あなたは「哲学」と聞いてどんなイメージを浮かべますか?

堅苦しくて、役に立たない、頭の良い人たちが勉強しているもの…様々な意見があると思いますが、共通して言えるのは「自分たちの生活に馴染みのないもの」という認識かもしれません。

さくら剛さんの著書『(推定3000歳の)ゾンビの哲学に救われた僕(底辺)は、クソッタレな世界をもう一度、生きることにした。』(ライツ社)では、そんなあなたのために、哲学を物語形式で分かりやすく解説しています。

登場人物は、冴えない青年の「ひろ」と、数千年前にゾンビになってしまった「先生」の2人。このゾンビ先生は偉大な哲学者たちと共に世界の真理を探究してきた人物で、身近な例えを用いて、ひろに哲学を教えていきます。

今回紹介するのは「哲学とは何か?」という基本的な授業内容です。

万物の起源は
「哲学」である

先生:おまえは哲学にどんなイメージを持っておる? 哲学について知っておることはあるか?

 

ひろ:あれでしょ? 「このまま真っ直ぐ進んで5人轢くのと、右の路線に入って1人轢くのでは、どっちが正義か」みたいなやつでしょ? なんだか数学や科学と違って結論も出ないし、グチグチと役に立たない議論をするつまらない学問のような気がします。

 

先生:まったく…おまえはどうしようもないバカじゃのう。この結論は5人が正解じゃよ。

 

ひろ:え!? どうして!?

 

先生:だってその方が、食料も増えるじゃろ。

 

ひろ:それはゾンビ側の意見であり、あなただけの視点でしょうが!

 

先生:では聞くが、「自分の勝手な視点」以外の視点がこの世のどこにあるんじゃ。例え「他人の視点」を想像しても、それは「他人はきっとこのような考えだ」と決めつけただけの勝手な妄想じゃ。おまえが他人の肉体に乗り移ることができない限り、その人の思考を持つことなどあり得ぬ。

 

ひろ:ああもう、そういうスパッと結論が出ないところが哲学のイヤなとこなの。

 

先生:そこじゃ! そこがまさに哲学に対する誤解なのじゃよ!

 

ひろ:どこ?

 

先生:おまえは物理や数学を哲学とは別のものと考えているが、そもそもそれらの学問はすべて同じものだったのじゃよ。最初は物理も数学も化学も、みんな哲学だったんじゃ。

 

ひろ:えぇ!?

 

先生:哲学の起源は、紀元前6世紀〜7世紀頃。「哲学の祖」と呼ばれるタレスは「この宇宙の根源は何か」を考えた。そして、万物の根源は水である。つまりこの世界のあらゆるモノは水からできていると説いたのじゃ。その後も他の哲学者たちは「世界は◯◯でできている」と自身の考えを述べた。

 

ひろ:それって、まさに物理ですよね。

 

先生:当時は「自然哲学」と言い、あくまでそれらは哲学の一種であった。他にも、政治学や心理学などの学問も哲学に集約されていた。つまり「人間が探求しようとしていたこと」は、なにもかも哲学だったのじゃ。

 哲学=アイドルグループ?

ひろ:では、なぜ現代では哲学の中に物理や化学が含まれていないのさ。独立? 卒業?

 

先生:まさに独立じゃ。物体の運動法則や動植物の生態、政治のあり方…。それぞれの分野が具体的な成果を挙げられるようになり、個別でも十分役に立つ知識であると認められると、その分野は哲学から独立し、物理学や生物学といった新しい学問になるのじゃ。

 

ひろ:おお〜そうだったんだ。あれかな? アイドルグループで言ったら、力をつけた主要メンバーがグループを卒業して、タレントとして独り立ちするようなものかな?

 

先生:なんじゃそれは?

 

ひろ:哲学から学問が独立するのは、さながらアイドルグループでセンターに立っていた人が次々と卒業していくようなものかなって。

 

先生:そういうことじゃな。どうじゃ? 現在の哲学の位置づけも、今の例えで分かったかな?

 

ひろ:え? 今の哲学の位置づけ? 何も分からないけど…。

 

先生:哲学から物理学や数学といった有力な学問が抜けていったら「残された哲学自体」はどうなるのか? アイドルグループから有力なメンバーが全員抜けてしまったら、元のメンバーたちはどうなる? 

 

ひろ:うーん。なんだか目立たない地味なグループになっちゃいますね。

 

先生:そうじゃろ。主力がいなくなれば、特徴もはっきりしない、何だかよく分からない集団になるはずじゃ…。そして、それはまさに現代の哲学のポジションに通じるのじゃ。

 

ひろ:そうきましたか!

 

先生:特徴が固まり力をつけた主要な分野が、次々と個別の学問として独立していく。その結果、哲学の本体に残されるのは、はっきりしないよく分からない、役に立つ気もしない、という印象の薄い課題ばかりになるのじゃ。

 

ひろ:じゃぁやっぱり、哲学は役に立たないってことじゃないか!

 

先生:まったくおまえは浅いのう。考えてみるのじゃ。今までもアイドルグループから主要メンバーが抜け、スター不在の状況になったことがあるじゃろ。その後、残された者たちはどうなった? そのまま消えたか? 

 

ひろ:ううん、そんなことないよ。最初は「大丈夫かな?」って思ったけど、その中から必ずグループを背負うメンバーが現れるんだ。そうして主要メンバーに成長した子たちが、またグループを支えて人気を盛り返していくのさ!

 

先生:そうじゃろ。哲学だって一緒じゃ。ひとつの学問が抜けると「残された哲学」は一見正体不明の役立たずなものに思えてしまう。しかし、その残った哲学の中からまた必ず次世代のエースが生まれ、哲学を盛り立てていく。そしてそのエースは哲学から独立し、個別の学問になる…。残された哲学は一時的に輝きを失っても、その中には必ず新しい光の可能性を含んでいる。その可能性を見つけられるかどうかは、哲学に触れる我々次第なのじゃ。

 

ひろ:なるほど。

 

先生:よし。これで分かったな。では、わしは先に帰るぞ。

 

ひろ:あ、先生! 次の授業は!?

 

先生:会うべき時に、わしらは会えるじゃろ。では、またな!

ソクラテス、ニーチェなど、さまざまな偉人が残した哲学を、現代に溢れるモノや現象に例えて分かりやすく解説した哲学入門書。物語は、主人公と先生の会話形式になっているので「小難しい参考書は苦手」という人にもおすすめの、ライトに読める一冊です。