『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』(幻冬舎)

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 鶴田真由といえば、テレビへの露出こそ減ったものの、映画や舞台などで好演を見せ、アーティスティックな活動でも知られる知性派女優。その鶴田が最近、旅行エッセイを出版したというので、てっきりアジアやアフリカの異文化体験記でも書いたのかと思いきや、これがとんでもない内容だった。

『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』(幻冬舎)というタイトルがついたこの本、完全に例の「日ユ同祖論」本だったのである。

「日ユ同祖論」とは、日本人とユダヤ人は共通の先祖をもつ兄弟民族であると主張する、オカルト界隈で人気のコンテンツ。もちろん科学的にはなんの根拠もないのだが、言語や神社に伝わる神具や、古代から伝承される文献、歌い継がれてきた民謡などの日本の文化と、ユダヤ人の文化の間に、無理やり共通項を見出して、「やっぱり日本人とユダヤ人には同じルーツをもつ世界でも優秀な民族だ」などと盛り上がるヤツだ。派生系では、キリストが日本に渡来していた、なんていうトンデモ説もある。

 そして、『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』を読んでいると、鶴田が伊勢、諏訪、沖縄といった日本各地の神社やパワースポットをめぐりながら、どんどんこの「日ユ同祖論」にはまっていく様子がうかがえるのだ。

 たとえば、三重県志摩市の伊雑宮を訪れた項には、こういった仮説が披露されていた。

〈その昔、伊雑宮の鳥居の前にある石灯籠には、ユダヤのマークである六芒星が彫られていたそうです。「イザワ」とは「イザヤ」を意味するのではないか? つまり「イザワの宮」とは、「イザヤ」の「宮」である可能性があるというのです。
「イザヤ」とは、紀元前8世紀にユダ王国で活躍したユダヤの預言者です。時は、ちょうどアッシリアによってイスラエル王国が侵略された頃。イザヤはイスラエル王国とユダ王国にいた同胞に国家崩壊の危機を叫び、国を出たのかもしれません。もしそうだとしたら、「失われた10支族」のように、その後、シルクロードを渡り、日本にたどり着いた可能性があります。
 日本の国産みをしたイザナギもイザヤに由来しているという記述をネットで見つけました。イザヤとは、ヘブライ語で「神の救い」という意味を持ち、「ナギッ」とは君主を意味します。だからイザナギとは、「神の救いの君主」「イザヤ王子」という意味になるのだそうです〉

●鶴田真由がいっしょにエルサレムに行った男性

 伊雑宮の「伊雑」という言葉の響きが「イザヤ」に似ているというだけで、なぜ同じ祖先? そんなこと言い出したら、それこそあらゆるものが同祖ってことになってしまうだろう。

 しかし、鶴田の暴走は止まらない。今度は、童謡「かごめかごめ」をもちだして、京都府宮津市にある籠神社と前述の伊雑宮との共通項がそのなかには隠されており、それはまた日ユ同祖の証明でもあると言い出す。

〈あの有名な「かごめかごめ」の歌の中に、籠神社と伊雑宮を結ぶ秘密が隠されているというのです。(中略)
「かごめ」とか「籠目」のことで、その形、すなわち籠の目を見ると、六芒星になっていることから、ユダヤを意味するのではないか? というのです。鶴と亀がすべるというのは「統べる」という意味で、「統合」を表す〉

 読めば読むほど、大丈夫か?と心配になってくるのだが、まあ、それでも、アート志向の強い女優がたまたまオカルト偽史にはまってトンデモ本を出版してしまったというだけなら、記事にするほどのことはなかったかもしれない。

 だが、同書を読んでいて、ちょっと見逃せない事実を発見してしまった。それは、あの安倍昭恵夫人との接点だ。

 本書の後半では、「日ユ同祖説」にハマった鶴田が、33人の大所帯で10日間イスラエルを旅するツアーに参加するくだりがあり、ツアーのガイド役をつとめていたらしい「団長」なる人物が登場する。こんな具合だ。

〈団長はパウロとご縁があるので、「新約聖書」が息づく場所に行くとアンテナが電波をキャッチするようでした。説明時の語り口調が俄然スムーズになり、まるで1冊の脚本を読んでいるような感情の入れ具合になっていくのです。
イエスが弟子と共に歩き、説教していたアルベル山に行ったときには、イエスも腰掛けたと思われる岩に腰掛け、聖書を読んでくれました。途中から、その姿はどんどんイエス化してくるのです。〉

 この「途中からその姿がイエス化」したという「団長」なる人物、名前を赤塚高仁氏という。赤塚建設なる会社を経営しているが、『聖なる約束 砂漠は喜び砂漠は花咲き』(舩井勝仁との共著/きれい・ねっと)や『天皇とユダヤとキリストそしてプレアデス・メシアメジャー これが黄金の《地球ラスト文明》のコアとなる』(ヒカルランド)といった「日ユ同祖論」本の著者でもある。

 この赤塚氏のブログを読むと、鶴田の著書『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』が紹介されており、〈ヤマトとユダヤ、古事記と聖書 こんなにも美しく霊的に繋げてくれた本が、これまであったでしょうか〉〈ホントにいい本です。一人でも多くの日本人に読んでもらいたい。私も「団長」として登場しています〉などと記述されている。

●昭恵夫人からサミット開催地を漏えいされていた"スピ友"が鶴田とも

 どうやら、鶴田が「日ユ同祖論」にここまでハマってしまった背景には、この赤塚氏の存在があるようなのだが、しかし、この日ユ同祖論者が影響を与えたのは有名女優だけではなかった。実は赤塚氏、安倍昭恵夫人の"スピ友"としても知られている人物なのだ。

 赤塚氏のブログによると、赤塚氏と昭恵夫人が出会ったのは2015年1月。前述した赤塚氏の著書『聖なる約束』を読んだ昭恵夫人が、安倍首相の中東外遊に同行する前に、この著者に会いたいとアプローチしてきたのだという。

 中東外遊のための勉強する際に、中東情勢の専門家や中東の文化に詳しい学者などでなく、よりにもよってオカルト「日ユ同祖論」の著者にアプローチするというのが、いかにも昭恵夫人らしいが、それはともかく、これをきっかけに二人は急速に親しくなっていく。

 赤塚氏のブログやFacebook、メルマガなどを見ると、赤塚氏が首相公邸に訪問したことが綴られていたり、赤塚氏と昭恵夫人が一緒に写った写真が数多くアップされている。また、4月15日に開催された首相主催の「桜を見る会」にも赤塚氏は参加しており、さらに2016年12月には、昭恵夫人と一緒に明治天皇陵を訪れ、教育勅語を朗唱したことをブログで報告していた。

 赤塚氏は森友学園問題でも名前が浮上したことがある。昭恵夫人から籠池夫人へのメールが公開された際、3月8日の日付で「来月私の親しい人が教育勅語の本を出します」という記述があったことを憶えているだろうか。この「教育勅語の本を出す私の親しい人」というのが赤塚氏だった。

 さらに、赤塚氏は昭恵夫人から国家機密ともいえる情報まで漏えいされていた。15年のサミット伊勢志摩決定の際、やはり籠池夫人が発表7時間前に「昭恵さんから電話があって、賢島(伊勢志摩)でサミットをやることが決まった!」と話していたという疑惑が浮上したが、件の赤塚氏は、籠池夫人よりもっと早く、この決定を聞かされていたのだ。赤塚氏は15年6月5日の日付でブログにこのように綴っていた。

〈正月の3日、安倍昭恵さんとお会いしてからずっと祈って来た伊勢志摩サミット。
昨日の午後、安倍総理から正式決定の発表がありました。
 嬉しいです。(中略)
 発表の前日に昭恵さんから
「わたしは、首脳たちの夫人を伊勢神宮にお連れします。
会議や話し合いで変わらないものが、きっと感じることでわかること、あると思うの
男たちに変えられないもの、女性ならできることあるわ」
と、聞かされていたので
きっと伊勢に決まるのだな・・・と思いましたが、昭恵さん天晴れです!〉

●鶴田と昭恵夫人がいっしょに「在日宇宙人マスター」のお店へ

 ようするに、昭恵夫人から国家機密まで事前に知らせてもらうくらい親しくなっていたスピ友が、鶴田にもオカルト説を吹き込んでいたのだ。

 しかも、昭恵夫人と鶴田はこの赤塚氏のガイドで、いっしょにオカルトツアーにも出かけている。それは鶴田が赤塚氏と一緒にエルサレムに出かける1年前のこと。鶴田の『神社めぐりをしていたらエルサレムに立っていた』には、「四次元パーラーでのご縁」と題して、こんな記述が出てくる。

〈2016年の初めに長崎に行きました。そこで、四次元パーラーという怪しげな冠のついた「あんでるせん」という名の喫茶に入りました。〉

 この「あんでるせん」は「在日宇宙人マスター」を名乗る店主のいるその筋の間では有名な"マジック"喫茶らしい。鶴田はその店の様子をこう語っている。

〈手に握っていたお金が宙に浮いたり、メニューにあるハンバーガーの写真から本物のハンバーガーが出てきたり、お客さんに好きな絵を描いてもらって見てみると、マスターが昨夜予知して描いたというものと同じ絵だったり。とにかく、マジックなのか超能力なのかわからないぐらいよく出来たショーなのです。まるで、超能力を"マジック"というベールで包んで柔らかく見せているのではないかと思うほど〉

 これまたいかにもな記述ばかりでクラクラするが、実はこのとき、昭恵夫人も鶴田と一緒に、この四次元パーラー「あんでるせん」にいたのである。というか、そもそも、この長崎「あんでるせん」ツアーを企画したのが、昭恵夫人だった。

 赤塚氏のブログには、このツアーの参加者が〈思い出しても身震いするような33名のメンバー〉だったとして、安倍昭恵夫人と鶴田真由の名前があり、ツアーを開催する事になったいきさつがこう書かれていた。

〈首相夫人である安倍昭恵さんから一通のメール。
「赤塚さん、あんでるせんに行きたい」
・・・・
「いつがいいです?」
「1月7日なら空いてます、前日から移動できます」
(中略)
 と、いうわけで安倍昭恵さんが言い出しっぺ、私が音頭取りガイド〉

 そして、このときのメンバーで、イスラエル・エルサレム旅行の企画がもちあがり、翌年、赤塚氏のガイドで、鶴田もエルサレムに行くことになるのである。実は、最終的にキャンセルになったが、昭恵夫人も当初は参加する予定だったようだ。

 そのあと、鶴田と昭恵夫人がどういう付き合いをしたのかはわからない。鶴田の本にも、意図的なのかはわからないが、昭恵夫人の名前は一切出てこない。しかし、一人の人物の影響で、首相夫人や知性派女優までが「日ユ同祖論」などという反知性的なオカルト思考にさらに深くはまってしまっていたという事実はやはり、笑ってはすませられないだろう。

 しかも、この人物は、たんに「日ユ同祖論」だけでなく、そのオカルト思想を愛国主義や歴史修正主義を結びつけ、教育勅語という戦前教育の旗ふり役まで演じていた。そして、昭恵夫人は一時、この人物と森友学園を結びつけようとしていた気配もある。

 鶴田真由の新刊本にかいまみえた、昭恵夫人とスピ友、指南役の存在は、この国から"知性"がどんどん奪われていることを証明しているような気もするのだが......。
(編集部)