません。逆に、8月31日に間に合わないとなると、まさに脳は非常事態。「何としても間に合わせなければ」と必死に取り組み、とてつもない集中力と工夫が発揮されるのです。

これと同じことを、仕事でも同じ経験をされているのではないでしょうか?

会議開始前に用意すべき資料作成は一心不乱に取り組めます。ノー残業デーで18時退社を死守しなければいけない人は朝から工夫して仕事を進めるでしょう。営業マンであれば月末でノルマ達成できないとなれば、最後の駆け込み需要を取りに行こうと必死に策を練るでしょう。

私たちが良いアイデアを創造し成果を出したい、成長し続けたいと思うのであれば、非常事態の状態に自分を追い込むことをおすすめします。

習慣1.納期を追い込む

制限を設ける1つの方法は、短納期にすることです。時間の有名な研究に、パーキンソンの法則があります。

これは「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というもの。つまり、納期をどこに設定しても、制限時間をギリギリまで使うのが人間の心理だといいます。裏を返せば、納期を短納期にすれば、工夫してその時間内で終わらせるとも言えます。

納期を追い込む有効な方法は、最終納期を変えずに中間納期を約束することです。仮に1週間後に顧客に提出する重要な資料がある場合、何も策を講じなければタイムリミット効果は6日目にようやく働きはじめます。しかし、中間納期として3日目に上司にチェックしてもらう納期を設定すれば、タイムリミット効果は2日目に働くことになります。重要な業務には中間納期を設けてみましょう。

また、退社時間をコミットするのも脳に緊張感をもたらす1つの工夫です。私は高密度仕事術という手法で生産性向上のコンサルティングを行なっていますが、退社時間に制限がない会社の改革、個人の改革はほとんど効果を発揮しません。

なぜならば、いつも通りのやり方、ペースに安住してしまうからです。特別な事情がない限り、違うやり方、猛烈なスピードで仕事をすることを脳は許可してくれません。だからこそ、働き方改革で成功する会社のほとんどは退社時間を全社で制限しています。これにより社員に危機感と緊張感が醸成されて、高い集中力と工夫が生まれます。

習慣2.退路を断つ

2つ目は、退路を断って緊張感を作り出すことです。

週末起業という言葉があります。企業に勤めながら、収入の安全・安定を図り、うまく起業にこぎつけようという発想です。

私もサラリーマン時代、週末に事業準備をして起業したので、週末起業を全面否定するつもりはありません。しかし、「サラリーマンの収入を超える見込みができたら独立します!」という人を多く見てきましたが、独立にまで至る好例はごく僅かでした。

その最大の理由は、安定した収入と安全な環境にいながらチャレンジするのが難しいからです。何の計算もなく独立するのは危険極まりない行為ですが、ある程度見切りがついたらリスク環境の中に自身を置いて必死になることで、良いアイデアが生まれ、爆発的な行動が生まれる可能性があります。

私も独立したとき、月の収入は2万円でした。12年前、コーチングの世界でクライアントを開拓することは道無き道を進むのと同然でした。ある時、企業に勤めながらコーチングをしていた私は、ベンチャー企業の経営者が集う交流会に参加してクライアントを探しました。しかし、彼らと名刺交換をすると「あー、企業に勤めながらやっているんですね。まだ駆け出しなんですね」と相手にされません。

切った張ったの世界で大きなリスクに挑んでいる彼らからすれば、コーチングのお勉強をしている程度の存在にしか見えないのだと痛感しました。

そこで、私は退路を断って、プロコーチとして独立。すると一転、彼らはまともに話を聞いてくれるようになりました。100人の経営者に無料コーチングをして、結果的に20名が有料のクライアントになってくれました。

経済的にも精神的にも非常に追い込まれた状態になったからこそ、威圧的な経営者のコーチングセッションを行なうことができました。毎回、セッションの前は逃げ出したい気持ちでしたが、終了する度に急速に成長していく自分を感じました。

100人のコーチングではブログ経由で打診するアプローチを考え付きました。当時では珍しい営業方法だったはずです。それも独立して、収入の危機感を感じながら試行錯誤の末に思いついたアイデアでした。

退路を断つことで、リスクのある行動にも果敢に挑戦でき、その中で良いアイデアが生まれ、運命的な師匠や顧客と出会う奇跡も生まれました。

あなたはどのように緊張感をつくり出しますか?

最近、「ストレッチゾーン」という言い方をしていますが、「ストレッチ」とは、成長を促進するために、手を伸ばせば届くレベルではなく、精一杯背伸びをしないと届かない高い目標をあえて設定し、その実現に取り組むことをいいます。

人間は、背伸びしてギリギリ届くか、届かないかの状態で、高いパフォーマンスを発揮します。まさにプチ火事場の力です。新興企業では、英語がほとんど話せないのに、3カ月後の海外赴任が決まるとか、3年目で子会社の社長を任せられるというようなケースがあります。

ここまで極端ではなくても、私たちは安全なゾーンにずっといると、どんどん非効率なやり方が蔓延して、マンネリ化から抜け出せなくなっていきます。

毎年ストレッチゾーンで仕事を続けていると、自らを劇的に成長し成果を高めることができます。短納期と退路を断つ習慣で、自らを追い込んでみてください。

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