甲府は24節を終了して残留圏ギリギリの15位。16位とは勝点1差だ。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 8月27日の川崎フロンターレ戦は、結果こそ2-2の引き分けだったが、ヴァンフォーレ甲府にとって収穫のある戦いだった。

 川崎はJ1最強のポゼション力を持ち「アクション」で相手を上回ろうとするチームだ。対する甲府は23節を終えた時点でわずか12得点。前任の佐久間悟監督(現GM)が「我々はボールを持っている時がピンチ」とぼやいていたことさえある。基本的には耐えて少ないチャンスを仕留めるスタイルのチームだ。
 
 例えば今年4月16日の7節・アルビレックス新潟戦は早々に速攻から先制を許すと、そのままボールを「持たされる」展開で0-2の敗戦を喫した。昨季に比べて守備は大きく改善している。一方で攻撃面の課題解消はなかなか進んでこなかった。
 
 ただし徐々に、少しずつだが、そのような甲府の「長患い」が克服されつつある。27日の川崎戦は相手にPKで先制を許したもの、70分にリンス、74分にドゥドゥと畳みかけて一時は逆転。リーグ戦24試合目にして二度目の複数得点を挙げ、90分に追いつかれたものの初の逆転を記録した。
 
 試合後に川崎の鬼木達監督はこう述べている。
「奪われたところの回避に向こうもチャレンジしていた。そこで奪えないことで自分たちがリズムを崩した」
 
 川崎は前に人をかけて攻めてくるチーム。ボールを失った後も急いで帰陣するのでなく、押し込んだまま相手ボールを奪いに行く発想が強い。甲府にとってはすぐ奪い返されることが最悪で、広いスペースに大きく蹴ってしまう選択は安全。しかしこれをやり過ぎると自分たちの時間を作れず、試合運びが安定しない。
 
 甲府は川崎のハイプレスに対して、ショートパスによる「回避」を試みた。新井涼平はこう振り返る。
 
「持たれる時間が増えてしまうかなというのがあったけれど、そういう中でも意識的に自分たちでボールを持って行こうということで試合に入った。怖がらずに全員がボールを受けて、ポジションを取り直した結果がああなった。やればできると試合前から思っていましたし、それが上手く出た」
 
 チーム全体で、判断を伴ってボールを動かすというメカニズムの浸透には得てして時間がかかる。ただ甲府は4月にできていなかったことが、8月に入ってできるようになった。新井も「キャンプからずっと取り組んできて、ここ何試合かは自分たちが意識的に近い距離を取って、ボールを受けたがれるようになっている」と認める。キャンプからの積み上げが半年を経て、ようやく形になった。
 
 兵働昭弘もこう述べる。「相手がプレッシャーに来ても離れすぎず、味方がいいところに立てばボールを動かせるという分析だった。そこの立ち位置だけみんながしっかりとるようにやっていた。恐れず、怖がらずボールを受けて、また叩いた後にもう一回ポジションを取り直すことをみんなが意識してやっている。それが大分スムーズになってきた」
 
 ボールをただ長く持ってもゴールが生まれないというサッカーの真理は、様々なチームが証明している通りだ。しかし効率的に、相手が嫌がるボールの動かし方ができれば、ポゼションは勝利への近道になる。
 
 甲府が川崎戦で見せたプレスの回避、開放はそこまで目立たないプレーだが、ボディーブローとして効いていた。川崎側にACL準々決勝の激戦から中3日というハンデはあったにせよ、それが2得点の遠因になった。
 
 もちろん「ポゼションで甲府が川崎を上回った」というほどの劇的な成果は出ていない。この試合で甲府が自分たちの時間を長く作れた、ボールを持てたといっても保持率はせいぜい4割。甲府が攻撃の狙いとする最大のオプションはカウンターだ。