本誌のドキュメンタリーページ『シリーズ人間』に登場し、「あのキレイだけど押しの強い弁護士はナニモノ?」と、巷をにぎわせた仲岡しゅん弁護士。その正体は、男性として生まれ、数年前に女性に「トランス」した男と女のハイブリッド弁護士!大阪生まれ、大阪育ちの若き闘士は、悪を許さぬ正義感と、美貌に似つかぬ義理人情を盾にして、法律を武器に日々奮闘中。そんなハイブリッド弁護士がトラブルをシュッと解決!
 
【今回の相談】「賃貸で住んでいる一戸建てが、先日の水害で床上浸水してしまいました。引っ越そうと家主に伝えたところ『水害被害による畳の張り替え、壁の染み抜き、そのほか清掃費が必要で敷金は全額、返金できない』旨を伝えられました。自然災害による汚れや破損なのに、敷金は返してもらえないのでしょうか?」(40代女性・専業主婦)
 
【回答】「自然災害によって生じた住宅の損害は、通常、敷金から差し引かれるものではない」(仲岡しゅん)
 
敷金に関する今回のご相談。「敷金」とは、賃貸人の賃料債権などを担保するために賃借人から賃貸人に支払われる金銭で、賃貸借契約終了の際、賃借人に賃料の不払いその他の債務不履行があれば、その金額を控除して賃借人に払い戻すべきお金のことです。
 
ここでポイントなのは、「賃料の不払い」と「その他の債務不履行」があれば敷金から差し引かれる、という点です。
 
1つ目の「賃料の不払い」の場合には敷金から差し引かれるわけですが、今回のご相談で家主が差し引くと言っているのは、水害による損害の補償。賃料の不払いではありませんから、これには該当しませんね。
 
次に、2つ目の「その他の債務不履行」。債務不履行は、ざっくり言うと「契約違反」のこと。たとえば、通常の生活ではありえないほど部屋を汚損してしまったとか、居室を勝手に喫茶店に改装してしまったような場合です。こういう場合には、債務不履行で敷金から差し引かれます。
 
しかし、債務不履行が認められるには、あなたの側に「落度」があることが必要。今回のご相談のケースは、水害という自然災害が原因であって、あなたには何ら「落度」はありません。そうすると、あなたに債務不履行はありません。
 
こうしてみると、自然災害によって生じた住宅の損害は、賃料の不払いでも債務不履行でもありませんから、通常、敷金から差し引かれるものではないということですね。それでも大家さんからは、「いやいや、自然災害の場合でも敷金から差し引くて、契約書に書いてありまっせ?」と言われるかもしれません。
 
そういう場合、契約書の内容にもよりけりですが、ご参考までに判例(最高裁・平成10年9月3日)をご紹介しておきましょう。賃貸借契約終了時に敷金から一定額を差し引くという契約になっていた建物が、地震で倒壊したケースです。この事案で最高裁は、「特段の事情がない限り、敷引特約を適用することができない」と、敷金から差し引けないとの判断をしています。
 
つまり、契約書に特約を記載するのも基本的には有効ですが、事案によっては無効と判断される場合もあるということです。まずは大家さんと交渉してはいかがでしょうか。わたくしだったら、そうします。