おおこ・しげひさ=1966年10月24日生まれ、広島県出身

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人形劇というスタイルを取ることで、タブーな話題にも切り込む異色トーク番組「ねほりんぱほりん」(2015年〜)。昆虫を愛してやまない香川照之が“カマキリ先生”に扮して昆虫の生態を紹介する「香川照之の昆虫すごいぜ!」(2016年〜)。最近はネットで話題となることの多いNHK Eテレの番組だが、その中でもひときわクセのある番組をプロデュースし、ネット界隈を騒がせているのが大古滋久氏だ。これらの番組を、大古氏はいったいどんな思いを込めて制作しているのか。9月1日(金)にNHK総合で一夜限りの復活を果たす「ねほりんぱほりん」の見どころと合わせて、大古氏に直撃インタビューを敢行。そのユニークな番組作りの極意に迫った。

待望のスペシャル「夏の終わりの、ねほりんぱほりん」(9月1日[金]、NHK総合)。トークゲストには「ヒモと暮らす女」が、ヒモの男性と一緒に登場!/©NHK

■ ますだおかだの増田さんから、“あと一歩面白くしよう”という姿勢を教わりました

──大古さんがテレビマンとして初めて携わられた番組は何だったのでしょうか。

「僕は初め、NHK広島放送局にいたんですが、中国地方で放送されていた『ふるさとオンステージ』(1991〜1993年NHK広島)という音芸番組が最初ですね。(ステージの)袖から物の出し入れをするという雑用係だったんですが、技術さんも含めてスタッフ全員から罵倒されまくりで、本当にきつかったです。しかも、今同じことをやれと言われても絶対できないくらいの膨大な仕事量で。収録中ずっと気持ち悪い汗をかいていたのを覚えてます」

──その後、東京に異動されて、番組制作に携わっていく中で、印象に残っているお仕事は?

「僕はもともと、ますだおかださんが大好きだったんですが、『金曜かきこみTV』(2003〜2008年NHK教育 ※2007〜2008年は「土曜かきこみTV」として放送)でお二人とお仕事させていただいて。そこでの、増田(英彦)さんの番組への取り組み方は非常に勉強になりましたね。増田さんは、とにかく“番組をもっと面白くしよう”という気持ちでいっぱいの人なんです。例えばロケをしていても、何かハプニングが起きたときに、僕らスタッフはそこでひと笑いあって終わり、という処理の仕方をしてしまいがちなんですけど、増田さんは、常に2歩くらい先のことを考えながらしゃべっているから、そのハプニングを伏線にして、あとでさらに大きな笑いどころを作るんですよ。そんな姿を見て以来、僕も、収録中に想定外のことが起きたら『これを他の場面で使えないか』というように、“あと一歩面白くしよう”という意識はすごく強くなりましたね。その瞬間で終わらせず、いつも先を考える、という姿勢を学んだような気がします。『ねほりん』をやっているときも、面白いトークが録れたらそこで終わり、というのではなく、人形劇はどんな画にしようかとか、この面白さをさらに盛り上げるにはどうしたらいいのかを毎回突き詰めて考えていました」

■ 「ねほりんぱほりん」を作って気付いたのは、人の“闇”を描くのって意外と面白いんだな、と(笑)

──昨年レギュラー放送された「ねほりんぱほりん」は、人形劇という体裁を取ることによって、これまでなかなかテレビでは話を聞けなかった“訳あり”な人たちとのトークを成立させ、視聴者のみならずテレビ業界の間でも大きな反響を得ました。この番組はどのような流れで始まったんでしょうか?

「いわゆるテレビ離れ、NHK離れといった風潮が深刻化する中で、われわれとしては、この現状を何とかしなくちゃいけないということで、当時『ネットの人たちにも見てもらえる番組』が課題になっていたんですね。だから最初は、人気ブロガーが出演する番組を考えたんです。そうすれば、ネットで繰り広げられているようなやりとりが展開できるんじゃないかと思って。ところが彼らを取材してみたら、『ネットでは顔が出ないからこそ尖ったことが話せるんだ』と言われてしまって。さてどうしたものかと考えていたときに、藤江(千紘)というディレクターが『じゃあ、人形でも使いましょうか?』と提案してきた。そこから一気に番組の形が出来上がっていった感じですね」

――MCの山里亮太さん、YOUさんの起用理由は?

「山ちゃんは以前、『Rの法則』(2011年〜NHK Eテレ)で、名前も顔も公表NGの人にネットを通じてインタビューする『匿名リサーチ』というコーナーを担当してもらったんですが、そのときの仕切り方とか話の掘り下げ方が素晴らしくて。同じく匿名の人に話を聞く『ねほりん』の企画をお任せできるのは、もう山ちゃんしかいないと思ってお願いしました。YOUさんも最高ですよね。やっぱり、ズバズバと本音を言うところが彼女の最大の魅力だと思います。あと、お二人がすごく仲良しだったのも番組にはプラスになったと思いますね。あのお二人は、もちろん恋人という感じではないんですけど、親戚みたいな仲の良さなんですよ(笑)。いとこ同士みたいな」

──「ねほりんぱほりん」がスタートしてから改めて気付いたことや、新しい発見は何かありましたか?

「人の“闇”を描くのって意外と面白いんだな、ということでしょうか(笑)。リサーチの段階で、取材相手からチョロチョロと闇の芽みたいなものを感じたら、『もっと知りたい! もっと掘り下げたい!』と、ふつふつと欲望が湧いてきます(笑)。僕は宮部みゆきさんの小説が好きなんですけど、彼女の書く世界って、登場人物それぞれの行動や生き方の“理由”がきっちりと描かれているじゃないですか。どんなにひどい犯人でも。『ねほりん』では、ああいう描き方をテレビで展開できないか、という思いもあって」

──その「ねほりんぱほりん」が、この秋ついに「夏の終わりの、ねほりんぱほりん」として一夜限りの復活を果たします!

「今回のトークゲストは『ヒモと暮らす女』です。ヒモって、一昔前だと『金がないなら体で稼いでこい!』みたいな、それで自分は毎日パチンコをしてる、みたいな、そんなイメージがありましたよね。でも、僕らがお会いした女性は、外資系のバリバリのキャリアウーマンで。仕事で疲れたときにヒモの男の人がそばにいてくれるだけで癒やされるらしいんですよ。果たして、そんな彼女の幸せはどこに向かおうとしているのか。そのあたりを“根掘り葉掘り”していきます。トークにはヒモの男性にも参加していただいたんですが、どんな人形で再現するのかも注目していただきたいですね(笑)。さらに、人形劇のメイキング映像や、“もう一度あの人に会いたい”ということで『元薬物中毒者』が再登場します」

■ 香川さんが昆虫を捜すロケをやると、アドベンチャー番組になるんですよ(笑)

──また最近は「香川照之の昆虫すごいぜ!」も、「ねほりんぱほりん」と同じようにネット界隈で話題騒然となっていますね。

「『ねほりん』は、ネットの人たちにも見てもらえたらと思って作った番組なんですけど、『昆虫すごいぜ!』がこんなにもネットで注目されるとは考えていなかったので、素直にうれしいですね。

この番組は最初、香川さんが『有吉・櫻井THE夜会』(TBS系)に出演されたときに、『Eテレで昆虫番組をやりたい』とおっしゃっていたのを見て、『こんなにいいトスを上げてもらったら、打たない手はないだろう』(笑)ということで始まったんです。編成の人たちも『夜会』を見て連絡をくれて、すぐに局内で話がまとまって、香川さんへの出演交渉もうまくいって。それでさっそく香川さんと最初の打ち合わせをしたんですけど、香川さん、既にノリノリなんですよ(笑)。初回だから30分くらいで終わるかなと思っていたんですけど、お一人で1時間半くらい、昆虫の話を延々と話されて(笑)。そのお話のディテールの面白さに、『これはイケる!』と思いましたね。この熱さをもって香川さんがロケに出たら相当面白いだろうなぁって」

――実際にロケをしてみて、いかがでしたか?

「普通の人が昆虫を捜すロケをやると、小学生向けの教育番組になると思うんですけど、香川さんがやると、昆虫捕物帳みたいなアドベンチャー番組になるんですよね(笑)。大の大人が童心に返って夢中になっている姿は、本当に素敵だなぁと思います」

──香川さんがカマキリの着ぐるみを着て演じる“カマキリ先生”も大好評です。

「『夜会』でもカマキリの着ぐるみを着ていたんですが、あのときの着ぐるみがコミカルな感じだったのが、香川さんとしては納得がいかなかったらしくて。僕らとの最初の打ち合わせで、『まず着ぐるみを何とかしてほしい』というのは何度も念を押されました(笑)。香川さんは、カマキリが好きすぎて、“カマキリの格好がしたい”んじゃなくて、もはや“カマキリになりたい”という意識なんですよ(笑)。2回目のロケの前には、『カマキリの手のところに、こういうの(たくさんの細かいトゲ)が付いているでしょ、これが大事なんですよ!』と香川さんからのダメ出しを受けて作り直しましたし、今は、『秋にやることになったら、秋のカマキリは体の色が茶色くなるので、そのへんの色合いもリアルにしてほしい』とリクエストをいただいています(笑)」

──「ねほりんぱほりん」も、「昆虫すごいぜ!」も、非常に個性の強い番組なんですけれども、大古さんが番組を作る上で心掛けていることは何でしょうか?

「『ディープピープル』(2010〜2012年NHK総合)という番組で、ボクシングの元世界チャンピオン3人の対談をやったとき、畑山隆則さんが『ボディを殴られたら、翌日コーラ色のおしっこが出る』とおっしゃったんですね。その発言を聞いた視聴者の方々は、その後、ボクシングの試合中継で選手がボディを決められているのを見たときに、『この人は明日、コーラ色のおしっこが出るんだろうな〜』と想像することができる。あるいは、『ねほりん』の『議員秘書』がゲストの回を見た人が、国会でああだこうだと揉めている映像を見たら、『秘書の人もきっと今ごろ大変だろうな』と思いを馳せると思うんですよ。

そんな風に、僕が作った番組を見ることで、新しいものの見方とか楽しみ方を見つけてもらえたらうれしいですね。番組自体を楽しめるように作るのはもちろんですが、それを見た人が、普段の生活の中でも楽しみを持てるような、そんな番組を発信し続けていきたい。とにかく僕にできることは、“楽しみを伝える”ということだけですから」