決して圧倒的な強さがあったわけではない。しかし、手堅さ全開のその試合運びは、強かったころの横浜F・マリノスを彷彿とさせるものだった。


F・マリノスの今季リーグ最小失点を支える中澤佑二

 果たして、横浜FMは本当に強いのか――。リーグ戦13試合負けなしを続けているチームだが、どこか懐疑的な想いはぬぐえなかった。鹿島アントラーズのような勝負強さはなく、セレッソ大阪や柏レイソルのような勢いも感じられない。それでも、負けていないのだから弱くはないのだろう。

 ただし、「負けない」と「強い」はイコールでは結ばれない。清水エスパルスやサンフレッチェ広島といった下位チームにあっさりと引き分けてしまうところが、真の実力を表しているのではないか。それが試合前の横浜FMに対するイメージだった。

 8月26日、横浜FMはホームにFC東京を迎えた。結論から言えば、試合前のイメージは大きく覆されるものではなかった。

 立ち上がりから横浜FMは、実に手堅いサッカーを展開していた。前から献身的にプレスをかけ、中盤にボールが入れば複数人で囲い込む。サイドバックもリスクを負わず、自分のポジションをしっかりとケアし、ゴール前ではDF中澤佑二とDFミロシュ・デゲネクのCBコンビがしっかりとボールを跳ね返す。

 FW大久保嘉人、FW前田遼一という得点王経験者を2トップにそろえたFC東京の陣容は、脅威を感じさせていたが、横浜FMの堅実な守備の前にほとんど何もできなかった。

 横浜FMにとっての前半唯一のピンチは39分。ラインの背後をMF郄萩洋次郎に突かれ、GKと1対1の場面を作られてしまう。しかし、GKの頭上を狙った郄萩のシュートは枠を外れ、難を逃れている。

 この場面、横浜FMは両サイドバックがともに攻撃に出てしまったことがピンチの原因となった。カウンターを浴び、ラインが整わないところを郄萩に突かれてしまったのだ。バランスを崩せば、ピンチを招くのは物の道理。これ以降、横浜FMは同じ轍(てつ)を踏むことはなかった。

 一方で横浜FMの攻撃も機能していたとは言えなかった。MF扇原貴宏が正確なサイドチェンジで幅を広げ、両翼のFW齋藤学とMFマルティノスを走らせたが、ドリブルに優れる両者であっても、単独で打開するのはなかなか難しい。時折左サイドバックのDF山中亮輔が攻め上がり、齋藤と効果的に絡んだときには可能性を感じさせたが、その機会は多くなく、相手を押し切ることはできなかった。

 もっとも後半に入ると、その山中の攻撃参加の頻度が高まり、齋藤がドリブルで仕掛けられる機会も増加。また、ボランチの扇原が高い位置を取ることで攻撃の迫力を増していく。この左サイドの連係が効果を発揮するなか、83分に決勝点もここから生まれた。

 齋藤の折り返しを受けた扇原が深い位置からクロス。これを途中出場のFWウーゴ・ヴィエイラが打点の高いヘッドで合わせてFC東京ゴールを陥落した。その後、昨季得点王のFWピーター・ウタカを送り込み、前線の人数を増やしてきたFC東京に対し、横浜FMはDF栗原勇蔵を投入して5バックにし、この1点を守り抜いた。

 これで横浜は14試合負けなし。しかも、5試合連続無失点というおまけつきである。

 好調の要因はやはり、その守備に尽きるだろう。この試合でも一度はバランスを崩したとはいえ、すぐさま修正し、クリーンシートを達成した。堅守の理由を守護神のGK飯倉大樹はこう説明する。

「試合のなかで一度や二度、ピンチはありますが、そういうところでも自分やボンバー(中澤)も含めて、どうにか守り切れるようになっている。それを今後も継続していきたいし、それがうちらの戦い方。身体を張って、みんなで守って一瞬の隙を突く。そういう戦い方が、ここ数試合で形になっていると思う」

 いわば、忍耐の戦いである。いかにバランスを崩さず、リスクを回避できるか。そして一瞬の隙を逃さずに圧力をかけて、ゴールを呼び込んでいく。圧力をかける役割は左サイドがカギを握り、ゴールを奪うのはポルトガル出身の頼れるストライカーだ。

 開幕前は「ボールを大事にするサッカーをしたい」とエリク・モンバエルツ監督は話していたが、試合を重ねて結果を出すなかで、ひとつの形を見出したのだろう。勝ちパターンを確立し、横浜FMはこれで2位に浮上。今オフにチームを大刷新し、開幕前はネガティブな要素に満ちていた名門が復活の狼煙を上げている。

 もっとも、課題がないわけではない。それはやはり攻撃面。FC東京戦ではウーゴ・ヴィエイラに助けられたものの、チャンスの数自体は決して多くなく、そのままスコアレスドローで終わっていてもおかしくはなかった。また、両翼のスピードを生かすべく、カウンター気味に攻めたときにはチャンスが生まれるが、遅攻となった際には攻め手を失っていた。エースの齋藤にいまだゴールが生まれていないことも、看過できない問題だろう。

 さらに、この14試合で上位陣との対戦は川崎フロンターレのみ。そうしたスケジュール面も無視することはできない。

 その意味でも、絶大な強さはやはり感じられない。しかし、得てして優勝するチームとは、そういうものなのかもしれない。あれよあれよと勝ち続け、気づけば頂点に立っている。過去の優勝チームを見ても、堅守という特長がその要因となっているケースは少なくない。ひとつの勝ちパターンを手にした横浜F・マリノスが、2004年以来の王座奪還へ――。それも、夢物語ではなくなってきた。

■Jリーグ 記事一覧>>