ドイツのベルリンで、スワスティカ(かぎ十字)の落書きを描き変えるイボ・オマリ氏(2016年5月11日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】ドイツの首都ベルリン(Berlin)に、ネオナチが描いたスワスティカ(かぎ十字)などの落書きを「愛とユーモア」によって包括的社会のカラフルなシンボルに変えようとしているストリートアーティスト集団がいる。

 ドイツ当局が反移民プロパガンダの広がりといった極右活動の急激な増加を報告している中、そうした動きに対抗する「ペイントバック(Paintback)」という運動を行っている。

 グループの創始者イボ・オマリ(Ibo Omari)氏(37)は「私たちはストリートアーティストとして『(極右主義者たちに)君たちはグラフィティを悪用している』というメッセージを送りたかった。グラフィティは人種差別主義とは全く関係ない。グラフィティとは、鮮やかな色彩で多様なバックグラウンドを表現するものだ」と語った。

 ストリートアーティスト向けの画材店を営むオマリ氏は、ブレイクダンスやストリートアート、ヒップホップDJやスケートボードなどを通じてドイツ人と移民の若者同士をつなぐ組織「カルチュラル・エアーズ(Cultural Heirs)」を運営している。

 ラップ・クラシックのアルバムカバーが壁に飾られた部屋にあるペイントバックの本部では10代のメンバーが、ネオナチが少数民族を脅すために使っているかぎ十字を新しいデザインに変える練習をしている。フクロウ、蚊、舌を突き出したウサギ、ルービックキューブ、キスをする男性カップル、窓辺のネコ──ナチス・ドイツ(Nazi)のシンボルを変身させるための想像力は限りない。

 17歳のメンバー、クレメンス・ライヒェルト(Klemens Reichelt)さんは「アイデアを思いつくのは難しいことではないよ」と話す。「かぎ十字はベルリンにふさわしくないと思っているから、この活動が好きなんだ。ベルリンは世界に開かれた街で、僕はそのことを守りたい」

 オマリ氏と大人のボランティア数人は街角でかぎ十字を発見すると、若者たちが考えたモチーフを使って「美化」を行う。

 このプロジェクトが始まったのは、近所の住民がオマリ氏の店にペンキを探しに来たことがきっかけだった。「彼はグラフィティアーティストのようには見えなかったから、どうしてペンキが欲しいのか尋ねたら、子どもたちの公園にスプレーで描かれたかぎ十字を隠したいからと答えたんだ。そんなことをする人が、それもシェーネベルク(Schoeneberg)にいると知って僕たちは大きなショックを受けた」。シェーネベルクは中流階級のドイツ人、トルコ人、アラブ人家族が多く暮らし、過去1世紀に及ぶ同性愛者向けのにぎやかなかいわいもある地区だ。

■衝撃と無力感を行動に

 しかし、憎悪のシンボルであるかぎ十字の落書きは一度きりではなかった。2015年の難民危機の際にアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相が国境を開放し、100万人以上の亡命希望者を迎え入れたことに反発するかのように、公園やアパートの建物などに次々とかぎ十字が現れるようになった。

 ドイツの情報機関は今月、政治的動機による犯罪が昨年7%増加したと報告した。その3分の1は「プロパガンダに関する犯罪」だったという。

 オマリ氏の両親は、オマリ氏がまだ母親のおなかの中にいたときにレバノンを脱出し、難民としてドイツに来た。彼は自分が感じた衝撃と無力感を、ドイツの首都に何か足跡を残したいと願う地元の若者たちの助けを借りて、行動に変えたと語る。

「20年以上前に見て以来、かぎ十字は見たことがなかったのに嫌な変化だ」。オマリ氏は1930〜40年代のナチスの時代とユダヤ人虐殺に触れ「残念ながらここ何年かで時代の潮流が変わり、僕たちは若い世代に、過去に起こったことがそれほど昔のことではないのだと教えなければならなくなった」と語る。「こういう醜い感情にどう反応するべきか、僕たちは長い間、じっくり考え抜いた。そして、ユーモアと愛で答えればいいという結論にたどり着いたんだ」

「(グラフィティには)可愛いらしく小生意気なイメージを選んでいる。子どもたちが描いたものが多い。グラフィティアーティストでなく初心者でも描けるようにね」。今では近所の住民たちは、かぎ十字を見つけるとグループに連絡してくるようになった。

 オマリ氏は「それほど頻繁に見つかるわけではないが、一つでも見つかれば一大事だ」と語った。2016年5月以降で約20のかぎ十字を描き変えたという。

 ドイツでは、かぎ十字やその他ナチスのシンボルを掲示することは違法だ。だが、それらを自分で処理しようとすることもまた、法律に抵触する。オマリ氏は「その場所の所有者の許可を得ることが大事だ。他人が悪いことをしているからといって、自分も同じようにしていいわけじゃない。僕たちは、誰にも違法なことをしてほしくはない」と説明する。

 グループの活動はソーシャルメディアを通じて他の都市にも広がっている。インスタグラム(Instagram)やフェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)ではハッシュタグ「#PaintBack」を付けて画像がシェアされている。グループが制作した動画はユーチューブ(YouTube)で10万回以上再生されている。
【翻訳編集】AFPBB News