キリンビール高知支店で成し遂げられた改革とは?(写真はイメージ)


 いよいよ、終盤戦に突入する今シーズンのプロ野球。

 広島にマジックが点灯した無風地帯のセ・リーグに対し、まだまだ分からないのが、パ・リーグです。ここに来て、頭ひとつ抜け出したソフトバンクホークスですが、まだまだ楽天と西武にもチャンスが残っています。

 特に、ここに来て面白い存在なのが西武。チーム59年ぶりの13連勝の快進撃などで、首位の姿が見える位置まで上って来ました。エースの菊池雄星投手の活躍が鍵を握っており、岩手県民としても最後まで応援したいところ。昨年の日本ハムに続き、奇跡の大逆転優勝なるか、期待大です。

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戦う相手は「社内の風土」だった

『』(田村潤著、講談社+α新書)


 ところで奇跡が起こるのは、何もスポーツの世界だけではありません。

『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(田村潤著、講談社+α新書)。

 例えば、マネジメントでうまくいかず悩んでいる管理職の方が、書店の店頭に足を運んだとします。数多く陳列されているマネジメントのノウハウ本を前にして、店員の私は迷うことなく本書を勧めることでしょう。

 それほどマネジメントに関して大切なことが書かれているこの一冊は、著者がキリンビール高知支店に着任してくるシーンから始まります。

 当時、スーパードライの大ヒットで快進撃するアサヒビールに猛追されていたキリン。その中でも、高知支店は苦戦続きのエリアで、社内でも「お荷物」扱いされていました。

 そんな支店への異動は、著者いわく「懲罰的な人事」。社内でも「田村は終わった」の声が聞こえてきたと言います。しかし著者はそんな逆境を跳ね除け、着任2年後には高知県のトップシェアを見事に奪い返すことに成功するのです。

・・・と、ここまでのあらすじを目にすると、おそらく著者は独特のノウハウを持ったスーパービジネスマンに違いない、と感じた方も多いことでしょう。ところが著者の手法は、周囲を驚かせる魔法を使った訳でもなく、神風に頼ったわけでもありません。

<闘う相手はライバルメーカーではなく、社内の風土>

 詳しくは本書に譲りますが、組織改革のポイントはこの著者の言葉に全て込められていました。組織としての目標をきちんと定め、そちらに向けての仕事の過程を丁寧に洗い直し、最善の方法を選択し直す・・・。当たり前のように見えるこれらの積み重ねが、実は奇跡を起こす近道だったことを教えてくれる本書。デスクの上の必需品になること間違いないでしょう。

地方に必要なのは「選択と集中」か「多様性」か

 とは言いつつも、どうやっても奇跡が起こらない事柄はあるもの。日本社会の抱える人口減少の問題など、その最たる事例でしょう。

「このままでは896の自治体が消滅しかねない」とは、『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(増田寛也著、中公新書)のキャッチコピー。「日本創生会議」の提言をまとめたこの書は、そのセンセーショナルな内容が、大きな話題をさらいました。その「消滅」に疑問を呈したのが『地方消滅の罠 「増田レポート」と人口減少社会の正体』」(山下祐介著・ちくま新書刊)。

「消滅」が、これからの地方の政策として「選択と集中」を促したのに対し、こちらの「罠」ではむしろ地方には「多様性」が不可欠であることを訴えています。

 ちなみに、この『地方消滅の罠』が出版された際に、弊店で著者の山下さんをお招きして講演会を開催しました。会場がすぐに満員になり、あわてて別会場にパブリックビューイングを設置するほどの予想以上の集まりに、冷や汗をかいた記憶があります。山下さんが唱える多様性に同調する人が多かったからでしょう。

 話が脇道にそれましたが、『奇跡の村 地方は「人」で再生する』(相川俊英著、集英社文庫)は、読み終えたあと、なぜかその講演会の際の熱気を思い出した一冊です。

『』(相川俊英著、集英社文庫)


 子育て支援の充実により、全国有数の高い出生率に生まれ変わった村。
 空き家対策に力を入れることで、移住者が増加した村。
 アートと教育環境を充実させることで、特徴ある地域づくりに成功した旧町。

 それぞれに、人口減少に伴う消滅危機を受け止めながら、自らの手で現状を打破しようと能動的に活動している姿を、地方自治ジャーナリストの著者は丁寧な取材で追いかけていきます。

<高齢化率などの数値だけを見て、安易に「悲惨な村だ」と決めつけていると憤慨するのである>

 これからの人口減少問題は、「消滅」といったインパクトのあるフレーズや数字だけにとらわれずに、様々な角度から現実的に考えていきたいもの。幸せな暮らしとは何か、ということを教えてくれる一冊です。

震災で壊滅的被害、老舗醤油蔵の再生物語

『』(竹内早希子著・祥伝社刊)


 最後に、胸に染み入る奇跡の物語を。

『奇跡の醤(ひしお) 陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店 再生の物語』(竹内早希子著・祥伝社刊)。

 先の東日本大震災の被災県(岩手県)にある弊店。それでも、店頭での震災関連書籍のコーナーは縮小し続けています。そもそも発行点数自体が減少しており、この流れは止まらないことでしょう。

 そんな記憶の風化が避けられない中でも、これだけはずっと置き続けたいと思う書籍は必ずあるもの。私にとっては、本書がそんな一冊にあたります。

 舞台は岩手県の沿岸南部に位置する陸前高田市。八木澤商店は、この地で文化4年(1807年)に創業を始めた老舗の醤油蔵です。地元に愛される醤油や味噌を作りながら、この先も穏やかに歴史を刻むはずでした。そう、あの2011年3月11日がやってくるまでは・・・。

 壊滅的な被害を受けた陸前高田市において、八木澤商店も例外ではありませんでした。200年以上の歴史を持つ土蔵や、製造設備に加え、「桶ともろみは命の次に大切にしろ」と言い伝えられる、もろみや杉桶まで全てを失ってしまったのです。

 8代社長の河野和義を始め、誰もが再建は不可能だと思い始めたとき、後の9代社長の河野通洋が立ち上がります。再建に向け、同業他社や仲間たちの支援に加え、運よく「もろみ」も発見され、何とか走り始めた通洋。しかし、その強い思いがゆえに社員との足並みに乱れが生じます。果たして、通洋たちは八木澤商店を再建できるのでしょうか・・・。

 ページを捲るたびに、通洋を始め、家族や社員、また仲間たちの悩み、悲しみ、喜びの表情が思い浮かぶような本書。いつの間にか、自分も当事者の一人として感情移入していましまいます。そんな繊細な描写を可能にした著者。この作品が処女作とはとても思えない出来栄えです。

 震災からの復興はまだ終わっていません。本書のような物語を読み続けることで被災地を想うことも、遠く離れた私たちにできる応援の1つではないでしょうか。

*  *  *

 今回は「奇跡」がタイトルについている3冊を紹介してみました。このように「〇〇」縛りで選書してみるのも、読書の楽しみの1つです。ぜひ、試してみて下さい。

 さて、私もそろそろ売り場に戻ることにしましょうか。店頭を充実させるために一働きしてきます。書店業界がV字回復する奇跡がやって来る日を信じて。

筆者:栗澤 順一(さわや書店)