F-14「トムキャット」をはじめ、軍用機から発展した可変翼という技術ですが、最近開発された機種で採用されたという話は聞きません。なぜ衰退してしまったのでしょうか。

F-14の特徴「可変翼」、最近の機種では…?

 1986(昭和61)年に上映された大ヒット映画『トップガン』。主演のトム・クルーズさんが2017年5月、その続編を製作中であると語ったことがニュースなどで報じられました。気になる内容は、主人公マーベリックが教官役で登場し、ドローンの話だといわれています。


アメリカ海軍のF-14「トムキャット」。離着陸や低速飛行の際には、主翼を大きく開き高い揚力を発生(画像:アメリカ海軍)。

『トップガン』といえば、アメリカ海軍の艦上戦闘機F-14「トムキャット」。映画の撮影にはアメリカ海軍が全面協力し、空母から発艦するシーンや敵機とのドッグファイトなど、その勇姿を余すところなく映像で伝えています。

 F-14はアメリカ海軍のF-4「ファントムII」の後継機として1973(昭和48)年に配備が開始され、主翼に可変翼を採用した戦闘機でした。飛行状況に応じて主翼の角度が変更できる可変翼は、映画の中でも場面によって色々な角度に変化しているのが見られます。

 しかし2017年現在、アメリカ海軍のF-14のみならず、世界中を見渡しても可変翼機はまったく主流ではなく、後継機開発も見られません。なぜ、これほどまでに衰退してしまったのでしょうか。

そもそも可変翼とは? 実用化とその歴史

 その前に、そもそも可変翼とはどのようなものなのでしょうか。

 航空機はジェットエンジンの登場によって、より早いスピードで飛行することが可能になりました。そして主翼には、空気抵抗の少ない後退角を持たせた「後退翼」が登場します。後退翼は高速飛行には適していますが、直線翼に比べると離着陸時や低速時の安定性が劣ります。そこで、高速性と安定性を両立させるために、状況に応じて主翼の角度を変え飛行特性を変化させる可変翼が登場しました。

 可変翼の開発は、第二次世界大戦のナチスドイツにまで遡ります。


米エアショーでデモ飛行を行うメッサーシュミットMe262。後退翼を備えた革新的な戦闘機で、P.1101はそのパーツを流用して開発が進められた(2017年、石津祐介撮影)。

 1942(昭和17)年に初飛行したジェット戦闘機メッサーシュミット Me262は、エンジンの配置など重心調整で後退翼が採用され、後にそれが高速飛行に適している事が判明します。そして、音速で迎撃するジェット戦闘機として開発されたメッサーシュミット P.1101は、主翼の後退角を変えることで飛行特性を変化させる可変翼機として研究されますが、完成前に終戦となり実用には至りませんでした。

 戦後、この戦闘機の設計図を入手したアメリカ軍が、1951(昭和26)年に可変翼の実験機X-5の試験飛行を成功させました。その後、実用化を目指して様々な可変翼の航空機が開発されましたが、主翼角度の変化によって操縦特性も変わるため上手くいきませんでした。

 可変翼機が実用化されたのは、1964(昭和39)年に初飛行を行ったF-111「アードバーグ」でした。アメリカ空軍やオーストラリア空軍に採用され、ベトナム戦争や湾岸戦争などに参加しました。

当初は「手動」?

 当初、F-111は開発費と維持費の軽減のために、アメリカ空軍と海軍とで共通の機体を使用する予定で計画がスタートし、空軍型のA型と艦上戦闘機型のB型を開発する予定でした。ところが空軍と海軍の要望を採り入れるために、様々な機構を採用した結果、機体の重量が予想よりはるかに増加し、海軍は重量増加では運用が困難とB型の採用を取り止め、A型のみがアメリカ空軍に採用されました。


オーストラリア空軍のF-111C。アメリカ空軍では1996年、オーストラリア空軍は2010年に全機が退役(画像:Master Sgt. Kevin J. Gruenwald)。

 その後、技術革新によりコンピューターによる飛行制御が可能となり、F-111が「CAS(コントロール増強システム)」により、ようやく可変翼が実用化に至ります。主翼の角度は、飛行中にパイロットが手動で変更させる方式でした。

 ところがいざベトナムで実戦投入されると、敵戦闘機との空戦には苦戦し、空域を制圧する制空戦闘には不向きであることが露呈します。爆撃機としては優れたF-111でしたが、空軍はより優れた制空戦闘機としてF-15の開発をスタートさせます。

 一方、採用を見送った海軍はF-111の可変翼やミサイル、エンジンなどの技術を転用し、F-14の開発に着手します。F-111では手動で変更させていた可変翼は、「CADC(統合飛行制御装置)」により角度の自動制御が可能となり、優れた飛行性能を発揮することができました。


アメリカのデスバレーで低空飛行訓練を行うイギリス軍のトーネードGR.4。可変翼以外にも、スラストリバーサー(逆噴射装置)を備えている(2016年、石津祐介撮影)。

 可変翼はその後、1960〜1970年代に流行しアメリカ空軍の爆撃機B-1やソ連の戦闘機Mig-23やSu-24、イギリス軍のトーネードなどに採用され、軍用機の新しい技術として定着するかに思えましたが、やがて時代の流れで衰退していきます。

 可変翼が開発された当時は、戦闘機は速度競争の真っ只中にあり、各国はより速く飛べる技術の開発に心血を注ぎましたが、やがて戦術の変化やマッハ2を超えるような超音速が実用性に乏しいことを理由に高速化を追い求めなくなり、結果、可変翼の特性である高速性と低速性の両立をさせる必要が薄れました。そして新型のエンジンやコンピューターによる機体制御が進むと、可変翼を使わずとも運動性能を向上させることが可能になりました。


可変翼を備えた爆撃機、アメリカ空軍のB-1B。2017年8月現在、グアム島のアンダーセン空軍基地にも配備され北朝鮮への警戒を強めている。(2016年、石津祐介撮影)。

 また可変翼機は、一般的に主翼の根元にある回転軸で主翼の角度を変化させます。この回転軸が主翼の荷重を支えるため重く頑丈に作られています。そのため機体の重量増となり、また構造が大変複雑なためメンテナンスに要する時間が多くなります。そして何より1機当りのコストが増加します。形状的にもステルス性が損なわれるため、新たに可変翼の戦闘機が開発されることはありませんでした。


横田基地で2003年にオープンハウスで展示されたF-14(2003年、田辺能規撮影)。

アメリカ海軍厚木基地に、ゲートガードとして展示されているF-14。友好祭などでその姿を見ることができる(2015年、田辺能規撮影)。

F-14の後継機F/A-18。空母の艦載機として活躍している(2016年、石津祐介撮影)。

『トップガン』で一躍知名度が上がり、艦上戦闘機としてその強烈な存在感でいまだファンの多いF-14「トムキャット」。実戦では湾岸戦争、アフガニスタンやイラク戦争などで活躍した後、2006(平成18)年にアメリカ海軍から完全に退役しました。現在は、基地のゲートガードなどのモニュメントとして余生を送っています。

 そして現在、第一線ではF-14の後継機F/A-18E/F「スーパーホーネット」が活躍しています。

【写真】高速飛行時のF-14「トムキャット」


高速飛行時の、後退角を大きくし空気抵抗を減らして飛行するF-14「トムキャット」(画像:Bangon Kali)。