「Thinkstock」より

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 疲労回復や体調管理において、重要な要素である「睡眠」。

 しかし、「毎晩、しっかり熟睡できている」と断言できる人は少ないだろう。最近は、日々の睡眠不足が蓄積されることで、がんや認知症などの病気リスクを招いてしまう「睡眠負債」という言葉も話題になっている。現代人が睡眠に関して不安を抱えていることの表れなのかもしれない。

 夏は1年のうちでもっとも睡眠が浅くなり、「睡眠負債」を溜め込みやすくなる季節だという。パフォーマンスの低下や急な体調不良を招く“夏の睡眠不足”について、上級睡眠改善インストラクターの安達直美さんに聞いた。

●1年でもっとも眠りづらい季節の「夏」

 夕方から翌朝までの最低気温が25℃以上あると「熱帯夜」となる。暑さによる寝苦しさが引き起こす夏の睡眠不足には、どのような危険が潜んでいるのだろうか。

「夏の寝不足によって、日中のパフォーマンスが落ちてしまうのはもちろん、体調も崩しやすくなります。また、起きているときに優位になっている交感神経は睡眠時に休息するのですが、眠りが浅い状態では交感神経が休めず、自律神経が乱れることがあるのです」(安達さん)

 疲れが溜まった状態で真夏の屋外に長時間にいるようなことがあれば、熱中症にかかるリスクも高まる。ただ“眠い”だけでは済まされないのが、夏の睡眠不足の危険なところなのだ。とはいえ、横になっているだけで汗をかいてしまうような熱帯夜では、入眠するのも一苦労だ。

「人間の脳と体は、眠るときに熱を外に出して体温を下げながら休息モードに入ります。その際、私たちは末梢血管から手のひらや足を通して体の熱を放出するのですが、外気温が高いときは体の熱をうまく放散することができず、深く眠ることができなくなってしまうんです」(同)

 熱帯夜は体温と外気温が同程度になるため、体温が下がらず脳や体が休息モードに切り替わらないのだという。熱帯夜が増える夏は、必然的に睡眠負債を抱えがちになってしまうのだ。

 さらに、夏にはほかにも眠りを阻む要因があるという。

「人間の睡眠時間は、日照時間とも深くかかわっています。日照時間が短く夜が長い冬に比べ、夜が短い夏は睡眠時間が短くなる傾向があります。その上、暑さで眠りが浅くなっていると、明け方の光でも目が覚めてしまうことがあるのです」(同)

 熱帯夜や日照時間の長さなど、夏は睡眠不足になる要素であふれている。そのため、「そもそも、夏は眠れない季節と捉えるべき」と安達さんは言う。

●寝酒、シャワー、エアコン…快眠を妨げるNG行為

 寝不足を感じたときは、日中に15分ほどの仮眠をとれば楽にはなるが、根本的な解決には至らない。寝苦しいとはいえ、いかに夜の間に熟睡できるかが重要なのだ。しかし、眠る前のNG行為によって、自ら眠りの質を下げている人も少なくないという。

「ひとつは入浴法です。暑いからシャワーだけで済ませるという人もいますが、湯船に浸かるだけでも快眠に近づきます。39〜40℃のお湯に10分ほど浸かれば全身が温まり、その反動で体温を下げる機能(恒常性)が働きやすくなるのです」(同)

 入浴後30分くらいの体温が急速に下がるタイミングで床に就くことで、寝つきがスムーズになるという。そして、もうひとつのNG行為は「寝酒」。

「実は、お酒を飲んだときの眠りは交感神経が休息せず、本来の睡眠による機能回復が望めません。また、アルコールには利尿作用があるので、尿意によって眠りが浅くなる。そのため、『寝酒』は快眠とはほど遠いNG行為といえます」(同)

 また、寝酒はアルコール依存症のリスクを高めることにもつながるため、いずれにせよ、眠るためにお酒を飲むのは好ましくないとのこと。夏はビールなどのお酒がおいしい季節ではあるが、宴会は早めに切り上げて眠りに備える必要がありそうだ。

 そして、「もっとも多いのは、エアコンの使用法に関する勘違い」だと安達さんは指摘する。

「眠るときには冷房を切る、もしくはタイマーで数時間後に切るという人も多くいますが、これもNG。冷房がついている間は涼しくても、タイマーが切れた途端に家具の隙間やクローゼットの中にこもっていた熱気が放たれ、室内も体も温めてしまうのです」(同)

 また、夜中に目が覚めてもう一度眠ろうとしても暑くて眠れなくなってしまう人は、室温の変化が体温調節に影響を与えてしまっている可能性が高いとのこと。

「たとえ深夜に窓を開けても、熱帯夜の外気温は25℃以上。あまり涼しくない上、防犯の観点からも窓は閉めるべきです。ぐっすり眠りたいのであれば、26℃前後の温度設定で一晩中冷房をかけっぱなしにするのがベストです」(同)

 26℃前後の外気温は、体の熱を外に逃がしやすい温度なのだという。ただし、26℃で「寒い」と感じたときは1℃上げてみるなど、自分に合った室温に微調整することで快適な睡眠に近づけるとのこと。

「昔は冷房を使わずに“自然な状態で眠ること”がよしとされていましたが、その時代とは環境が変わってしまったのです。環境が変わっていても、私たちの体はまだその変化に対応できていないので、自然に眠れる環境を人工的につくり出す必要があります」(同)

 これからは残暑が厳しい時期だ。「冷房を切ってもぐっすり眠れるような時代環境は終わった」と考えるのが、快眠への第一歩だろう。

●パジャマや寝具は「綿」や「ガーゼ」で快眠へ

 熟睡するためにも、エアコンの存在が欠かせない夏の夜。しかしながら、冷房だけに頼るのも問題だ。

「冷たい風が長時間体に直接当たっていると、体温が奪われ続け、朝、目が覚めたときに『体がダルい』と感じることがあります。冷房をつけて寝るときは、直接冷風に当たらないようにする必要があります」(同)

 同様に、扇風機の風に当たり続けても体調を崩しやすくなるという。あちらを立てればこちらが立たずだが、どんな対策をとるべきだろうか?

「タオルケットやハーフケットなどの夏掛けを使う、七分丈のパジャマを着る、などの方法が効果的です。最近では、アプリと連携して個人の睡眠に合わせて朝方に設定温度を少しずつ自動で上げてくれる『おやすみナビ』や、『快眠モード』など睡眠の状態に合わせる機能が搭載されているエアコンもあるので、ぜひ活用してみてください」(同)

 また、「パジャマや寝具の素材をしっかりと選ぶことで、自分にピッタリな睡眠環境を整えることができるはず」と安達さん。

「パジャマやシーツは、体に熱がこもらない素材のものを選びましょう。繊維の目が粗くて通気性がよく、肌との接触を抑える『綿』や『ガーゼ』などの素材が夏向きです」(同)

 そのほか、ステテコなどに使われる楊柳生地も、生地の表面が凸凹しているので肌にまとわりつかず快適に過ごすことができるため、シーツやパジャマにオススメだという。

「寝具やパジャマを見直すだけで、睡眠の質がグッと上がることもあります。ぜひ、自分の体質に合った睡眠環境をセルフメイドしてみてください」(同)

 夏の寝不足で溜まりに溜まった睡眠負債は、仕事の効率を下げるばかりでなく、恐ろしい病気の引き金にもなりかねない。しかし、環境や寝具を少し工夫するだけで、返済していくことが可能なのである。
(文=真島加代/清談社)