< マレーシア・ヌグリスンビラン州 > ディンさん マレーシア男性20代

 

マレーシアの首都クアラルンプールから車で約1時間ほど南東へ行くと「ヌグリスンビラン州」という地区に入る。クアラルンプールから比較的近いとはいえ、まだそれほど近代化されておらず伝統的な建物が多く残る地域である。ここには複数の「ボーディングスクール」が存在しているが、今回筆者はヌグリスンビラン州在住のある教師から某学校内で起こっている幽霊のウワサについて話を聞くことが出来た。

ところで、ボーディングスクールとは何であろうか?

 

通常の学校設備に加えて寮の設備も併設されており、生徒はここで寝泊まりをして教育も受ける。日本ではあまり馴染みのないタイプの学校だが、こうした寄宿設備を兼ねた学校は欧米ではよく知られたスタイルであり名門校も存在しているほどである。

 

今回のエピソードはそんなボーディングスクールに勤務する若い教師ディン(仮名)から聞いた話である。ディンはボーディングスクールで働いて2年、まだまだ新米っ気の抜けない若手で主に英語の授業を担当している。東南アジアの英語は時に独特な文法だと揶揄(やゆ)されることがあるが、彼の英語は文法に準じており彼自身の対応も丁寧で、良き好青年という印象を受けた。筆者がその点を褒めると彼は喜んだが、直後にやや疲れた様子を見せて次のように語った。

 

「でも心配な事もありまして…生徒がときどき何かに取り憑かれたようになることがあるんです」

 

親元を離れて見知らぬ土地での学校生活となれば、孤独感からストレスが溜まり生徒によってはヒステリック状態に発展して暴れてしまう事例は少なくはない。10代の多感な時期であればなおさらであろう。それは一概に幽霊と関連づけなくてもいいのではないかとディンにいった。

 

「はい、それもそうなのですが‥なんというか、あまりにも突然なんです」

 

ディンがいうには、突然暴れだす生徒はストレスの兆候が見受けられる生徒に限らず、明るく楽しんでいる生徒にも起こっているのだという。それだけではない、生徒が暴れている時は奇声を発したり、まったく別人のような顔つきになったりすることもあるそうだ。

 

「私も最初はストレスのせいだと思っていたんです。でも最近になってあるウワサを耳にしまして…。実はこの学校は以前、心霊スポットの建物だったらしいのです」

 

なんと、彼の勤務する学校は心霊物件をリフォームした建物だった。

 

心霊スポットと呼ばれる建物は日本にも数多く点在している。小さな家のような物件からビルのように大きな物件まで様々だ。ディンの学校は寄宿設備まであることから、それなりの規模なのだろうと思う。ちなみに、だれかの不幸が起こって心霊スポットになるケースは当然あるのだが、だれも亡くなっていないにもかかわらず心霊スポットになるケースもある。

 

筆者が去年、関西のある霊能者と怪談会を行ったときのことだった。話の流れで心霊スポットの話題になり、ちょうどそのころにネット上で目にした興味深い心霊映像をその霊能者に見せたことがあった。その動画はニコニコ動画では有名な心霊映像らしく、ある男性がビデオカメラを手に全国の心霊スポットを行脚するという内容であった。そのシリーズの中で筆者が選んだのは新潟県のR村を撮影した動画だった。

 

地元の方であればR村と聞いた時点ですぐにおわかりいただけるかと思う。あそこが丸ごと心霊スポットと呼ばれるには複数の事件や事故が過去にあったのではないかと思い、少し過去を漁ってみたがそれらしい記録を見つけることはできなかった。わかったのは経営難からの廃業らしいということだけで、それならば幽霊が出没するというのは単なるウワサではないかと筆者は思い、霊能者にその動画を検証させてみようと考えたのである。

 

動画撮影者が階段で地下へ降りていくと視界の端で勝手にドアが閉まるシーンと、その奥の突き当たりで黒い影がシュッと隠れるシーンのふたつを霊能者に見せた。すると間もなくして霊能者は、

 

「ウウウゥゥ‥‥頭が痛い‥、あー‥痛いわ‥これは場所どこですか?」

 

霊視でかなり参った状態になってしまったのである。しかしさらに確認してみたいと思った筆者は関東のある霊能者にも同じ映像を見せた。するとその霊能者は次のように語った。

 

「ドアは間違いなく閉まってますね。反射ではありません。閉まる音も聞こえます。それと、奥で動いた影ですが、一体の霊ではありません。二名…かな?子供の気配も感じますし…こちらをチラチラうかがうしぐさも感じます。かなり良くないですよコレ。撮影者が直進せずに右に曲がったのは正解です。もし直進していたら無事では済まなかったかもしれません」

 

ディンの学校もリフォーム前に事件や事故等はなかった可能性がある。とすれば、その古い建物に幽霊が出るというウワサがあろうとも、経営者は単なるウワサだと一蹴して、無駄な経費をかけまいとお祓いも何もしなかったのかもしれない。ディンの学校の生徒は今現在でも突然奇声を発して暴れだすことがあり、その力は数人がかりでやっと抑えつけることができるほどだという。

 

「私は生徒の相談には常に乗っていますし、悩みを抱えていそうな生徒にはこちらから話しかけるようにしています。それでも、異常な状態になる生徒はまったくのランダムのように発生しています」

 

憑依と思われる現象は特定の生徒に限って起こらないという。おかしくなった生徒については親とも相談し、親元に帰る選択肢すら提案しているそうである。ところで、それほど頻繁に憑依が起こっているのであれば、生徒のだれかが幽霊を見たりはしていないのだろうか? R村の黒い影のように。

 

「それについては写真などで霊を撮ろうとしたことはありませんので…。ここには大勢の生徒が寝泊まりしています。意図してそんな行動をすれば、生徒をさらに不安がらせることにもなりますし……。私は、生徒を守らなければならないのです。ですから、たとえそのような記録があったとしても学校外に送るようなことはできません。あまりお役に立てず、申し訳ありません。私自身もボーディングスクールの出身なのです。私は生徒を守らなくてはならないのです」

 

ディンは真面目でいいやつだ。筆者はこれ以上彼を不安にさせまいと思い、学校での心霊現象に関する話題をやめ、ただ彼にエールを送った。

 

文=MASK校長

 

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