報道される事故では犬種に注目が集まる

犬が人を噛んで怪我をさせる、または死亡するといった報道では、多くの場合で「ドーベルマンが…」や「ジャーマンシェパードが…」などと報じられます。例えば、このような感じです。

「◯◯年◯月◯日、◯◯県◯◯市で、飼い犬が飼い主を噛み、意識不明の重体になった。犬は大型犬のゴールデンレトリバーであり、噛まれた飼い主は、何の抵抗もできず、他の家族によって引き離されて一命をとりとめた。飼い主の家族によると、「普段は大人しくて良い子なのに、このようなことになって驚いています」と語る。警察は事故の詳細を調べている。....」

このような文章はよく目にするものです。こう書かれていると、“大型犬やゴールデンレトリバー、普段は大人しい”などのキーワードが頭に残り、記憶に残ったこれらのキーワードから、「普段は大人しくても大型犬は危険だ」「あのゴールデンレトリバーが?!」などの意見がネット上を賑わします。また、もしこの記事の中の犬種が、特に怖いイメージのある犬種(例えばジャーマンシェパードやドーベルマンなど)だった場合は、「やっぱりドーベルマンやシェパードは危険だ」などと言われたりもします。

私たちがこうした報道を目にした時に無意識的に注目するのは、危険な出来事や、その危険が身近に起こるとする場合に気をつけるべき点を素早く察知します。このような記事では、大型犬や犬種などになるでしょう。またこうした報道があるたびに、これらの危険因子の情報は蓄積され、「前にもこんなニュースがあった。やっぱり大型犬は危険なんだ」と認識しがちです。

そもそもニュースになるほどの事故ですから、それなりの殺傷力がある犬の割合が高いのも無理はありません。反対にこれが小型犬の事故であれば、軽症で済むことが多いためにニュースになることはほとんどありません。

事故の原因の追究がされていない

多くの咬傷事故に対して、専門機関が介入して事故原因を調べるといったことはありません。こうした事故の報道では、被害者などからの意見のみで報道されるため、犬の事情は一切考慮されません。

果たして本当に犬が悪いのでしょうか。飼い方によってストレスを溜め込んでいないのでしょうか。また、日常的な虐待はなかったのでしょうか。繁殖に問題はなかったのでしょうか。これらの原因追究は、事故の再発防止のために動物行動学や犬の心理学の専門家などの調査が必要なはずです。しかし、残念ながら原因の追究はされていないようです。原因が追究され周知されない限り、事故は繰り返されます。また、我々の特性で、大型犬などの差別が固定化されていきます。

人の犬の関係はどうだったのか

犬が人を襲うには、何らかの原因があるはずです。飼い主との関係が支配と服従のみで構築されていては、犬は抑圧され続けることになりストレスや不満を溜めることでしょう。信頼関係と主従関係を混同している飼い主は多く、何かにつけては犬の行動を叱りつけ、時には暴力を振るい、犬は飼い主の言うことを聞くべきだと言う風潮も色濃く残っています。こうした主人と奴隷のような関係が良い関係と言えるのでしょうか。犬はついに爆発し飼い主に抵抗したのかもしれません。

世間一般に言われる犬のしつけには、完全に論理破綻しているものも多く支持されています。例えば、吠える犬を叩いたり、鍋をカンカンと鳴らして驚かせたり、犬を無理矢理に仰向けにして抑え込むなどの行為は、未だに多く見られます。こうした接し方は虐待とも取れます。並びにこうした方法自体、さほど効果がないにも関わらず、いつまでも続ける飼い主も少なくありません。

飼い方が引き起こすこともある

潜在的なストレスを発散させることは重要

不快なストレスに長期間晒すことで、どんな犬も問題犬になります。一日中サークルやケージに閉じ込められていたり、毎日の散歩がされていなかったり、虐待的なしつけがされていたりすれば、犬はさぞストレスを溜めることでしょう。こうした要因は、全て人間が決めて行っていることです。犬の欲求の発散は何処へ行ったのでしょうか。もし、我々が人間的な欲求の全てを否定されたなら、どのように感じるでしょうか。自由な行動は一切認められず、辛くなって必死に何かを訴えたら叱られます。これではいつか爆発してもおかしくはありません。

また、犬を動くお人形のように扱う行為も危険が孕みます。過保護や溺愛は犬の情緒を無視した行為であり、犬の心を乱します。犬は支配的な性格になり、気にくわないことがあれば、飼い主を攻撃することで意思を示します。

心理学者のスタンレー・コレン博士は、「小さな庭などに閉じ込められた犬は、人を攻撃する可能性が3倍高くなる。また、咬傷事故を起こした犬の中で服従訓練を受けた犬は、わずか11.2%しかいなかった」と、飼い主の行動についても触れています。

先天的な問題

親犬の気質の多くは遺伝すると言われている

純血種の繁殖は、必ず人が介在しています。個体の気質の一部は遺伝からきます。怖がりであったり、敏感であったり、支配的な行動も遺伝されることがあります。繁殖者は犬の見た目ではなく、獣医学的、心理学的な要因を考慮して繁殖するべきです。いくら見た目がよく、ドッグショーで優勝したからと言って、これは穏やさや優しさとは何ら関係がありません。

また、母親の気質を多く受け継ぐとも言われます。攻撃的な個体や、怖がりな個体は繁殖に用いるべきではないでしょう。また、ペットショップなどで売られているパピーミル(子犬工場)出身の犬は、母体が受ける環境的ストレスから子犬の脳の低発育を示す研究があり、これが攻撃性などの問題行動の原因となっているとも指摘されています。
 

まとめ

犬でも人でも問題行動の原因は遺伝要因と環境要因にあります。犬は人の手によって繁殖され、育てられます。これにはペットの流通の問題、しつけの問題、飼い方の問題によって制御可能なはずです。これら遺伝要因、環境要因は人によってもたらされています。私たち人間の意識が変わり、知的になればこうした事故を減らすことができるはずです。

もし、愛犬にこのような問題がある場合は、有資格者のドッグビヘイビアリストや、獣医行動診療科などの専門家に相談をしましょう。手遅れになる前に。

《参考》
1,Stanley Coren(2008), Biting Dogs and Dangerous Breeds
Some breeds bite more often, but other factors are important.
Psychology Today.
2,Federica Pirrone,Ludovica Pierantoni,Giovanni QuintavallePastorino,Mariangela Albatini(2016),Owner-reported aggressive behavior towards familiar people may be a more prominent occurrence in pet shop-traded dogs.Jounal of Veterinary Behaivior.


(ドッグトレーナー提供:ドッグビヘイビアリスト 田中雅織)