【結婚指輪物語】夫「LOVEの刻印が突然恥ずかしくなった」おしどり夫婦 指輪買い換え10年の歴史

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結婚する際にほとんどの人が購入するものでありながら、結婚式に比べて、なんとなくおろそかにされがちな「結婚指輪」。結婚式の準備に追われている間に時間がなくなり、披露宴会場やドレスほどゆっくり考えずに決めてしまいがちなカップルも多いよう。そんな指輪に関する多様なストーリーを先輩夫婦にうかがうのが、この「結婚指輪物語」です。

初回は、東京都に住む、結婚10年目の吉原ゴウさん・さやかさんご夫妻。お二人のお子さんにも恵まれ、ずっと仲良くやってきたというご夫婦ですが、紛失したわけでもないのに、結婚指輪を買い換えてらっしゃるそう。なれそめと一緒に、その真相をうかがってきました。

●言葉たくみな夫と、丸め込まれがちな妻

――まず、おふたりのなれそめをお聞かせください。

ゴウ 同い年で、20歳のときに出会いました。ぼくがフリーターとして雀荘とアダルトビデオショップで働いていて、彼女が大学3年生。ぼくはそれまで女性とお付き合いしたことがなくて、「彼女欲しいな〜」と思って友だちに紹介をお願いしたときに友だちの友だちとして来たのがさやかだったんです。

――願えば叶うんですね……。

ゴウ そうなんですよ。会うなり「超かわいい!! 結婚したい!!」と思って、めっちゃガンガンいきました。

――ゴウさんの第一印象はいかがでしたか?

さやか 「この人はないな」と思いました。長野から適当に上京してきて、ちゃんと仕事もしてないくせに自信だけはすごくあって……ずっと彼女がいなかったって言うのも、半分ウソっていうか……。たぶん、色んな人と遊んでたんだと思うですよね。何言ってもウソっぽいし。

--ボロクソに言ってるのに幸せそう……。お付き合いを申し込んだのはどちらからだったんでしょうか?

ゴウ ぼくです。上野の西郷さんの銅像の下で告って。会うのは、3回目でしたね。

――「ないな」と思ったのに三回もデートに行ったんですね。

さやか なんか、うまいんですよね。YESかNOで答えられない誘い方をしてくるんです。基本NOなのに……。「山と川なら、どっちがいい?」とか聴いてきて。

ゴウ その時は「山」ってことだったので、高尾山に行って、そのあと告白したら「そんなつもりじゃなかった」ってフラれて。終電だから帰るって言うんで、ついていったんですよね。高田馬場で乗り替えるまで山手線に一緒に乗っていって(編集注:上野〜高田馬場間は21分)。ずっと「なんでダメなのか」を聴いてました。

「友だちとしか見てなかったし」
「嫌いなの?」
「嫌いじゃないけど……」
「嫌いじゃないってことは好きってことでしょ?」
「そうかなあ」
「なんで付き合えないの?」
「うーん……」
「嫌いじゃないってことは好きってことでしょ?」
「そうなのかなあ」
「そうだよ! 今日からおれとお前は彼氏彼女だ! これからよろしくね!」

こんな流れでクロージングして、高田馬場で見送って帰ってきました。

さやか ほんとにそんな感じだったね。なんか丸め込まれちゃった。

●結婚式の準備は100%妻が担当

――参考になる論法だなあ……そこから3年でご結婚ということですが、何かきっかけはあったんでしょうか?

ゴウ 23歳、さやかが社会人1年目のときに長女の妊娠がわかったので、結婚しようかってことになりました。

さやか 4月に就職して、5月に妊娠がわかって……9月に辞めました。

――それは採用した方からすると……。

ゴウ 最悪ですよね! 経営者の方からしたら「ふざけてんのか!」って感じだったと思います。

――そのとき、ゴウさんは何を?

ゴウ 引き続き、フリーターです。夏場は長野でカヤックのインストラクターをして、それ以外の時期は引き続き雀荘とアダルトビデオショップではたらいていました。いわゆる季節労働者ですね。

--たのしいけどきつそうですね。

ゴウ まさにそうでした。23になって、周りも大学卒業してちゃんと就職しはじめるし、このままじゃなあと思っていたところで、長女がやってきてくれたって感じで。

――何かやりたいことはあったんですか?

ゴウ 20歳ぐらいからテキストサイトを作っていて、そのデザインを作り込むのにどんどんはまっていったんですよね。ちょうど妊娠がわかるちょっと前に「Webデザイナー」って仕事があるって知って、その仕事いいじゃん!って思ってたとこだったので、「こりゃもう、Webデザイナーになるしかないな」と。

--タイミングばっちり!

就活をしたら、経験を買ってもらえて意外とすぐ仕事が決まって、2年間会社員をやりました。そのあと独立して、今に至るという感じですね。

――結婚式はどちらでやられたんですか?

ゴウ 新宿歌舞伎町のレストランですね。30人ぐらいのこじんまりしたもので。ただぼくは、まったく準備に協力してないんです。参加しただけで。

さやか (食い気味に)本当にそうなんです!

――え!?

ゴウ ほんとに。当日指定されたお店に言って、ちょっとあいさつしただけ。貯金がまったくなかったのもあって、ぼくは結婚式をやる気がいっさいなかったのですが……。

さやか わたしとわたしの両親はやりたかったんですよ。

ゴウ そういうことだったので、「わかった。ただ、おれはやりたくないから、協力はしないよ」って言ったら了承してくれました。そういういきさつだったので、ぼくはほんとに何もしてません。

――さやかさんはそれで不満じゃなかったんですか?

さやか 大丈夫でした。やりたいって言ったのこっちだしと思って。

--(また丸め込まれてる……!)

ゴウ やりたくない結婚式の準備で疲弊する新郎ってすごく多いと思うんですけど、「夫婦の共同作業」であることが基準になっている時点で間違ってると思うんですよ。ぼくは全くやる気がなかったので、「さやかがそこまで言うなら、出席してもいいけど、準備はお願いね」っていう形にして、とにかくぼくがかなり譲歩して実現したものなんだという雰囲気をつくりました(笑)。

さやか だからわたし、何も文句言わなかったでしょ?

ゴウ まったくなかったね。

――さやかさんにはやはり、ゴウさんの配偶者としてやっていく素養を感じますね……。ご両親もそれで納得されたんでしょうか?

ゴウ 彼女の母親もすごく理解のある方で。「娘にウエディングドレスを着せてあげたいけど、ゴウくんが結婚式をやりたくないのもわかった。こっちで全部やるしお金も全部出すので、出席はお願いしたい」と言ってくれたんです。そうなると、うちの母親も「いやいや全部は申し訳ないです」となって、結局うちの親もお金を出してくれたんですけどね。ぼくは、一銭も出していません。

――少しぐらい出そうと思われなかったんですか?

ゴウ ないものは仕方ないじゃないですか! 

――(開き直っちゃった……)

●初代結婚指輪は「LOVE」と刻印された、ちょっと恥ずかしい1万円の既製品

――結婚式と同じくお金がかかるものとして結婚指輪があると思うのですが、どうされたんですか? この流れだと、つけるのを拒否されたとか……?

ゴウ いや、指輪は買いました。もともとアクセサリーは好きで、シルバーの指輪を普段からしてたりしたので、抵抗なかったですね。今日もこんな感じでしてますし。

さやか 付き合ってるときから、おそろいで指輪してたしね。

ゴウ そうそう。で、改めて結婚指輪を買おうってことで、上野のマルイに行ったんですよ。なんのこだわりもなく、安い既製品でいいやと思って。

--結婚式と違って、そこは抵抗なかったんですね。

ゴウ 親がしてたのもあって、当然買うものだと思ってましたね。夫婦それぞれが、生活の邪魔にならないシンプルなやつをするもんだと思ってました。ちなみに、内側に「LOVE」って刻印してあります笑

--これはちょっと恥ずかしい!

ゴウ ダサいですよねー。

カメラマン (撮影しながら)だ、ダサい……。これほんとダサいですね……。

ゴウ でしょ? これでもこだわったんですけどね。

――デザインに、ですか?

ゴウ 素材に、なんです。ぼく、温泉がすごい好きなんで、つけたまま入れるものがよかったんです。硫黄泉に入った時に色が変わるようなものはイヤだったので、まず「銀」がNGでした。硫化銀、つまりは「いぶし銀」になって真っ黒になっちゃうので。じゃあなんの素材なら大丈夫なのかって聴くと、プラチナかファインスチールだって話になって。プラチナは高すぎて買えないので、ファインスチールにしました。今はキーホルダーにしてます。

――「LOVE」で選んだのではなく、素材で選んだってことですね。さやかさんはこだわりなかったんですか?

さやか こだわりは全然なかったです。もう、ゴウにお任せって感じで。

●ダサさに耐えきれず夫が買い換えを決意するも、妻は大反対!
--今回いちばんお聞きしたかったところなんですが、結婚指輪を買い換えてらっしゃるんですよね?

ゴウ 最初は全く気にしてなかったんですけど、あるときふと、この指輪すげえダセえなと思ったんです。急に耐えられなくなって、作り直したいと。いろいろ調べた結果、ターコイズのオリジナル指輪を作ってくれる職人さんを自由が丘のガード下に見つけて、お願いしました。

--なくしてもないのに結婚指輪を変えるって珍しいお話しですね。さやかさんはどんなお気持ちでしたか?

さやか 超イヤだった……。

ゴウ 彼女は「なんで結婚指輪を変えるんだ!」って大反発で……。とりあえず意図を説明して、サイズ測らないといけないから一緒に職人さんのところに行ったんですけど、めちゃくちゃふてくされてましたね。

さやか わたしは、安物だったかもしれないけど、前の指輪をすごい気に入ってたんですよ。だから、絶対変えたくなかった。

――同じものを、何十年と付けるから意味があるんでしょ、と。

さやか そうですそうです。「変える」ということが嫌だったんです。一生つけるつもりで買ったし、同じものであることに意味があると思っていたから。

――「結婚指輪というのはそういうものだ」っていう思いがあったんですね。

ゴウ ぼくは、変革とか改革といったことが大好きなんです。同じ事をやり続けるのは後退だと思っているので、新しくてカッコイイ指輪にしたかったんですよね。

――たしかに、ターコイズって、結婚指輪としてはかなり思い切ったセレクトですね。

さやか それも嫌でした! かわいいですけど、結婚指輪としてこういう指輪をしている人いないじゃないですか! それにすごい高いし!

ゴウ いや、高いって言ってますけど、結婚指輪の相場からすれば安い方だとは思います。3万〜4万ぐらいかな。最初に買ったのが1万ちょいだったので、それからすると高いですけどね。

――結局、さやかさんが折れてターコイズの二代目になったわけですね。

さやか そうですね。絶対イヤだって言ったんですけど、ゴウが「オレはこっちに変える」って譲らないので、「それだとおそろいにならないじゃん!」って言ったら「じゃあ、さやかもこっちにしなよ」って。

――また言いくるめられてる………。

●今は行方不明の二代目

――ゴウさんの方の二代目の指輪も見せてもらってもいいですか?

ゴウ それがねえ。ないんですよ。

――ええ!

ゴウ なくしちゃって。

さやか アハハハハ。

ゴウ 3年ぐらいつけててめっちゃ気に入ってたんですけど、とにかくゴッツいんですよね。ヘアワックスをつける時にベトつくし、魚をさばいてるときもひっかかるし、ボルダリングできないし。生活のあらゆる場面で邪魔になってくるんですよ。あと、ターコイズは天然石で、そもそも水につけるのも推奨されていないような繊細な素材なので、温泉なんてもってのほか。

――えぇ……初代はあんなに素材にこだわったのに!

ゴウ そうなんですよ。デザイン重視の弊害が……結局、わずらわしさが増してきて、いつの間にかなくなってました。今思うと、すごく気に入ってたから、ペンダントとかにしておけばよかったんですけど。

――なくなっているのには、気付かれてましたか?

さやか なんか最近してないなーとは思ってました。本人は「カバンにあるよ。たぶん」とか言ってたんですけど。結局「なんかなくしちゃったみたいだわ」って言ってて。ひどいですよねー。

ゴウ さやかはさやかで、太っちゃって入らないんですよ。それはそれでヒドイ。

さやか アハハハハ。

●「10年かけて、指輪の要らない信頼関係を築けた」
ゴウ そういうことで今は基本的に、2人とも結婚指輪はしてませんね。

さやか わたしは、結婚して1年経ったときにもらった別の指輪をすることもありますけど。「1年よくがんばってくれたね。婚約指輪は買えなかったから、これ」って言ってプレゼントしてくれた指輪も持ってるので。

――作り直そうという話は出ないんですか?

ゴウ ないですね。

――さやかさんも、ゴウさんが指輪をしてないことは気にならない?

さやか 10数年経った今は、全然気にならないですね。

――結婚1、2年目ぐらいのときにしてなかったら、気にしてたと思います?

さやか それはイヤですね。

ゴウ 指輪っていうのは、誓約の証なんだと思うんです。互いに強く結びついていくことを誓っているし、その期待も十分にあるから結婚したわけですけど、実績がないじゃないですか。だから敢えて形にして、周囲にアピールするんだと思うんです。「わたしたち結婚してますよ」、「仲良くやってますよ」って。

――なるほど。

ゴウ 最初は絶対あったほうがいいと思います。でも、10年も経ったら、そんなの必要ないじゃないですか。実績があるから、敢えて結びつきをアピールする必要がないんですよ。だからお互い、してなくても全然気にならないんです。

--すごく仲良しなの、このインタビューの間にもビシバシ伝わってきました。

ゴウ ぼくらは10年経って、結婚指輪をする必要のない関係性になったってことなんです。(さやかさんの方を向いて)すばらしいことだと思わない?

さやか アハハハハ。本当に自分を正当化するのがうまいなあ。まあでも、そういうことだね。

文/今井雄紀(株式会社ツドイ)+徳谷柿次郎(株式会社Huuuu)