『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽 弘道/新潮社)

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 インターネットの普及により、情報を発信するメディアの数は爆発的に増えた。しかし、その全てが信頼性の高い情報だとは限らない。むしろ、根拠の乏しい主張や、記者の主観に偏った記事も少なからず存在している。読者は真偽の入り混じったメディアに対し、自分の目で「事実(ファクト)」を見極める必要があるのだ。

『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽 弘道/新潮社)は、記者として新聞、雑誌、ネットなどで活躍してきた著者による指南書である。本書では「事実」に則していない「フェイクニュース」の特徴、偏った記事に影響されないための方法が紹介されている。情報過多の時代で「事実」に辿り着くために有効な一冊となるだろう。

 朝日新聞記者としてキャリアをスタートさせた著者は、徹底して上司から報道記事に適切な文体、取材のあり方を教わり、書き手としての基礎力を高めてきた。また、著者は事件が起こってからメディアで記事になるまでの流れにも精通しており、「フェイクニュース」へのアンテナは人一倍高い。そんな著者が本書内で伝授してくれる「フェイクニュースの見分け方」をいくつか紹介しよう。

 たとえば、「オピニオンを捨てる」ことである。「オピニオン」とは書き手の主観的な意見を指す言葉で、事実に対し意見を述べる行為そのものは悪ではない。しかし、中立的立場から事実のみを発信すべき報道機関が「オピニオン」を記事に含めてしまうと、正しい情報が読者に伝達されなくなってしまう。「事実」を知るためには、根拠が書かれていないオピニオンなら全て捨てていいと著者は説く。ただし、例外的に国家首脳のような要人のオピニオンは意味を持つという。

「発信者が不明の情報」も捨てるべきポイントだと著者は述べる。記者として匿名の情報提供者は信用しないという原則を貫いてきた著者は、情報源の名前が明かされていない記事を見ると疑いを抱く。情報提供者に関して、「〜関係者」という表記は世間でもおなじみだろう。「ホテル関係者によると」などの記述を著者は「オールマイティー」だとする。「ホテル関係者」と聞けば多くの読者はホテル内部の人間だと推測しがちだが、実際にはホテルの宿泊客も、なじみの業者も「関係者」に含まれる。報道側の人間がホテルを訪れたとしても「関係者」を名乗れるのだ。報道の裏側を知る著者からすれば、「関係者」という表現は情報提供者の身元から読者の目をそらすためのテクニックだと見抜ける。

「フェアネスチェックの視点」も興味深いポイントだ。著者が引き合いに出すのは、2011年3月の福島第一原発事故において、現場の責任者として事態の収拾にあたった故・吉田昌郎所長である。当時の報道では吉田所長の功績を賞賛する記事があふれ、後に吉田所長を英雄視する出版物まで発表された。しかし、「フェア」な視点から事実を追っていくと吉田所長の別の側面が見えてくる。科学記者・添田孝史氏の著作『原発と大津波 警告を葬った人々』によると、2008年3月のシミュレーションにおいて、津波が福島原発を襲った際の危険性は算出されていたというのだ。つまり、シミュレーション結果が出た時点で然るべき対策を取っていれば、そもそも原発事故が起こっていなかった可能性もある。吉田所長が自分の判断を後悔し、死に物狂いで事故に対応したという見方もあるだろうが、いずれにせよメディアが伝えた「聖人君子」のような人物像と実際の吉田所長はかけ離れている。著者は「完全な善人」や「完全な悪人」を作り出す報道は、現実から離れていると述べる。

 その他にも「インテリジェンスを身につける」「ビッグ・ピクチャーをあてはめる」などの方法が本書では紹介されており、読者は報道から「事実」を見分ける力が養われていくだろう。「フェイクニュース」で無益な混乱に誘導されないためにも、多くの現代人が読むべき一冊だ。

文=石塚就一