茨城県知事選の応援に駆けつけた小泉進次郎議員(写真・横田一)

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 都議選(7月2日投開票)で歴史的敗北、仙台市長選(7月23日投開票)でも野党統一候補に競り負けたアベ自民党が、茨城県知事選(8月27日投開票)を"踏み台"に政権浮揚をはかろうとしている。

 立候補は、自公が推薦する元経産官僚でドワンゴ役員の大井川和彦候補、7期目を目指す現職・橋本昌候補、共産党推薦の鶴田真子美候補の3人だが、大井川候補と橋本候補が保守分裂の激戦を繰り広げており、自民党は「内閣改造後、初の大型地方選挙」と位置づけて、大物国会議員が続々と現地入り。国政選挙並の総動員体制で臨んで、自公推薦候補勝利につなげて10月の衆院トリプル補選への弾みをつけると同時に、都議選で悪化した「自公の関係修復」もする狙いが見え見えなのだ。

 安倍政権の"本気度"は、告示前後に現地入りした国会議員の顔ぶれをみると一目瞭然だ。告示前から菅義偉官房長官や石破茂氏らが駆けつけ、告示日には山口那津男・公明党代表、そしてラストサンデーを含む先週末の3日間にも、18日(金)に再び石破氏、19日(土)には岸田文雄・政調会長(前外務大臣)や石井啓一・国交大臣や加藤勝信・厚労大臣、そして20日(日)には小泉進次郎・筆頭副幹事が茨城に入り、元経産官僚の大井川和彦候補の応援演説をしたのだ。さらに、進次郎氏や石破氏は25日(金)にも応援に駆けつけている。

 永田町の論理(都合)が地方に持ち込まれる異例の展開に対して、7期目を目指す橋本昌知事は「『中央対県民党』の戦いだ」と反発。「自民党から自民党県議45人に130万円ずつ(合計で約6000万円)が配られた」と報じられたことから、11日の古河駅前での街宣では「金権選挙NO!」「県民党の底力」と横断幕に掲げ、次のような自民党批判で対決姿勢を露にした。

「何で首相官邸が、自民党が(茨城県知事選に)関与してくるのか分かりません。森友・加計問題、あるいは日報問題で支持率が下がっているわけですから、それをこっちの選挙で勝って上げようというのは無理な話です。日本全体の政治をきちんとしてもらわないといけない。そんなに自民党国会議員がこっちに来る暇があるのなら、自民党の議員を減らせばいいのですよ。給料をもらいながら選挙運動ばかりやってもらっていては困る」(橋本氏の街宣)

▼原発再稼働も争点に! 再稼働に反対の現職知事VS"原発推進"経産省出身の自公推薦候補

 原発政策でも橋本氏は、自民党の違いをより鮮明にした。日本原子力発電の「東海第二原発」(東海村)の再稼動に対して慎重な姿勢を示していたが、10日の告示日には「東海第二原発再稼動に反対」と踏み込んだのだ。もちろん「県知事選が近づいたから急に再稼働反対と言い始めた。選挙対策だ」との疑念や批判の声もある。だが、すでに共産党などが推薦する鶴田真子美候補が再稼動反対と廃炉をいち早く訴えていたことから、「再稼動反対の現職と新人の2候補VS原発推進の安倍政権直系候補」という対立軸も急浮上することになったのだ。

 一方、自公推薦の大井川氏は、原子力ムラの"総本山"といえる経産省出身。原発推進の安倍政権中枢の菅義偉官房長官が擁立に尽力したとみられており、官房長官会見でも茨城県知事選についてコメントをするほど重要視している。そして大井川候補は「6期24年間の現職知事の7選阻止」を旗印に、若さ(フレッシュさ)を全面に打ち出していた。

「茨城は変わらないといけない。(橋本知事6期)24年間のこれからの延長ではなく、新しい発想でこの人口減少や少子高齢化、どんどん新しい問題が来る茨城県に、諦めずに変わらない勇気で戦う。行政の経験もあり、民間の経験もあり、グローバル企業の経験もあり、日本のベンチャーにも経験がある。そんな多様な引き出しがあり、ヤル気と若さと実行力のある、そういう人間が今こそ茨城には必要です」「他の県の横並びを見ていては駄目。真っ先に挑戦して音頭を取って民間の経営感覚を取り入れた新しい県の行政を私が作ります」(告示日の日立駅前での街宣)

 しかし原発問題に限って言えば、多選で高齢の橋本氏が新しい政策(原発再稼動反対)を打ち出し、20歳も若い新人の大井川氏が古き原発推進政策を否定しないという逆転現象が起きていた。

 原発政策だけではない。自民党が得意とする口利き政治についても橋本氏はこう批判した。

「僕が初めて知事になった頃は公共事業でも(自民党国会議員の)口利きが沢山ありました。そして県庁も議会も忖度、『(国会議員の)先生はこういうことを考えているからこういうふうにしないといけないのではないか』といろいろなことがありました。そういったことをやっと無くしたのです。それを昔に戻しては非常に困るわけです」(古河駅前での街宣)

▼自民党の意向に逆らえず? 原発問題を語らなくなった自公推薦の大井川候補 

 8月18日、茨城県守谷市。自民党の加藤勝信・厚労大臣と公明党の石井啓一・国交大臣が自公推薦候補の大井川氏の応援に駆けつけた。経産官僚から民間企業に転身した同氏の経歴などを披露しながら支持を訴えたのだ。しかし大物応援弁士も候補者本人も、争点として急浮上した原発再稼動については一言も語らなかった。

 現場にいた公明党県議に「なぜ原発問題に触れないのか」と聞くと、こう言い切った。

「自民党に金と組織を丸抱えしてもらっている大井川候補が原発問題に触れられるはずがない。出馬会見では住民投票に意欲的だったが、自民党に反対されてトーンダウンしてしまった。ただし『(東海第二原発再稼動について)県民の声を聞く』と公約に掲げているのだから、その具体的方法、住民投票をするのかアンケート調査をするのかについて街宣で話して欲しいと思う。私はアンケート調査がいいと考えていますが」

 なお橋本現知事と良好な関係を続けていた公明党県本部は4月から2カ月以上にもわたって、大井川氏の推薦依頼への対応を保留していた。現職と新人の両方に"保険"をかける一種のサボタージュ作戦のように見えたが、自民党が歴史的敗北を喫した都議選の後、事態は急展開をしていった。7月13日に公明党本部から県本部に「自公連携の中で自民党が推薦する大井川を推薦できないか検討してほしい」との打診があり、急遽、大井川氏との政策協議や県本部所属議員の了解の手続きが進み、5日後の18日に公明党本部が推薦を決定したのだ。

「公明党と都民ファーストが組んで自民党を惨敗に追い込んだことで、自公の関係は悪化。次期総選挙で公明党現職議員を自民党が応援しないという事態の恐れもあった。そこで公明党本部は、茨城県知事選で大井川候補を推薦、自民党との関係修復にはかろうとしたのは明らかだ」(永田町ウォッチャー)

 原発政策を曖昧にした公明党本部主導の"野合的推薦"といえそうだが、実際、告示日に大井川氏を直撃しても曖昧な回答しか返ってこなかった。

 一方で大井川氏は、橋本氏の再稼動反対発言について「大事な原発の問題を選挙の道具にした」と批判。また再稼動反対の鶴田氏も街宣で「選挙が近づいて急に再稼動反対を言い出した」と同じ主旨の訴えをしていた。

▼"再稼働反対"は本気か? 現職・橋本候補に直撃!

「茨城県では日本で一番古い原発、東海第二原発が再稼働されようとしています。橋本知事は『再稼働はしない』と最近になってやっと発言を始めましたが、それは信用できません。これまでの6年間、3.11以降、橋本県政は再稼働前提の言動を繰り返されていました。『原発は止めて』という33万の署名を橋本知事に提出したのに、しっかりと受け止めることなく、再稼働前提でこれまで発言をされています。この選挙に当選するために『再稼働はしません』という言動がありますが、これは信用できません」

「選挙対策上の発言」との指摘を橋本氏にぶつけてみると、次のように答えた。

──「県知事選が近づいたから再稼働反対と言い始めた」と相手候補は言っています。

橋本氏 それはいろいろ言うかも知れないけれども、(県南部の)常総に行っても子供を抱えたお母さんが「何とか原発再稼働を止められませんか」と言った。東海村に行っても三人ほど女性が集まって「何とか『再稼働を止める』と言ってももらえませんか」と言われました。そういう住民の声を聞いて、再稼働反対を言うようにしました。

──大井川候補は「県民の声を聞く」と言っていますが。

橋本氏 本人は住民投票をやりたいみたいだけれども、自民党が許さないでしょう。

「橋本氏の再稼動反対発言をどう県民が受け止めるのか」「大井川氏が"原発推進のアベ自民党の傀儡候補"と見なされるのか否か」が茨城県知事選を左右するポイントになりそうだが、安倍政権に衝撃を与えた滋賀県知事選(2014年7月13日投開票)では、"隠れ原発推進派"と疑われた元経産官僚の自公推薦候補が、卒原発で有名な嘉田由紀子・前知事が後継指名をした三日月大造・現知事に敗れた。自民党の大物国家議員が続々と現地入りしたことに対して、「中央対地方」「原発再稼動イエスかノーか」の構図に持ち込んだ三日月陣営が勝利を収めたのだ。茨城県知事選が、いくつもの共通点がある滋賀県知事選の再来となるのか否かが注目される。
(横田 一)