最初の歯科では歯を残せると言われたのに、次に行った歯科では抜歯すべきという診断。同じ歯なのに、歯科医によって診断が違うのはなぜ?

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例えば、親知らずが痛み始めて、かかりつけの歯科が予約でいっぱいだったとき。やむなく違う病院に行ったところ、あっさり「抜歯」の判断。え〜っ! 前の病院では抜歯しなくていいと言われていたのに……。診療中、こんな話をときどき耳にすることがあります。

歯科医が変わることで診断が変わるのはおかしな感じもしますが、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか? わかりやすく解説します。

診断は複数の要素を総合的に判断して行われる


まず知っておいてほしいのは、歯の診断も「複数の要素を総合的に判断して行う」ということです。1つの項目だけをチェックして、単純明快に1つの答えを出せるものではないのです。

例えば、患者さんの感じている痛みの有無、抜歯の難易度、歯の位置、磨きやすさ、治療後の耐久性、噛み合わせの重要度、他の歯への悪影響度、本人の歯磨き能力、年齢などなど、判断項目を具体的に挙げていくと何十項目にもなるでしょう。さらに、各診断項目もゼロイチだけで判断できるものではありません。

診断結果や提案される治療法が歯科医によって異なるのは、これらの項目のひとつひとつに対する考えが少しずつであれ異なること、それまでの各歯科医の治療経験から、よりよいと考える治療法が異なる場合があること、患者さんの希望を聞きつつも、口内環境にとってのデメリットをどこまで許容できるか、といった判断が多少異なってしまうからなのです。

どちらかが正しくて、どちらかが誤診しているわけではないと考えた方がよいでしょう。

抜歯の診断時、歯科医が頭の中で考えていること


実際の診療では使用しませんが、例として項目を数値化しながら、医師が抜歯を薦める場合の考え方をご説明しましょう。

口の中にとってデメリットかメリットかを「-5」から「+5」までの数値で判断した場合、中程度の腫れや炎症で患者さんが困っている症状は「-2」と仮定します。デメリットがややある状態なので、何らかの方法で治療しなくてはなりません。抜歯すると炎症は早く改善しそうですが、それは正しい治療法でしょうか?

そこで次に、炎症が起きている歯を残すかどうかを考えます。歯を残すことでちゃんと食べ物が噛めて、よい噛み合わせが維持できるのであれば、口にとってはとてもよいことなので「+4」。もし噛み合わせる相手の歯がないなど、抜歯をしてもしなくても総合的な影響があまりなさそうな場合は「0」と考えます。

これらの数値から、腫れが多少あっても、その部分の歯を守ることで得られるメリットは-2+4=「+2」。噛み合わせを含めて大事な口内環境を守れるので、抜歯をしない方がメリットが高いと判断します。

しかし、抜歯をしても現在の状態よりも悪化する心配があまりなさそうな場合は、-2+0=「-2」。この場合は「-2」の症状である炎症ケアのために、抜歯も視野に入れて判断するかもしれません。

もちろん、実際の判断基準は上記で並べた通り、非常に多いです。日常の臨床では、何をどのポイントで計算したかをひとつひとつ解説することはありませんが、各歯科医は診察時にこれらの項目を総合的に頭の中で判断して合計点を弾き出し、マイナスポイント側に振れる場合は、「抜歯をした方がよい」という判断をしているのです。

治療を行う立場から考えると、歯を残すデメリットが大きいと判断できなければ、抜歯は行いません。歯科医で意見が分かれるのは、上記の例で言うならば合計点が-2から-3あたりの歯が多いのだと思います。

満場一致! どの病院でも抜歯と判断される場合は?


歯科医の判断が分かれることがある一方、よくあるのが本当に抜歯するしかない状態でも、大丈夫と言ってくれる歯科医を探してしまうケース。抜歯という治療法を認めたくないのかもしれませんが、病院を変えても同じ診断を繰り返されることになってしまいます。

例えば、歯が2つに裂けている場合や、歯周病で骨から歯が完全に離れてグラグラしまっている場合は、臨床的には「すでに歯が死亡している」状態と考えます。こうなると、自分が希望する別の治療法を提案してくれる歯科医に出会うのは難しいでしょう。

どんな名医も死んだ人間を治療で生き返らせることができないのと同じで、本人がいくら大丈夫と思っている歯でも、完全に死亡している歯を治療できる歯科医はいません。救える可能性が全くない歯の場合は、どの歯科で診断してもらっても、抜歯で満場一致するのです。

薦められた治療法を受け入れられない時はどうすべき?


もちろん、最初に診察を受けた歯科医からの診断に納得がいかない場合は、セカンドオピニオンを取り入れて、別の歯科医にも念のため判断してもらうのも一つの方法。だからといってただ数多く診断してもらうのは、ただのドクターショッピング。「彷徨える患者」になってしまい、その間にさらに口内環境を悪くしてしまうリスクもあります。

オススメは、歯科の場合であれば、上記のような判断基準に、患者である自分の希望を追加してもらうことです。例えば、「長持ちしなくても良いから取りあえず残して欲しい」。逆に、「不安要素はなるべく排除したい。耐久性、確実性を重視したい」などです。

一般的には、抜歯で歯科医の意見が分かれるようなグレーゾーンの症状では、患者さんの思いによって診断結果が左右されることもあるもの。患者としての判断基準を新たに加えてもらうことで、最終的な判断に患者さん自身の考えを反映させることができます。

それでも抜歯の判定になった場合は、おそらく歯科医としては譲りにくいマイナスポイントがかなり大きいということでしょう。無理をして残してもメリットが少ないケースと考えた方がよいかもしれません。
(文:丸山 和弘)