吉元由美の『ひと・もの・こと』

作詞家でもあり、エッセイストでもある吉元由美さん。先生の日常に関わる『ひと・もの・こと』を徒然なるままに連載。

たまたま出会った人のちょっとした言動から親友のエピソード、取材などの途中で出会った気になる物から愛用品、そして日常話から気になる時事ニュースなど…様々な『ひと・もの・こと』に関するトピックを吉元流でお届けします。

しなやかに、道を拓いていった女性たち
〜映画『ドリーム』が教えてくれたこと

2017年9月公開の映画『ドリーム』の試写を観てきました。1960年代初頭、冷戦下のアメリカとソ連が宇宙への有人飛行に向けてしのぎを削っている中、NASAの研究所で大きな貢献をした黒人の女性数学者たちがいました。まず、こんな女性たちがいたことに驚きます。まだ人種隔離政策の中にあったアメリカ。バスの座席もトイレもレストランもColoredと書かれた場所にしか入れない。白人たちが黒人をあからさまに侮蔑的に見ている中で、いかに尊厳を持って生きていくか。ちょうどマーティン・ルーサー・キング牧師が公民権運動の指導者として活動していた過渡期。黒人、それも女性が白人男性社会で生きていくのは、並大抵のことではなかったはずです。

キャサリン、ドロシー、メアリーという3人の天才数学者たちは、NASAで計算手として働いていました。昇進を願えるはずもなく、どんなに優秀であってもそれ以上の道はなかったのです。そんな環境の中で、キャサリンが初の有人飛行であるマーキュリー計画に配属され、白人男性のチームの中で、さらに冷ややかな差別を受けながらも貢献しようと奮闘します。

この先はネタバレになってしまうので控えますが、私が生まれたころにまだこのような人種隔離政策があったことに少なからず衝撃を受けました。人間が宇宙に行くという科学の進歩の一方で、人間の精神は進化したのか。そのふたつは決して正比例しないものなのだと、考えさせられます。

しかし、そんな時代にあってNASAで黒人の女性の道を切り開いた彼女たちは気持ちがいいほどしなやかです。ユーモアとくじけない心と卓越した知性で、ジョン・グレンがアメリカの宇宙飛行士として初めて地球の軌道上を3周するというミッションに貢献したのです。そして素敵なのは、妻、母親という役割も彼女たちにとって大きな役割だったということ。子どもたちに誇りを持って生きることを教え、信心深く、あたたかい家庭を築いた彼女たちは、現代の女性たち以上に女性的であり、先進的だったのではないでしょうか。先進的であるためには、淡々とやるべきことをやり、しなやかな忍耐力を持って自分を最大限に生かしていくこと。後年、キャサリン・ジョンソンは、その時代の仕事、家庭、子育てについてインタビューにこう答えています。

「同時に複数のことをこなすことは、女性はいつだって男性よりも上手だから問題はなかったわ」

なんて痛快な答えでしょう。観終わってこんなにさわやかで、勇気が出た映画は久しぶりでした。

「私には夢がある(I have a dream)。いつの日か、私の4人の幼い子どもたちが、肌の色ではなく、人格で評価される国に暮らすようになるという夢が」

原題の『Hidden Figures』。邦題の『ドリーム』はかけ離れていますが、おそらく女性たちの目指した夢と、キング牧師のこの演説からつけられたのではないかと推測します。そして、女性として幸せになる、という夢もそこにこめられているのかもしれません。ドリームという一見するとありふれた言葉の中に、たくさんの思いがこもっている。人間は素敵だなあと思った作品でした。

最後に。1960年代のファッション、車、そしてファレル・ウィリアムズの音楽もご機嫌でしたよ。

映画『ドリーム』
2017年9月29日 全国ロードショー
© Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved. © Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.出

[文・構成/吉元由美]

吉元由美

作詞家、作家。作詞家生活30年で1000曲の詞を書く。これまでに杏里、田原俊彦、松田聖子、中山美穂、山本達彦、石丸幹二、加山雄三など多くのアーティストの作品を手掛ける。平原綾香の『Jupiter』はミリオンヒットとなる。現在は「魂が喜ぶように生きよう」をテーマに、「吉元由美のLIFE ARTIST ACADEMY」プロジェクトを発信。
⇒ 吉元由美オフィシャルサイト
⇒ 吉元由美Facebookページ
⇒ 単行本「大人の結婚」