写真撮影/金井直子

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残暑でまだまだ暑いですね。夏といえば「縁側でスイカ、庭で花火」というのが筆者の幼少期の楽しい思い出。そんな日本の夏の原風景に憧憬を抱きながらも、暑さや蚊の侵入を考えると「窓を大きく開けて過ごすのは無理、一日中エアコン必須」という人は多いでしょう。屋外から風を入れて涼をとるような自然に寄り添った暮らしはどうすれば実現できるのでしょうか。猛暑なのにエアコンも網戸もなし、という日本の原風景を表しているような古民家カフェがあると聞き、夏の過ごし方や防虫対策について伺ってきました。

古民家には網戸がない!? 虫よけ対策はどうしているの?

日本の伝統的な家屋は“夏をもって旨とすべし”と、夏涼しく過ごせるよう開口部を大きく取っているのが特徴です。そうした大きい掃き出し窓などについているのが網戸。虫の侵入を防いでくれる頼もしい存在ですが、網戸があると美しい里山の風景や日本家屋の雰囲気を損ねてしまうのも事実です。

昔の日本家屋は網戸のない家が多く、そうした家がどう防虫対策をしていたかというと、蚊取り線香を焚き、夜には蚊帳を吊ってその中で就寝していました。数は減ったものの、今でもそういった暮らしをしているお宅はあるのではないかと思います。

個人宅ではありませんが、現代でも窓を開け放ち、自然の風で涼をとる暮らしを大切に考えている人たちがいます。例えば「古民家カフェ」。軒数は少ないですが、建物の落ち着いた雰囲気を損なわないよう、網戸もエアコンも付けていないというお店があります。そうした古民家カフェでは、夏の虫よけや暑さ対策はどうしているのでしょうか。3軒のカフェのオーナーに、自然に寄り添った夏の過ごし方やお店づくりへの思いを伺いました。

網戸のない古民家カフェ[1] 広縁から入る海風と和の風情を味わう

【画像1】L字の広縁。木枠の窓が古の風情を感じさせ、2方向に開いた窓から海風が入ります。畳にちゃぶ台、団扇と扇風機……。古き良き日本の暮らしが凝縮された空間です(写真撮影/金井直子)

「てぬぐいカフェ 一花屋(いちげや)」は、鎌倉の静かな住宅街にひっそりとたたずむ古民家カフェ。大正時代に建てられた築80年ほどの古民家で、長らく茶室として使われていたそうです。10年ほど前にこの建物と出合ったオーナーの瀬能笛里子さんによって、カフェとして始動しました。

瀬能さんのお気に入りポイントは、L字型をした開放感のある広縁。通常より幅の広い廊下が南東側にあり、ここから自然の風を取り込んでいます。
「海が近いので、海風が結構入ってきて心地いいですよ。窓から入って玄関へ抜ける風の道ができています。無風のときはさすがに暑いですが、お客様には扇風機と団扇で涼をとっていただくなど、古き良き和の暮らしを感じていただければと思っています」と瀬能さん。
冷房の強い空間に長時間いると、外に出たときに温度差で体が参ってしまうことがありますが、自然から涼を得る空間では、体に無理のない範囲で夏の暑さを受け入れる暮らしの良さを実感することができるといいます。

虫よけ対策は、蚊取り線香を庭、玄関、厨房の3カ所で焚いているのみ。市販の蚊取り線香は化学合成した薬剤を使ったものが主流ですが、瀬能さんが使うのは植物の除虫菊を用いた昔ながらのもの。「化学的な薬剤のタイプだと体調が悪くなることがあるので、自然のものにこだわっています」(瀬能さん)

瀬能さんは「蚊はいますよ」と言いますが、筆者がこのお店に滞在した1時間半ほどの間、蚊にはさされませんでした。お店に入る直前に道で2カ所さされたのとは対照的です。「蚊取り線香が“結界”をつくっているのかもしれませんね」と話す瀬能さんでした。

【画像2】写真左/庭で焚かれている渦巻き型の蚊取り線香。天然の除虫菊をつかった蚊取り線香は茶色なのです。写真右/緑に囲まれた広縁は特等席。和みます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部、金井直子)

【画像3】写真左/うっそうと庭木が茂る入口付近。緑が多いためか、外の通りには蚊がいました。写真右/玄関にはおよそ100種の手ぬぐいを展示。ほかに器や和小物、オーガニック製品も扱っています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部、金井直子)

【画像4】写真左/夏のオススメメニュー「冷たいほうじ茶と杏仁とうふ」。写真右/手作り感溢れるメニュー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「てぬぐいカフェ 一花屋(いちげや)」
・所在地:神奈川県鎌倉市坂ノ下
・アクセス:江ノ島電鉄・長谷駅から徒歩約5分

網戸のない古民家カフェ[2] 都市の喧噪を忘れさせる境内の隠れ処

【画像5】光を受けて色濃く輝く庭園の緑が来店者を迎えてくれます。書院造りの広々とした室内に、樹木の間を通り抜けることで冷やされた風が入ってきます(写真撮影/金井直子)

「ぼうず’n coffee」は、正確には古民家カフェではなく「お寺カフェ」。お店があるのは、およそ500年前の室町時代に開山した「祥雲寺」という由緒あるお寺の境内です。祥雲寺は東京メトロ有楽町線・副都心線の要町駅から徒歩3分ほど、池袋駅からも歩いて10分ほどというアクセスしやすい立地。今年4月に開業したばかりの、お寺が経営するカフェです。

この建物は本堂の隣にあり、通常は法事の控え室として使われています。昭和9年(1934年)に旧皇族・伏見宮家の別邸を譲り受けて、この地に移築をしたという由緒ある建物でもあります。そのため、カフェは法事で使用予定のない日のみオープンしています。

店主は副住職の西澤応貴さん。「仏教って人から離れていると感じることがあります。昔、お寺は学校であり公民館であり、人の集まる場所でした。だから敷居を低くしたいと思って、寺にカフェをつくることにしたんです」。そのため、大学卒業後、西澤さんはパティシエの専門学校でお菓子づくりを学び、その後、仏教の修行を積んだという経歴をもちます。

庭園の豊かな緑を望み、野鳥の声が耳に心地よく響く、そんな環境は都会にあるお店とは思えない雰囲気。庭をぼうっと眺めて過ごせる、ゆったりとした時間が流れています。「もし、ここに網戸があったら?」と考えてみると、やはり心地よさや雰囲気を損ねてしまうだろうと感じます。
「庭の緑を目にしたり、庭を散策したり、縁側でのんびりくつろぐなどして過ごして頂ければと思ったので、窓は開け放っています」と西澤さん。

気になる蚊対策は、蚊取り線香をぬれ縁に2カ所置き、効果が8時間持続するスプレータイプの防虫剤を使っているほか、「モスキートマグネット」という機器を使っています。これは、蚊の好む二酸化炭素を発生させて蚊をおびき寄せ、捕獲ネットに閉じ込める装置。お寺はお参り用の水場と緑があることで蚊が大量に生息しており、そのため境内に4台ほど設置してあるとか。
「窓が全開なのでまったく虫がいないわけではありませんが、これら3種類の防虫対策でしっかり追い払えているようです」と西澤さん。確かに、2時間ほどの滞在時間で蚊の存在を感じることはありませんでした。

まさに都会の隠れ処的な「ぼうず’n coffee」。ゆったりとした時間を求めて来店する人が増えているそうです。

【画像6】写真左/庭園に面した濡れ縁は人気席だそう。座布団も完備しています。写真右/副住職お手製の「ほうじ茶ゼリーと抹茶ラテ」は暑い日にピッタリ(写真撮影/金井直子)

【画像7】副住職の西澤さんとお母様の2人で接客と厨房を担当します(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像8】写真左/濡れ縁で頑張る蚊遣り豚さん。写真右/お墓で稼働中の「モスキートマグネット」。メーカー希望小売価格17万9000円(税別)と高額ですが、敷地が広く、蚊の多いお寺には強い見方です(写真撮影/金井直子)

「ぼうず’n coffee」
・所在地:東京都豊島区池袋 「祥雲寺」内
・アクセス:東京メトロ有楽町線・要町駅から徒歩約3分
※不定期オープン。来店前に要確認を

網戸のない古民家カフェ[3] 水と緑の風景も味わえるとっておきの場所

【画像9】川に面した絶好のロケーション。春には満開の桜を望めます(写真提供/三宅商店)

「水辺のカフェ 三宅商店 酒津」は、倉敷の酒津公園近くの川沿いに立つ古民家を改装したカフェ。お座敷のテーブル席のほか、川を望むカウンター席、オープンな縁台席もあります。このお店は倉敷の美観地区・本町通りの「町家喫茶 三宅商店」の2号店で、1号店と共に岡山で人気の高いお店です。

店主の辻信行さんはおよそ15年前から、町家を再生する街づくりで倉敷の美観地区への観光客集客に尽力してきた人物。「三宅商店では、その建物の歴史そのものまで引き継げればと考えているので、昔ながらの自然に寄り添う暮らしを大切に考えています」と辻さん。

8年前にオープンした「水辺のカフェ 三宅商店 酒津」は川のせせらぎの音や風鈴の音色、葉のそよぐ音など、周りから受ける涼しげな印象とも相まって、自然のままを体感できる場となっています。「エアコンに慣れた体でしょうから、ウチの店に来たら『暑いな』と感じるお客様は多いと思いますが、自然の恩恵を体感できる豊かさも提供できればと思っています」(辻さん)

肝心の蚊対策ですが、蚊取り線香と窓にぶら下げるタイプの蚊よけを用いていて、虫よけの効果が感じられるそうです。水と緑に囲まれた環境ですが、流れのある川なので周辺に蚊はあまり発生していないとのこと。

大きな窓をオープンにして川を望みながらまったりできる空間では、忙しすぎて忘れてしまった時間を取り戻せそうだなと感じました。

【画像10】風通しが良さそうな店内。畳敷きでゆったりほっこりできる空間です(写真提供/三宅商店)

【画像11】川と川岸の緑が目の前の水辺のカウンター席。夏には簾で遮光(写真提供/三宅商店)

【画像12】写真左/美観地区にある「町家喫茶 三宅商店」。戦前から続く荒物屋「三宅商店」の屋号と建物の風情を引き継いでいます。襖を外した大空間は風の抜けの良さが特徴。写真右/モーニング、ランチのほか、スイーツも種類豊富で人気だそう(写真提供/三宅商店)

「水辺のカフェ 三宅商店 酒津」
・所在地:岡山県倉敷市酒津
・アクセス:JR山陽本線・倉敷駅から車で約10分

蚊にさされやすいのはどんな人? かゆいのはアレルギー反応って本当?

「網戸なしでも大丈夫かもしれない。自然の風景を望みつつ、風を受けて暮らしたい」と思ったら、改めて蚊の基礎知識について確認しておきましょう。

蚊のエサは主に花の蜜などで、産卵期のメスだけが血液を求めて人をさします。行動範囲は50m四方。1日のほとんどの時間を暗がりで休んでいると言われています。人をさす蚊は次のように主に2種。
●ヤブ蚊…主に屋外で昼間活動する・気温30℃前後で活発化・かゆみが強い
●イエ蚊…主に屋内で夕方から夜にかけて活動する・気温25℃前で活発化

蚊は次のような人を好んで近寄っていくそうなので、該当する人は要注意です。
●呼気に二酸化炭素が多い人(アルコール摂取後、運動直後など)
●体温が高い人(妊婦、赤ちゃんなど)
●汗をかいている人(運動後、入浴後など)
●暗い色の服を着ている人
●足が臭う人(足裏の常在菌が多い人)

蚊にさされてかゆさを感じるのは、蚊の唾液に対するアレルギー反応。蚊の唾液……なんて嫌な話ですが、唾液には人間に気づかれないための麻酔のような成分と、血が固まらないようにする成分が含まれています。実は、蚊は吸血後に自分の唾液を吸い込んで去って行くので、吸血中にパシッと叩いてしまうとその成分が残ったままでかゆみを発生してしまいます。さされてしまって、かゆみを最小現にしたいなら最後まで吸血させた方がよいそうです。何だか、話をしているだけでむずがゆくなります。

ハーブ、蚊取り線香……蚊を近づけないためには?

●水場を撤去して蚊の繁殖を防ぐ
蚊は流れのない水場を好み、そうした水の中に産卵します。水が1cc程度というほんの少しの量でも繁殖が可能なので、バケツなど雨水が溜まるような場所は撤去しましょう。

●蚊の嫌がる香りの[忌避剤]を家に置く・体にスプレーする
蚊は柑橘系の果物やハーブ(ミント、ローズマリー、ユーカリなど)に含まれる物質の香りを嫌います。輪切りの果物を置いたり、アロマオイルを焚いたりすることで、蚊よけになります。市販の窓や玄関に吊す虫よけ製品のほとんどは、こうした蚊の嫌がる天然成分を配合したものか、化学合成したもの(ディート、イカリジンなど)で、殺虫成分は入っていません。

●蚊取り線香など殺虫成分のある[殺虫剤]を使う
虫除けの代名詞といえば、渦巻き型の蚊取線香。100年以上前から使われているロングセラー製品です。蚊取り線香は「白花虫除菊」(通称:除虫菊)という植物に含まれる殺虫成分ピレトリンによって、煙の及ぶ範囲において効果を発揮します。現在は化学合成したピレスロイドという殺虫成分を用いた製品が主流。
製品の形態は、渦巻き型のほか、火を使わない電気蚊取り、ワンプッシュで効果が数時間持続するスプレー式防虫剤など、多彩。

●身体や足を洗う
蚊は人間の汗の臭い、足裏に潜む常在菌の臭いに引きつけられるので、外出時や就寝時等に身体や足を洗い、洗った足に常在菌が再付着しないよう床掃除をすれば、寄り付く確率を減らせます。

これまで筆者は何の疑問ももたず、網戸を使っていましたが、こうした古家カフェなどの影響を受けて、網戸なしで過ごしてみました。虫対策は「窓の側に天然ハーブの忌避剤を置く」「12時間効果が持続する殺虫スプレーを撒く」の2点。その結果、意外と虫が入ってこないことが分かりました(ただし、わが家は蚊があまり入ってこないと言われている6階なので、低層階や一戸建てにお住まいの方には参考にならないかもしれません)。おかげで網戸に損なわれることなく、自然の景色を望む日々を過ごしています。

まだまだ暑さが続くので、エアコンが必須という日は多いでしょうが、暑さが多少和らいだときには、窓を開け放って夏を満喫してみるのもいいものだと感じた次第です。立地や家のつくりによって最適な虫よけ対策の度合い・方法はさまざまですが、網戸を全開にして開放的な夏を味わってみるのも、ときにはよいものかもしれません。

●取材協力
手ぬぐいカフェ 一花屋
・ぼうず’n Coffee
・水辺のカフェ 三宅商店 酒津
(金井直子)