日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。

彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。

これまで、行動&言葉を巧みに操る男女、草食男の意外な行動に振り回される港区女子、“誘い受け”の攻防を繰り広げる男と女の話を紹介してきた。

第4回は、互いを“最高の恋人”と称賛するカップルのお話。

何か裏がありそうなこの男女、一体どちらがウワテなのだろうか…?




私の“最高の彼”を、紹介しますね。


こんにちは。大手町の総合商社に勤務しております、加奈子(27)と申します。

職種は、一般事務。近い将来結婚したら、寿退社するつもりです。

“女は、男と子どもを支えるために在れ。”

古い考えとおっしゃるかもしれませんが、まさにこの価値観を体現する家で育てられた私には、このような人生こそ、女としての成功に他なりません。

3年間お付き合いしている亮君も、私と同意見です。

彼は、外資系証券会社の営業マンとして多忙を極める生活。結婚後は女性は家庭に入り、家のことを全てして欲しいそうです。麻布で同棲中の今も、もちろん家事は全て私がしています。

でも彼はその分、ちゃんと私を大切にしてくれています。

例えば、毎月のお付き合い記念日には、流行りのレストランに必ず連れて行ってくれます。今月は、『六本木テラス フィリップ・ミル』でフレンチを堪能しました。

「こういう格式の高いお店に連れて行きたいと思った女性は、加奈子が初めてだよ」

亮君はいつも照れくさそうに、こう言ってくれます。

休日は時々、彼の愛車のアウディでドライブに行きます。この間は、横浜までドライブした後、サプライズでスカイクルーズまで準備してくれました。

その日はちょうどどこかで花火大会があったようで、立体的なまん丸の花火に、息をのむほど目を奪われました。

「休日も出張で、ゆっくりできない日が多いから」

本当に愛情深い、“最高の彼”ですよね。


一途な面の皮をかぶった、恐るべき女の本心とは…!


出張が多くて、週末もあまり一緒にいられないことなんて、全然気にしていません。彼の出世を、純粋に応援するばかりです。

浮気はしていないと思います。私の時で最後だと、言っていました。

そう、私たちの始まりは…浮気からでした。

彼と出会ったのは、大学の先輩・千佳さんのホームパーティでした。

「ひとりで来たの?」

隅っこで気後れしていた私にワイングラスを差し出しながら、ほんのり赤く染まった笑顔で話しかけてきてくれたのが、亮君でした。

その出会いから彼の家を訪れるまで、そう時間はかかりませんでした。




彼の“一番イイ女”になるには、黙って門戸を開いておくだけ


3回目の夜を過ごした翌朝。朝8時頃にインターホンが鳴ったんです。

寝ぼけまなこでインターホン画面を見に行った彼の背中が、急に緊張したように強張りました。後ろから画面を覗きこむと、怪訝そうな顔をした若い女性が映っていました。

その後何度かインターホンが鳴りましたが、彼は通話ボタンを押さず、こちらにも背を向けたまま、立ち尽くしていました。私は、全てを悟りました。

「…私のところに来てくれるのを、待ってる。亮君が好きです」

それだけ言い残して、私は彼の家を出ました。

男の人って、罪を赦されることが愛されていることだと信じている、可愛いイキモノなのです。

だから黙って門戸を開いておけば、勝手にそれを愛情だと解釈してくれる。扉をノックしてくるのは、時間の問題です。

3日後。彼からの着信でスマホが震えた瞬間に、私は自然と口元がほころんでしまいました。

私が本命の彼女(と他にもきっといた女性たち)に勝ち、彼にとっていなくてはならない、“一番イイ女”の称号を獲得できた瞬間。

女としての価値が証明され、私は歓喜に酔いしれていたのだと思います。

「つきあって欲しい」という彼のはずんだ声に、私は「はい」と情緒たっぷりに声を詰まらせました。

―彼女を裏切って選んだ女の元に、今、僕は走っている。

こういう時、映画の主人公ばりにロマンティックなドラマを脳内で描いている男性には、ちゃんとヒロインとして合わせてあげないと、ですよね。

彼は今でも歴代彼女の中で私を一番大切にしていると言いますし、結婚も考えてくれていると思います。


私も彼一筋?いえ、とんでもありません。


私、亮君の出張時に密かに会っている男性が、2人ほどいるんです。

だって、複数の男性から愛されている方が女としての価値を認識できますし、亮君より素敵な方と出会える機会にもつながるかもしれません。

“女としての価値を高めてくれる存在を、大切にする。”

私の行動の動機は、至ってシンプル。だから素敵な生活を提供してくれる亮君にも、2人の「仮氏」にも、惜しみなく愛情を注ぎます。

亮君は、今週末も出張。先ほど「今から東京を出る」と電話があったので、私は心をつくした言葉で送り出しました。

「行ってらっしゃい。戻る日には、美味しいご飯を作って待ってるね」

彼は嬉しそうに「ありがとう」と言って、電話を切りました。

万事、順調。私も今から、行ってきますね。


一方、亮が抱く加奈子への気持ちとは?


僕の“最高の彼女”を、紹介しますね。


亮(27)です。六本木の外資系証券会社で、営業を担当しています。

会社近くの麻布のマンションに加奈子と住んで、もう1年になります。

加奈子は僕にとって、 “最高の彼女”です。




毎日僕より早起きをして、愛情のこもった手料理を準備してくれている。

仕事や接待が忙しくて朝帰りをしても、嫌な顔一つせずに「お疲れ様」と労ってくれる。週末に出張で家を空けて連絡が少し途絶えると、「忙しかったんだね。体調は大丈夫?」と心配してくれる。

加奈子が彼女だからこそ、仕事を頑張れるし、安心して他の女性と羽を伸ばせます。


始めは加奈子も、浮気からのスタートでした。


加奈子といたあの朝、当時の彼女が訪ねてきた時には、さすがに血の気が引きました。加奈子には、彼女がいると言っていなかったし、鉢合わせて揉めたら困るなと。

インターホン画面を見つめながら、加奈子を追い返す言葉を必死に考えました。

やっと振り向いた僕を待ち受けていたのは…責めでも悲しみでもなく、慈愛に満ちた瞳でした。

加奈子は「待ってる」とだけ言って、帰っていきました。

こんなに無条件に想ってくれる人が、いるでしょうか?僕の狡さをもひっくるめて、一切をただ受け止めてくれる人。

当時の彼女など、僕の忠誠心を確認するために、ルブタンの靴をねだるばかりだったというのに。

ほどなくして僕は、当時の彼女に別れを告げました。

別れ話を終えた後すぐに加奈子に電話をして、「今から行く。付き合って欲しい」と伝えました。

女性って、こういう劇的な展開が好きでしょ?

彼女が嬉しさのあまり言葉を詰まらせていたこと、いまだに覚えています。よほど僕のことを好きだったのでしょうね。

3年経った今も、加奈子は変わらずに僕に忠誠的な愛情を注いでくれます。だから僕も、彼女をとても大切にしています。


僕にとって、都合が“一番イイ女”として。


面倒な家事は、率先してこなしてくれる。あまり構ってあげなくても、文句を言わない。浮気がばれても、きっと離れていかない。

僕は投資案件を担当しているので、職業柄、リスクヘッジは常に意識しています。

彼女は、倒産の心配がなく、最後の砦として常に担保しておける、非常に貴重な優良企業だといえます。そのために割くわずかな投資など、何の負担にもなりません。

月に1〜2回ほど彼女のために時間を取り、“君が初めて”という方便で「私は愛されている」と彼女に信じ込ませられるなら、安いものです。

ちなみに僕はまだ、結婚は考えていません。同棲は、身の回りのことをしてもらえるのと、結婚願望を匂わす手段として活用しているだけです。

少し羽を伸ばしたい時には、出張を口実に使えばいいだけですしね。今も電話でしっかりフォローしました。

「ねえねえ、誰と電話してたのー?」

あ、今隣にいるこの子は、この前、食事会で出会った女性です。これから箱根に一泊してきます。

手足がすらっとしたモデル体型に、妖しい光をたたえた強気な瞳。加奈子とは正反対の、美しいどう猛さを感じます。

よく男の浮気について、高級なものばかりを食べているとたまにカレーが食べたくなる…などと例えますが、僕は少し違います。

僕にとって加奈子は銀しゃり、遊ぶ女性たちはその上で艶々と光るネタです。

銀しゃりは当然在るべき寿司の一部。美味しいネタを引き立たせるものです。対してネタは、その上に君臨する上質な存在。その時々の気分で選べるものです。

常に2つ揃っていることで、僕のお腹は満たされ続けるというわけです。

「…何だか、楽しそうだね」

彼女の声ではっと我に返り、僕は笑顔で答えました。

「会社の部下だよ。忠誠的で、いつも頼む前にしっかり仕事をしてくれるんだ」


互いに愛されていると信じ、尽くし合うカップル…勝負の結果は?


男を使い分けて自分の価値を認識する女と、安全性を担保するために女を大切にする男性。

貴方が思う本当の勝者(ウワテな方)は、男?それとも女?

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