先日娘とテレビでアンパンマンを観ていたら突然星野 源が歌い出し始めて混乱したんですが、あれは『ビオレu』のCMだったんですね。人気タレントが前面に出ていて商品の印象が薄いCMだなあなどと考えていて、はっとしました。星野 源がすでに「企業にとって、前面に出したくなる人気タレント」になっているということに。


あれよあれよという間に誰もが知る存在にまで登りつめた星野 源。この人を見ていると、「もしかしたら、我々は今とんでもないスターが誕生する瞬間を目の当たりにしているのでは?」と思うときがあります。


8月16日にリリースされたニューシングル「Family Song」を入口に、改めてこの方について考えてみたいと思います。


 


J-POPの基準を更新する「Family Song」


前述した『ビオレu』のCMソング「肌」も入った4曲入りシングル「Family Song」ですが、この表題曲がとにかく素晴らしいんですよね。


びっくりしたのは、まるで往年のソウルシンガーかのようなボーカル。彼の歌の元来の良さであるやわらかさ、マイルドさに、ソウルマナーのバラード(公式サイトによると今回の楽曲は「60年代末から70年代初頭のソウルミュージックを、ヴィンテージ・エフェクトに頼らず、一から2017年に日本的に立ち昇らせたいという思いでレコーディングを重ねました」とのこと)をがっちり歌いこなすために必要な力強さや艶っぽさが加わりました。


サウンド面で注目すべきは、楽曲を通して重要な役割を果たしているストリングスの使い方。一歩間違えると下品になりそうなものを流麗に聴かせる手腕はさすがです(このあたりの技は前作「恋」でも冴えていました)。


とかくストリングスを敷き詰めてインスタントな豪華さを醸し出しがちなJ-POPシーンにおいて、弦楽器の緩急が効果的に表現されているこういう曲がチャート1位になっているのはなかなか画期的なことではないでしょうか。



 


家族の普遍性を射抜く


「Family Song」は“現代の日本が生んだ【過保護の象徴】のような女子大生・カホコが主人公”というドラマ『過保護のカホコ』の主題歌です。ドラマに連動して、この楽曲の歌詞は家族のあり方に関するものになっています。


結婚はしない、しても遅い、子供は産まない、男女以外の恋愛もある(と少しは言いやすい世の中になった)、グローバルな人間関係が当たり前になったなど、かつての「標準」が崩壊して共同体のあるべき姿を各人が考えざるを得ないのが今の時代です。


そういう状況において放たれる“血の色 形も違うけれど いつまでも側にいることが できたらいいだろうな”というフレーズが持つ強さは、なかなか感動的でした。どんな形であっても、誰かと一緒にいること、誰かをいとおしいと思うことは尊い。そんなことを考えずにはいられません。


 


時代の空気を体現する存在に


ここで注目すべきは、星野 源が今の社会全体に漂う空気、つまりは「人と人の結びつき方が変わりつつある」という世の中のムードを全身で体現する存在になっていることです。


そのきっかけが、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(逃げ恥)であることに疑いの余地はありません。夫婦とは? 老いと若さとは? などなどこの先の日本社会の指針を示したと言っても過言ではないドラマの主演を、彼は見事に務め上げました。


主題歌「恋」および「恋ダンス」が爆発的にヒットして、ポップアイコンとしての地位を確かなものにしたのは記憶に新しいところです。ただ、それ以上に重要なのは、彼が『逃げ恥』を通して「今の社会におけるあらたなスタンダードを提示する存在」として認知されたことなのではないかと思います。


その流れからのドラマ『プラージュ』(訳ありの人たちとシェアハウスに住むという役どころ)であり、「Family Song」であると考えると、彼の立ち位置がよりクリアになります。


そもそも、星野 源というキャラクター自体、その佇まいは非常に「今どき」です。甘いマスクではないけど清潔感があって親しみやすい(絶妙に手の届きそうな)ビジュアル、文筆やコントまであらゆるジャンルを網羅する才能、若くして生死の境をさまよったこともある波乱万丈のライフストーリー……裏にはしんどいことを抱えていても、肩ひじ張らず飄々といろいろなことをこなす。


ドラマの役柄からだけでなく、自身の生き様からもある種のロールモデルを発信しているのが今の星野 源です。まだスケール的にはおよばないかもしれませんが、彼がいる場所のもう少し先にはかつての松田聖子や木村拓哉といった「時代全体に影響を及ぼすスター」の姿があるように思えてなりません。


 


全方位での評判を継続中


1stシングル「くだらないの中に」でしっとりとした歌声を響かせたのが2011年3月。インストバンドのSAKEROCKのメンバーというバックグラウンドもあり、最初はどちらかというと文化系寄りのコミュニティ(≒「わかってる」と自負している人たち)での支持が中心だったかと思います。


あれから6年ちょっと、今では彼は『anan』の表紙を飾るまでになりました。すごいなと思うのは、ここまでの存在になっているにも関わらず、「セルアウトした」「売れたからもう終わり」という類の声が当初の支持層からもあまり聞こえてこないところです。


マス向けの露出を続けながら評論筋でも最重要人物としてその動向が注目されているわけで、「いちばん売れている人がいちばんやばい」という素晴らしい状況が彼のおかげで日本の音楽シーン、および芸能界に生まれています。


「マス」にも「通」にも等しく好かれる存在であり、さらにはその表現で芸能の基準、もっと言えば社会の基準にまで働きかけようとする星野 源。ここまで射程を広く持ったアーティストをリアルタイムで体験できている我々は、非常に幸福なのかもしれません。この先どんなところまで行くのか、次の世代に詳細に伝えられるくらいしっかりと目に焼けつけていきたいと思います。


TEXT BY レジー(音楽ブロガー/ライター)



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【星野 源 チャンネル】