ポスト・プーチンのロシアはどうなるのか?

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著:Peter Rutland(ウェズリアン大学 Professor of Government)

 7月21日に、ロシアの大統領ウラジミール・プーチン氏は学生を含む観客の前で、引退後の予定を聞かれた。彼は「大統領をやめるかをまだ決めていない」と答えた。

 今、誰もがプーチン大統領とトランプ大統領の関係に関する騒動に夢中だが、二人の関係より二国家間の関係が長く続くことを念頭に置くべきだ。

 プーチン大統領は2018年3月の大統領選挙に再出馬する予定で、勝利が確実だ。彼の支持率は8割越えで、野党は接収されたか、先手を打たれたか、鎮圧された。プーチン大統領の任期は、彼が72歳となる2024年まで続く。

 1980年代ソ連の学者として、政治指導者を選任するための効果的なメカニズムの展開に失敗したことが、ソ連の停滞と崩壊につながったことを私は見てきた。このような状況は再び起こりうるのか?

◆リーダーは誰?
 ロシアが直面している諸問題を踏まえると、プーチン大統領がなぜ後継者に権力を引き渡したくないかが理解できる。世界の原油価格が1バレル50米ドルで停滞している今、ロシア経済はほとんど成長しておらず、未だに2014年のクリミア併合後に西洋諸国が課した制裁の対象となっている。だが、2024年までには後継者探しの話題がロシアのエリート層の間で復活するだろう。

 ロシア連邦憲法により、大統領の任期は2期までとされている。プーチン氏が2008年にこの問題に直面した際、彼自身は首相となりプロテジェのドミトリー・メドヴェージェフ氏が大統領に就任したことによって解決した。メドヴェージェフ氏を低く評価していたのだろうか、プーチンは2012年に大統領として復帰することを決意した。

メドヴェージェフ氏(左)とプーチン氏
Northfoto / Shutterstock.com

 今、政治評論家はプーチン大統領が築いた政治体制が彼の任期後も存続するかで意見が分かれている。権力とプーチン大統領の個人的な人脈が切っても切れない関係にあるため、他人が彼の役割を担うことが想像できないと多くの人は考える。国家保護を必要とする横領金など、プーチン大統領に懸かっていることが多すぎる。そのため、彼の退任後に1990年代のロシアや現代のウクライナに見られるような派閥争いが勃発する可能性がある。

 だが、プーチン大統領は絶対的な権威を持つ独裁者ではないということを覚えとく必要がある。また、ソ連時代の共産党のように忠順な政党の党首でもない。ロシア人ジャーナリストのミハイル・ジガーリ氏によると、プーチン大統領は財閥や地方の権力者、国防機関関係者(シロヴィキ)、省庁の官僚などの対立する派閥の利権をバランスするブローカー的存在だ。彼らの協力なしではプーチン大統領は政権を掌握できなかっただろうし、政策を進めることもできないだろう。

 派閥に属する権力者とプーチンの間には、次のような関係が存在する。権力者は、政治に関与しない。その代わりに、国家による財産の差し押さえを心配しなくても良い。

 プーチン大統領は長年にわたり自主性を拡大してきたが、自身の権力の限界に気づいている。ゆえに、プーチン大統領を取り巻く影響者はロシアの評論家に「集団的プーチン」や「ポリトビューロー2.0」と呼ばれている。ポリトビューローとは、共産主義時代の政治局のことを指す。

 だがやはり、ロシアの歴史に名を残すには、プーチン大統領は信頼できる後継者を任命しなければならない。この後継者はプーチンと側近者の身の安全及び財産を保証しなければならない。これは、プーチン大統領が前任者のボリス・エリツィン元大統領と彼の家族に約束したことでもある。プーチン大統領はその後継者候補を大統領に指名する前に首相を務めさせるだろう。実際、1999年にプーチン大統領自身もこの過程を経て大統領となった。

 しかし、プーチン大統領が築いた体制には後継者を選ぶ仕組みがないという大きな構造欠陥がある。プーチン氏が大統領を務めた17年間の間に中国は3人の国家主席を経た。石油資源に恵まれた旧ソ連構成共和国のアゼルバイジャンでは、ヘイダル・アリエフ大統領は息子のイルハムを後継者として養成し、父が死去した2003年にイルハム氏は大統領に就任した。しかしプーチンには息子がおらず、伝統的に後継者とされない娘しかいない。ウズベキスタンのカリモフ大統領やトルクメニスタンのニヤゾフ大統領らは数十年間権力を握っていたが、彼らも権力を引き渡せる息子がいなかった。

 それにもかかわらず、トルクメニスタンとウズベキスタンでは比較的円滑な権力移行が行われた。2016年にウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領が死去した際、2003年から首相を務めた政治家が次期大統領となった。トルクメニスタンでは2006年にサパルムラト・ニヤゾフ大統領が死去したが、彼の歯医者でもあった副首相が後を継いだ。

 もちろん、これらの国々はロシアより小さく単一民族社会である。また、この国々の大統領らはプーチン大統領より大きな個人的権力を持っていた。しかし、これらが証拠づけていることが一つある。それは、自由民主主義が根付いていなくても、ソ連崩壊後に現れた権威主義体制の国々が安定していることだ。

◆次のロシア大統領は誰?
 現首相のドミトリー・メドヴェージェフ氏は大統領に復帰しないだろう。メドヴェージェフ氏は支持者が少なく、野党リーダーのアレクセイ・ ナバリヌイ氏が制作したドキュメンタリー映画で批判の的となっている。そのドキュメンタリーでは、メドヴェージェフ氏がイタリアのトスカーナに葡萄園を所有しているなど、彼の個人資産が暴かれている。2007年3月にユーチューブで公開されたこのドキュメンタリーは2300万回視聴され、メドヴェージェフ氏の支持率は1カ月に15%も下落した。

 プーチン大統領の後継者としての可能性がある人物が3人いる。彼らはロシアのエリート層に信頼されており、能力のあるリーダーとして国民に受け入れられるだろう。

セルゲイ・ショイグ氏
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 現国防相のセルゲイ・ショイグ氏はロシアで2番目に人気な政治家である。(ショイグ氏の信頼度は26%、プーチン大統領は55%)しかし、彼は政治家としてのキャリアの大半を非常事態相として過ごしてきたため、ビジネスや外交の経験がない。

セルゲイ・ソビャーニン氏
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 モスクワ市長のセルゲイ・ソビャーニン氏は石油資源が豊富なハンティ・マンシ自治管区の長を務めたことがある。

ユーリ・トルトネフ氏
en.kremlin.ru

 現副首相のユーリ・トルトネフ氏は州知事や天然資源相などの経歴を持つ、知的で実績をもつマネージャー的存在だ。

 ショイグ氏とソビャーニン氏は複数人種のバックグラウンドを持つ。ショイグ氏はモンゴルとの国境にあるトゥヴァ出身で、ソビャーニン氏は北極の民族マンシ人の血を引く。このことは、多くのロシア人が少数民族に対しネガティブな偏見を持っているため、両氏にとって問題である。ロシア人は、彼らが大統領になることを渋るだろう。

 ロシアが深刻な問題に直面していながらも、プーチン大統領はある程度の安定をロシアにもたらした。特に混乱の90年代と比べると、その事実は明らかだ。彼が2000年に大統領に就任してからの17年間で生活水準は倍増し、イスラム教過激派のテロやチェチェン独立運動などは抑えられ、ロシアが再び国際関係において大国となった。私が思うには、プーチン大統領が早めに退任し、平和的な権力移行の前例を作り出すとは、彼にとって、またロシアにとって良いことだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Masaru Urano