睡眠負債を溜め込まない! 質のよい眠りのために重要な3つの習慣

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わずかな睡眠不足がまるで借金のように積み重なっていく「睡眠負債」。ガンや認知症など生命にかかわる健康被害のきっかけともなり、日々の生活の質を低下させていくさまが「NHKスペシャル」などテレビでも取り上げられ、大きな注目を集めている。

1日6時間の睡眠を確保している人でも陥りがちだというこの睡眠負債を溜め込まないためにはどうすればいいのか。著書「スタンフォード式 最高の睡眠」で上質な眠りの必要性を説いている睡眠研究の第一人者、西野精治教授に話を聞いた。

──1日何時間寝るのが理想的なのでしょうか?

7時間が一応の基準ではありますが、多忙なビジネスマンが毎日7時間眠るのはなかなか難しい。重要なのは眠った時間数ではなくて、眠り始めの90分をどう眠るか、です。この時間を私は”黄金の90分”と呼んでいます。

──なぜ最初の90分なのでしょう。

ご存知のように睡眠はレム睡眠(身体は眠っているが脳は活発に活動している)とノンレム睡眠(身体とともに脳も休息している)を繰り返しています。眠り始めの90分とは最初のノンレム睡眠の周期であり、睡眠全体のなかで最も深い眠り。ここをしっかり眠れば、その後の睡眠リズムも整うし、自律神経やホルモンの働きがよくなり、翌日のパフォーマンスも上がります。



──女性はよく、美容のために22時〜24時の2時間を眠るといいますが。

実は何時に寝ようが関係はないのです重要なのは、できるだけ定時にベッドに入って最初の眠くなったタイミングを逃さないこと。なぜかといえば、グロースホルモン(成長ホルモン)がもっとも多く分泌されるのがこのタイミングだから。この一番深い眠りの質が悪かったり、何かのきっかけで阻害されたりするとグロースホルモンは正常に分泌されません。

ヒトはいくつになっても成長し続けていますから、このグロースホルモンが分泌されないということは早く老けてしまう。美容にも当然よくありません。

また、この”黄金の90分”が脳にとっても非常に大切な時間であることはあまり知られていません。脳は1日のいろいろな記憶をこの”黄金の90分”で海馬から大脳皮質にコピーし、記憶を保存するとともに、イヤな記憶を消去しているのです。記憶というとインプットばかり意識されがちですが、不快な記憶や不要なことは忘れさるというのも大切でしょう(笑)。

ほかにもホルモンバランスを調整する、免疫力を上げる、脳の老廃物を除去するなど、この”黄金の90分”が果たしている役割は数多くあります。まずはベッドで最初に訪れる眠りを逃さないことが大切です。

──でもついベッドでスマホを見たり、翌日のことを考えたりして眠れないんです。

健康な人の場合、目を閉じて10分以内で入眠しますが、寝つきが悪くて苦労する人も多いですね。そんな方には体温をコントロールして眠りのスイッチを入れる方法をおすすめします。

まず、私たちの体温は筋肉や内臓が熱を発する深部体温と皮膚温度の2種あるのですが、 深部体温は日中の覚醒時に高く、通常皮膚温度より2℃ほど高い。でもよく子どもが眠くなると手が熱くなるように、大人も入眠時には手足が温かくなる。つまり皮膚温度が上がって熱を放散し、深部体温をさげているのです。

ということは、スムーズに眠りに入るためには、皮膚温度と深部体温のギャップをできるだけ小さくすればいい。具体的にはぬるめの入浴や足湯などで体温を上げ、下降していくプロセスで眠りに入りやすくなります。

また、昼間たくさんの刺激を受けて活発に動いた脳のスイッチをオフにするのも大切。私のスタンフォード大学の同僚やトップアスリートなど、睡眠の質にこだわる人たちは早朝から旺盛に活動して、午後の遅い時間には重要な会議など入れません。夕方から脳を休める準備に入っているわけです。

そこまでできなくても、暗く落ち着いた部屋で、心地よい寝具にこだわり、できるだけ同じ時間にベッドに入るようにするなど、睡眠時の環境を整えることは非常に重要です。なかでも寝具は私も開発に携わったエアウィーヴがおすすめです。入眠時の体温下降を促進させるため通気性がよく、身体をしっかりと休めることができます。また大量の飲酒はおすすめできませんが、リラックスできるのであれば少量の飲酒(一合程度)も許容範囲です。

──8時間ぐっすり寝ても翌日の会議で眠気を抑えられないことがあるんですが…

それは会議の内容の問題でしょう(笑)。日本の会議ではみんな発言しませんが、アメリカの会議で発言しない人は『そこに存在しない』人とみなされるので、とにかく参加意識を持って発言すること。そうすれば眠くなるヒマはないでしょう。

というのはまあ冗談としても、眠いときには20分ほど仮眠をとるのも得策です。最近では”パワーナップ”という言葉もあるほど、仮眠は注目されており、グーグルやナイキなど一流企業は勤務時間中の昼寝を推奨しています。

『30分未満の昼寝をする人』は、『昼寝の習慣がない人』に比べて認知症発症率が約6分の1だといえば、昼寝=身体に良いと思いがちですが、一方で『1時間以上昼寝する人』は、『昼寝の習慣がない人』より2倍の発症率で認知症を発症するというから難しい。忙しいビジネスパーソンが30分以上昼寝をするのも現実的ではないでしょうから、仮眠をとるなら20分程度、というのがよさそうですね。

睡眠という人生のほぼ3分の1にあたる時間をどうマネジメントするか。米企業のエグゼクティブたちやトップアスリートはすでにそこに注目し、睡眠こそが覚醒時のパフォーマンスを上げる基本であるとして、変革に取り組み始めている。「果報は寝て待て」となるか否か、すべては”黄金の90分”にかかっているというわけだ。というわけで私も今夜は早く休むとしよう。おやすみなさい。


「スタンフォード式 最高の睡眠」(サンマーク出版刊)

西野精治◎世界最高の睡眠研究機関と呼ばれるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)で所長を務める西野精治教授。睡眠・覚醒のメカニズムを分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。「睡眠の謎を解き明かして社会に還元する」をテーマに、多くのアスリートや眠りにこだわる方々からも支持されている寝具「エアウィーヴ」の開発研究にも携わる。