シャルケに愛された内田篤人の7年間 貫いた美学と果たせなかった想いとは

写真拡大

ドイツ在住記者が見た名SBのウニオン・ベルリン電撃移籍

 内田篤人がシャルケを去る――。

 それが意味することはなんだろう。

 CL常連クラブの主力として活躍してきた内田。ペルー代表MFジェフェルソン・ファルファン(ロコモティフ・モスクワ)とのコンビは、どんな対戦相手にとっても脅威だった。あれほどまでにイメージの共有ができるのかと言われるほどのレベルだ。

 今季フランクフルトからシャルケに加入したDFバスティアン・オチプカは、「対戦相手としてシャルケを見た時に、自分のなかで最悪の思い出はファルファンと内田がコンビを組んでいた時代だ。僕はまだ若かったけど、二人が攻めてきたらもう大変だった」と振り返っていた。

 息が合っていたのはファルファンとだけではない。絶対的なエースとして君臨していた元オランダ代表FWクラース=ヤン・フンテラール(アヤックス)がゴールを量産できた裏には、いつも内田からの気配りに満ちたパスが隠されていた。相手が欲しいタイミングで欲しいところにそっと出す。でも、彼が愛された理由はそれだけではない。

 内田は常に語っていた。

「ここのファンは闘う選手が好きだからね」

「タダでぴょんと出るのは違うと思った」

 どんな時でも闘い続け、力の限りをチームのために尽くし続けた内田を嫌いになるファンなどいるわけもなかった。ブンデスリーガやCLでワールドクラスのドリブラーと対峙し、幾度となく名勝負を繰り広げてきた。バイエルン戦では内田の守備に手を焼いたフランク・リベリーが、イライラして小突くのが名物となっていた。

 シャルケファンは伝統を重んじる。クラブの象徴とされる選手を大切にする。31歳の青年監督ドメニコ・テデスコの下、シャルケは今季開幕戦で昨季2位のRBライプツィヒに2-0で快勝。一方で、シャルケの精神を体現するドイツ代表DFベネディクト・ヘーヴェデスをキャプテンから外し、黄金期を作り上げた一人である内田にチャンスが与えられないことを嘆いていたファンの数が少なくなかったのも事実だった。だが時代の流れもある。シャルケは新しいスタートを切る時期に来ていた。

 個人的には、内田が2014年にシャルケと契約延長を果たした直後のアウクスブルク戦を思い出す。試合後、契約更新するまでのいきさつを語ってくれた。

「移籍するにしても、お金は置いていきたいから。鹿島の時もそうだったけど、こんだけいい経験させてもらって、タダでぴょんと出るのは違うと思った。だから契約更新させてもらった。(移籍するにしても)『タダなら獲る』っていう選手のレベルだったら行く必要がない、俺は。ちゃんとお金を払って獲るという選手まで成長してないってことだから。そしたら行く必要はない」

いつかウニオンの一員として凱旋を…

 ちゃんと多額のお金を払って獲得される選手になるはずだった。なれるはずだった。

 だが、右膝の怪我がそれを許さなかった。怪我さえなければ、と誰もが思う。でも、誰もがそれを受け入れて歩むしかないのだ。そして、全てが終わったわけではない。

「勝てない時期もあるけどさ、これ以上のスタジアムはないと思っているからね、俺は」

 そう語っていたシャルケからの離別の時。労をねぎらい、ウニオンでの活躍を心から願うシャルケファン。別れの悲しさは誰もが感じているだろう。

 でも、別れは再会への序章でもある。ブンデスリーガ1部に昇格したウニオンが、フェルティンス・アレーナに乗り込む。シャルケファンの盛大な「ウッシー」コールで迎えられる。そんな内田の姿を、心から見たいと思う。

【了】

中野吉之伴●文 text by Kichinosuke Nakano

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images