北条 司ほうじょう・つかさ●1959年福岡県生まれ。79年に『週刊少年ジャンプ』の第18回手塚賞に準入選し、80年にデビュー。81年より『キャッツ♥アイ』を連載し、85年より『シティーハンター』を連載。両作ともにテレビアニメ化される大ヒット作となる。2001年より『エンジェル・ハート』を連載し、このほどついに完結。

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『シティーハンター』は1985年に連載が始まり、テレビアニメ化もされ、当時一世を風靡した作品だ。一旦は完結したものの、2001年からセルフリメイク作品の『エンジェル・ハート』が連載され、あの世界観が復活。冴羽獠がミドルエイジとして描かれ、ヒロインのを見守る父親目線になっていることが時代の移り変わりを感じさせ、新たなテーマを描きだした。
 この作品がついに完結! 32年にわたる連載を終え、いま作者は何を思うだろう?

 無類の女好きの自由人、だが、真の姿はスゴ腕のスイーパー(始末屋)。『シティーハンター』主人公・冴羽獠のこのギャップに痺れた人も多いはず。国民的ヒーローといっていい名キャラクターだ。

『シティーハンター』は、1985年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まった。1991年に一旦は完結したものの、2001年の『週刊コミックバンチ』創刊時にセルフリメイク作品『エンジェル・ハート』として復活。その後、同誌の休刊にともない、2010年からは『月刊コミックゼノン』に連載の場を移し、描き続けられた。

 この『エンジェル・ハート』が、ついに完結。この作品だけでも17年の長期連載になるが、『シティーハンター』から数えると32年という超長期連載である。人生の半分以上を費やした作品に対し、作者はいま何を思うだろう。

 連載を終えた直後の北条司先生の仕事場におじゃまし、冴羽獠と共に歩んだ32年間を振り返っていただいた。

 まずは稀代の名キャラクター・冴羽獠が誕生した経緯だ。そこで振り返っておきたいのが、1981年の連載デビュー作『キャッツ♥アイ』である。セクシーなレオタード姿に身を包んだ3姉妹の女怪盗を描き、出世作となった。

「ジャンプ愛読者賞という読切作品のイベントがあったんです。編集担当(※現コアミックス代表の堀江信彦氏)と何を描こうかと相談して、『キャッツ♥アイ』のねずみを主人公にしようとなった。よく動くキャラなので、僕も担当も気に入っていたんですよね」

「ねずみ」こと神谷真人は、一見ちゃらんぽらんなスケベ男に見えて、実はスゴ腕の泥棒
というキャラクター。彼を主人公のモデルにした読切作品「シティーハンター ―XYZ―」が見事、愛読者賞の1位を獲得した。

「ねずみが元なわけだから、読切のときの冴羽獠はかなりチャラいキャラだったんです。だけど、新連載に向けて準備をしていくうちに、もともとハードボイルド好きだった担当が、海外で銃の取材をするうちにハードボイルド頭になっちゃった(笑)。それで強引にハードボイルド路線で行くことが決まったんです。だけど、僕はハードボイルドが大嫌いだったんですよ。自分の意向とはまったく違うかたちで始まったことが、連載初期の失敗でしたね。当時のハードボイルドというと、ストイックな自己陶酔型の主人公が、一人語りをするといったものが多かった。それを女ったらしのハチャメチャな主人公にして、ハードボイルドをおちょくってやろうと思って描くようにしたんですね(笑)

 獠のパートナー・香は、読切作品のときは「助手の女の子」という程度の設定だったそうだ。

「連載が決まってから、獠のパートナーだった元刑事の兄貴(槇村)がいたという設定を考えたんです。最初から香を登場させて、後からパートナーになった経緯を描いていくつもりだったんだけど、ハードボイルド頭の担当が、最初からきっちり描いてほしいと言いだした。だから最初から殺される予定で槇村を登場させたんですよね。僕はきっちり経緯を描くというパターンが嫌いなので、実はこれもあまり本意じゃなかった(笑)」

 思いつきのように始まったこの設定が、あとあと「パートナー」という作品全体のキーワードになっていく。獠が唯一「もっこり」しないのがパートナーの香なのだが、彼女がボーイッシュだからというより、元相棒の槇村の忘れ形見として、兄と妹のような関係性が自然とできていたのだ。

満足できないからこそ描き続けられたのかもしれない

『シティーハンター』の代名詞といえば新宿である。高層ビル街と世界有数の歓楽街が隣り合わせ、スイーパーという裏稼業の拠点として、これほど相応しい街もないだろう。冴羽獠を32年にわたって描き続けることは、新宿を描き続けることでもある。新宿という街にどんな思いがあるだろう?

「最初は新宿といえば全国の人が知っているだろう、くらいの考えでした。当初は連載がとにかく忙しくて、新宿を取材することがほとんどできなかった。『何があるの?』と担当に聞いて、同伴スナックを描いたりしましたけど、僕自身は行ったこともない(笑)。だから”架空の新宿”という感覚で描いていたわけです。ニューヨークの写真を見ながらスラム街みたいに描いたりしていて、実は新宿らしくない(笑)。マンガなのに現実に即してきっちり描くのもどうなんだろう?という気持ちがあって、ファンタジーとしての新宿を描いているつもりだったんです。逆に『エンジェル・ハート』はファンタジー色が強い設定なので、新宿をきっちり描くようにしましたね」

 ちなみに獠の異名は「新宿の種馬」。『シティーハンター』のもう一つの代名詞が「もっこり」だろう。ハードボイルド路線で始まりながら、獠の「もっこり」描写が増えるにつれ、『シティーハンター』はギャグ路線になっていった。人気に火がついたのもこの頃。

「最初にもっこりを使いだしたのは、徳弘正也さんの『シェイプアップ乱』でしょうね。担当がやれって言いだしたんですけど、最初はパクリみたいでイヤだったんです。だけど、やると決まったからには、やりきるしかない。途中からは完全にギャグマンガのつもりで描いてましたね。だいたい6話で1エピソードなんですけど、5話までほぼギャグで、6話で銃撃シーンがあって、またギャグで締めくくるみたいな(笑)」

 この頃の『シティーハンター』を読むと、底抜けの明るさを感じる。20代の勢いで、ノリに乗って描いているという印象だ。

「楽しんで描いているように見えるかもしれないけど、そもそも作品作りって楽しくないものですよ。ふざけた話であろうとシリアスな話であろうと、最初にきっちりネームを考えて、その通りに描くという作業工程は同じです。ふざけたギャグシーンを何時間も座り込んで考えているわけですから、楽しいというものでもない。楽しいときがあるとしたら、こうすればいいんだ!というアイデアが思いついた瞬間だけでしょうね」

 都会的なタッチでギャグを描くのが『シティーハンター』の持ち味。マンガ界きっての洗練された絵の印象があるのだが、本人は「自分の絵を上手いと思ったことは一度もない」というから驚く。作画面における苦心を聞いた。

「すべてが苦労ですよ(笑)。自分としては常に納得できる絵を描きたいと思っているんだけど、振り返ると納得できたことが一度もない。腹が立つくらい自分は下手だと思っていて、進歩も遅いし、いまだに自分の絵が確立できたとも思えない。なんとか気に入った絵を描こうとしてここまで来ましたけど、逆にいうと、満足できないからこそ描き続けているのかもしれない。原動力が何かというと、僕の場合、それでしょうね。もし本当に納得できる絵が描けたら、もう描かないですよ。だって描く理由がないですから(笑)

冴羽獠は自ら、恋愛を封印しているくっつきそうでくっつかない微妙な距離感を描いていたわけです

 冴羽獠がこれだけ多くのファンの心をつかんだのも、なんてアホなんだ……と笑ってしまうくらいの人間臭さにあったと思う。完璧なまでに強くてかっこいいヒーローは近寄りがたいものだが、獠の場合、同じ男子としてスケベ心がよくわかるというか、親近感がわいてくる。そして、パートナーの香による制裁の一撃!というお馴染みのギャグ。こうした他愛もないやりとりこそが『シティーハンター』の醍醐味だった。本当にその世界にキャラが息づいているように感じられてくるのだ。

「設定をある程度描いていくうちに、キャラが勝手に動くようになって、収拾がつかなくて困るくらいでした(笑)。それも年がら年中、考えているからでしょうね。こういう場面で獠だったらこうする、香だったらこうするだろうって、つい考えてしまう。連載中はずっと頭から離れないですよね」

 こうなってくると、もはや想像世界に生きる一人の人格である。女の尻を追いかけ回しながら、いざ恋愛に発展しそうになると獠はいつも途端に身を引いてしまう。それも獠なりの考えがあってのことのように思えてくるのだ。

「獠が女好きなことはたしかなんだけど、タガを外すことが役に立つと途中で気づいたんじゃないですか。獠にボディガードを依頼した女性からすると、殺人犯に狙われる恐怖よりも、獠みたいなおちゃらけたスケベに狙われているほうがまだマシですよね(笑)。依頼人の意識がそっちに向けば、パニックにならずに済むし、多少は気持ちも安らぐかもしれない。だけど、事件の吊り橋効果でヒロインが獠に恋をしてしまう。でも、獠は恋をしたくないんです。女性に迫ることで自分の欲求はある程度、満足できているし、そうすることで自分のことを好きにならないだろうと計算しているように思いますね」

 なぜ恋をしたくないのか。一見、おちゃらけキャラのようでいて、実は彼ほど孤独な人間もいない。孤児として内戦の地で育ち、自分の本当の名前も、自分が何歳なのかも知らない。国籍がないため制度上の結婚もできない。だからといって、孤独な心の内を人に語らないのが獠という男だ。

「獠というキャラクターは矛盾しているんですよね。ずっと女性から隔絶された内戦の地で生きてきたのが、いきなり都会に出てきて、女の子がいっぱいだってなってタガが外れたんでしょう。だけど、自分はスイーパーという裏稼業しかできないわけだから、一人の女性を幸せにすることはできないとわかっている。女好きだから遊ぶことは遊ぶんだけど、彼自身は一生恋愛を封印していこうと思っているわけです」

 そんな獠の気持ちが揺れ動くのが、パートナーの香との関係だ。長年連れ添った夫婦のように、今さら色恋という感じでもない二人だが、随所でお互いに好き同士であることが描かれる。二人の不器用さが実にじれったい。

「男と女がひとつ屋根の下にいて、何も起きないわけはないじゃないですか。二人ともいい男といい女なわけだから、惹かれあうことは避けようがない。だけど、くっついてしまうと、そこで話が終わってしまうので、くっつきそうでくっつかない微妙な距離感を描いていたわけです︒変装した香と獠がデートをするエピソードを描きましたけど、あれは封印していた自分の気持ちに獠が気づくという回なんですよね。槇村の忘れ形見として大事にしているけど、妹みたいなものだと思っていたのが、実は違ったじゃんっていう(笑)」

突然の連載終了と『エンジェル・ハート』誕生

 物語終盤でようやく獠と香の気持ちが重なりあう。獠が育ての親との因縁に決着をつける「海原編」で、獠と香のガラス越しのキスシーンが描かれ、本当の意味で二人が男女のパートナーになったことが示されたのだ。

「初期のハードボイルド路線の遺産として、南米の麻薬組織の話があったんですけど、途中でギャグ路線に突入して、ほったらかしてあったんです。担当はとっくに忘れているんだけど、僕としては、完結までに絶対に整理しておかなくちゃいけないと思っていました。獠の育ての親の海原が、麻薬組織の首領になっている話にしてケリをつけたわけだけど、あのエピソードを描き上げたことで、自分としては、ついに終わったと(笑)。あのエピソードは、そろそろ終わりたいという編集部への意思表示でもあったんですよね」

 1エピソード完結型の『シティーハンター』は、続けようと思えばいくらでも続けられるスタイルだ。なぜ終わりに向けて物語を進展させようと考えたのだろう?

「どこか開き直っていたんでしょうね。連載が始まる少し前に子どもが生まれたんですけど、それもあって連載当初は何がなんでも終わりたくないと思っていました。ここで失敗したらマンガ家として先がないんじゃないかという不安にかられていて、妙なジンクスを作りだしては、これで連載が延びるはずだと思い込むようにしていたんです。あるとき、自分で自分を縛っていることのバカバカしさにようやく気がついた(笑)。それから、やるだけやってやろうという気持ちに変わって、ストーリーが進展しだしたんです」

 しかし、何事もなかったようにその後しばらくは連載が続いた。ところが、唐突に編集部から連載終了を告げられたという。

「聞かされたのが、残り4週だったんです。大慌てで無理やり終わらせたような感じでしたね。ちゃんとしたエンディングを迎えられなかった憤りもあって、いずれ続編を描くだろうと思っていましたが、そのときは特に具体的なイメージがあるわけではなかった」

 こうして1991年に『シティーハンター』は一旦完結。その後、1993年から『週刊少年ジャンプ』で『こもれ陽の下で…』を連載し、1996年からは青年誌に活躍の場を移し、男女逆転家族を描いた『ファミリー・コンポ』を連載。この作品の連載前に、堀江信彦氏と『シティーハンター』の続編について話し合ったという。

「もし描くとしたら、獠と香の子どもを主人公にしようという話で決まったんだけど、考え込んでしまいましたね……。この4、5年を振り返ってみると、ヒット作がない。ここでまた『シティーハンター』に戻ることが自分でも納得できなかったんです。それで『ファミリー・コンポ』を描くことにしたんですけど、これが思いのほかウケて、そうこうするうちに、堀江が独立してコアミックスを設立するという話になって、じゃあ手伝おうかということで『シティーハンター』の続編の話が再び持ち上がってきたわけです」

セルフリメイクとして生まれた香の心臓(ハート)をもつニューヒロイン

 それにしても『エンジェル・ハート』の展開には心底驚かされた。獠との結婚を間近にひかえていた香が、交通事故で亡くなってしまうのだ。そして、香の心臓が移植されたのが、台湾マフィアに殺人のエキスパートとして育てられた主人公の香シャンイン瑩なのである。

 香の死は本当に悲しい出来事だけれど、物語的には香は生き続ける。どういうことかというと、心臓に宿った香の記憶が、絶望していた香瑩の心を母のように包み込んでいくのだ。そして獠は、香の分身として香瑩を受け入れる。新たなシティハンターの誕生だ。

「獠と香の子どもを主人公にすることは決まっていたわけですけど、直接的に子どもにしてしまうと、香が二人いるみたいになってマズイと思ったんです。香と完全に違うキャラクターにしたかったというわけではなく、むしろ香を主人公にして描きたかった。どうしようかと考えているうちに、たまたまそのとき考えていたタクシードライバーの話が結びついたんです。事故死した妻の心臓が女の子に移植されて、血のつながりのない親子になるという話だったんですけど、この設定が一気につながって、これは絶対に面白い話ができるはずだと思いましたね」

 殺し屋として育てられた香瑩は、ごく普通の生活というものを知らない。10代半ばの少女だが、ある意味、子どものように無垢なのだ。そんな彼女が、獠との交流を通して少ずつ人間性を取り戻していく。その一方で、最愛のパートナーを失った獠が、いつしか父の目線になっていく姿も印象的だ。

「本来は違う性格なんだけど、香の記憶に左右されることで、眠っていた香瑩の人間性が引き出される。やがて二人の性格が融合して新しい性格になっていく姿を描いていこうと考えていました。獠が父親目線になっているのは、単純に自分が親の目線になっているからでしょうね(笑)。当時、ちょうど娘が香瑩と同じくらいの年頃で、積極的に自分の思いを描くつもりもないんだけど、自然と雰囲気に出てしまったのかもしれない。香瑩の成長を描くつもりだったのが、いつのまにか獠の成長を描いていた気がしますね。それだけこいつはキャラが強い(笑)」

 10年の時を経て描かれた『エンジェル・ハート』は、現実の時間軸とシンクロしている。性欲の塊のようだったアラサーの獠が、哀愁漂うミドルエイジとして描かれているのだ。

「10年近く空いてしまったので、そのままの調子で描くのは無理があると思いました。まったく歳をとってない獠が、ケータイを持って現れるのもおかしな話だしね(笑)。やはり時間経過を描かなくてはいけないと考えたわけですけど、かといって、あんまり歳をとらせすぎるとファンだった人が怒って読まなくなるかもしれない。連載中に獠の顔をちょっとずつ老けさせていって、40代の顔にしようという目論見だったんですけど、けっこう試行錯誤しましたね」

 ファルコンや野上冴子といった『シティーハンター』のレギュラーキャラに再び会えることもファンにはたまらない。しかし、ファルコンと結婚したはずの美樹の姿がなかったり、槇村の死因が異なるなど、微妙に設定に違いがある。これは厳密にいえば、完全な続編というわけでもないからだ。

「連載スタート時に出版社が『続編』と謳ってしまったものだから、話がややこしくなってしまったんですけど、『シティーハンター』とは設定が違う別の世界の話なんです。それを説明しようと思ってパラレルワールドという言葉を使ったら、ますます誤解を招いてしまって(笑)。要は作者自身によるセルフリメイクなんですよね」

死に立ち会うとその人がどう生きたかが分かる

『シティーハンター』が獠と香のパートナー関係を描いたのに対し、『エンジェル・ハート』では親と子の関係が描かれる。ただし、獠と香瑩は本来赤の他人だし、ファルコンがミキという少女の父親代わりになるなど、いずれも血のつながりのない疑似家族だ。しかし、それゆえに血のつながり以上に強固な心の絆を感じさせる。

「それが僕の根っこなのかもしれない。いろんなものに縛られずに自由に生きたいという気持ちがあるんですよね。好きだから結婚するのであって、社会制度があるから結婚するわけじゃないですよね。獠と香の結婚にしても、そもそも獠は国籍がないので制度上の結婚はできない。だけど、香とずっと一緒にいたいから結婚しようとする。たとえ本当の親子でも相容れない関係というのもあるわけだし、血のつながりというものにピンとこないところがあるんです」

 32年にわたって描き続けることは、時代の変化もさることながら、作者自身の変化も大きかったと思う。『シティーハンター』の軽妙なテンポに比べると、『エンジェル・ハート』は人生の機微を感じさせるヒューマンドラマの色合いがいっそう濃くなっている。

「やっぱり20代の頃と違って、オヤジが描くマンガなんですよ(笑)。この年になると、まわりの人の死に立ち会うことが増えてくる。究極的に人間の最後の姿は犹爿瓩犬磴覆い任垢。その瞬間に、その人がどう生きたかが浮かび上がる。この人の人生はどういうものだったんだろう?と考えることが、年齢を重ねるにつれて増えていったように思いますね」

「俺が消えると思うなよ」と獠に言われてるような気がする(笑)

 17年続いた『エンジェル・ハート』の完結にあたって、描いておきたかったこととは?

「香瑩が李大人(※実の父)のことを本当はどう思っているのかは描いておきたかったですね。二人の関係性を描くことで、すべてが解決していくというイメージでした。だから、僕にとって実質的な最終回はあのエピソードなんです。だけど、そこで終わらせず、最後は派手に撃ちあうエピソードで締めくくることにしました。ケジメというのもおかしいですけど、最後にカメレオン(※敵役の準レギュラー)との決着をつけたかったというのもありましたね」

 ファルコン曰く、「昔の獠に似ている」のが、愛情や信頼とは無縁のカメレオンだ。獠も香瑩も天涯孤独の身の上だったが、仲間との交流を通して人の心を取り戻していった。しかし、カメレオンは最後まで孤独なまま。香瑩とは対照的なキャラクターである。

「カメレオンは一番のライバルといえばライバル。最後にカメレオンが対決を挑んでくるというふうにして、香瑩とカメレオンを対比させたわけですが、もともとネームにはなかった見開きを付け足しているんですよね。一旦描き上げた後、直接的に二人を対比させた絵がほしくなったんです」

 いよいよ本当に終わりかと思うと寂しくもある。現在の心境は?

「物語は終わらないと話にならない、という気持ちもあって完結することにしたわけですけど、終わったことに対して今は何も考えられない。終わった気がしないというわけでもないですが、何の感情もわいてこないんです。僕が描かなくなったからといって、『オレが消えると思うなよ』と獠に言われているような気がする(笑)

 最後にファンへのメッセージをお願いしたところ、作者の言葉を押しのけて冴羽獠が登場!

「 “長い間お付き合いありがとうございました。これにて冴羽獠は旅立ちます。これまで北条司という限られた才能の中でしか、オレの姿は見られなかったわけだけど、これからオレはあなたの心の中に行くよ。だけど、オレが行くのは女の中だけ。オヤジはお断りだね。” 冴羽獠はそう思っているような気がしますね(笑)」

取材・文=大寺 明 写真=干川 修

(C)北条司/NSP 1985 (C)北条司/NSP 2001 (C)北条司/NSP 2010

 

『桜の花 咲くころ 北条司 Short Stories Vol. 2』

北条 司 徳間書店ゼノンC 800円(税別)

『こもれ陽の下で…』(1巻)

北条 司 徳間書店ゼノンC 800円(税別)

『小説 エンジェル・ハート〜消えた心臓〜』

北条 司/原作 仲野ワタリ/著 徳間書店 870円(税別)