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この春、東京都美術館で開催された「バベルの塔」展。16世紀の画家ピーテル・ブリューゲルが描いた傑作絵画の来日に合わせ、駅に所せましと貼られた展覧会のポスターを見て、32歳の女性翻訳家が思い出したのは、9年前の学生時代に訪れたウィーンでの一日。家に帰り、ほろ苦い気持ちを抱えて当時の日記を開きます。

○食堂車に逃げ込む、彼に出会う

「2008年4月10日。朝にプラハを散策し、12時の電車でウィーンへ向かう。5時間ほどの電車の旅は、まだ読み終えていないバタイユを終わらせるのに絶好の機会。……と思っていたけど、隣の席の老夫婦が痴話喧嘩を始めて騒々しく、たまらず食堂車に逃げ込む。そこで同じく騒音を避けてきたアメリカ人の男の子に話しかけられる。

ウィーンの町は、リンクシュトラーセという環状道路の内側が世界遺産になっているんだと彼に教えてもらう。ドイツ語のシュトラーセって、ついストラーベって読んじゃう。『一緒に回らないか?』と誘われて一緒に行くことにした。私が行きたい美術史美術館と、彼が行きたい自然史博物館がちょうど向かい合わせに建っているのだった。

美術館に行く目当てがカフェだと話したら、彼には笑われたが、なかなかどうして、美しく居心地のいいカフェだった。ブリューゲルの間で『バベルの塔』を観ていたので、私たちの母語が違うのはこれのせいなんだよね、と笑いあった。

彼の自然史博物館にしばらく付き合った後(私には何も響かない施設だった……)、路面電車から夕暮れのウィーンの街並みを見る。市庁舎はライトアップされて厳かな雰囲気。次に見えてきたウィーン大学は、フロイトが教えていた学校だと彼が教えてくれた。

彼との話が弾みすぎて、気付けばもうフライトの時間が近づいていた。ザッハトルテもウインナーコーヒーも逃したのは残念だった……けど、正直、一番残念なのは、彼の名前も連絡先も聞かないで別れたことかもしれない。

2008年9月2日追記

『ビフォア・サンライズ』という少し前の映画を観た。観ない方が良かったかもしれない。彼は今どこで何をしているのだろう。私にできるのは、英語の勉強を続けることかな。」

切ない思い出も旅の味わい。ウィーンの街の、用語解説は以下に。

「バベルの塔」展

正式名称は、「ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル『バベルの塔』展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―」。2017年4月18日〜7月2日に東京都美術館で開催された。現在は大阪の国立国際美術館で開催中(2017年10月15日まで)。

電車でウィーンへ向かう

プラハを観光した後、ウィーンへ電車で行くのは効率よく2つの東欧都市を見ることのできるプラン。特急電車で4時間〜4時間半ほど。

リンクシュトラーセ

12世紀にウィーンに建設された城壁は、16世紀と17世紀に2度オスマン帝国の襲撃から街を守った。19世紀の都市改造計画によってこの城壁が解体され、その跡地に敷設されたのが「環状道路」を意味するリンクシュトラーセである。

美術史美術館

正式にはウィーン美術史博物館。ハプスブルグ家やブリュッセル大公のコレクションが集められており、ブリューゲル、デューラー、ルーベンスなどの所蔵が名高い。大階段の間には、クリムトが手がけた壁画が見づらいカ所に10点ほどあるが、これも見逃さないようにしたい。

自然史博物館

美術史博物館の向かいには、ほぼ同じネオ・ルネサンス様式の建物が建つ。ウィーン自然史博物館である。地球の歴史、生命の歴史を追体験できる。2万9,500年前の「ヴィレンドルフのヴィーナス」と呼ばれる先史時代に作られた女性像はこの博物館のハイライト。

美術館に行く目当てがカフェ

ウィーン美術史美術館内のカフェを世界で最も美しいカフェと称する人もいる。

ブリューゲルの間

美術史美術館の白眉といえるのが、ピーテル・ブリューゲルの作品が集まる「展示室X」で、一般に「ブリューゲルの間」と呼ばれている。「雪中の狩人」「子供の遊戯」「農民の踊り」など傑作が揃う。ここに常設されている「バベルの塔」は現在来日しているものとは別のバージョンでより巨大なものである。

母語が違うのはこれのせい

旧約聖書の創世記において、天まで届くバベルの塔を作ろうとした人間の所業に神(主)が怒り、人々の言語を互いにわからないものにしてコミュニケーション不全に陥れ、世界中に四散させたとされる。世界で多くの違った言語が話されていることの、神話的な解釈である。

路面電車

リンクシュトラーセ沿いに走る路線があるので、観光の際はぜひ利用したい。

市庁舎

1883年に完成したネオ・ゴシック様式の建造物。荘厳なたたずまい。冬にはスケートリンクが開設され市民の憩いの場となる。

ウィーン大学

1365年創立。ドイツ語圏で最古の大学。フロイトや「夜と霧」の著者フランクル、「不確定性理論」で知られるゲーデルなどが教鞭をとった。

ウインナーコーヒー

と言っても、ウインナーは入っていない。入っているのは生クリームである。ウインナーとは、「ウィーン風の」という意味である。

ビフォア・サンライズ

1995年のアメリカ映画。長距離列車でたまたま居合わせたアメリカ人青年とフランス人少女の一晩の恋模様を描く。ウィーンの街をひたすらふたりが歩きながら会話するという映画で、ウィーンの街並みを知るのにも最適。ウィーンを訪れるなら観ておきたい。

○世界遺産データ

『ウィーンの歴史地区』。文化遺産。2001年登録、2017年危機遺産登録。オーストリア。

○筆者プロフィール: 小俣 雄風太(おまたゆうた)

「世界遺産検定」事務局の編集広報部員。自転車ロードレースに魅せられ本場フランスに一年留学。その後イギリスのサイクリングアパレルブランドで広報を務め、世界各地で自転車に乗るうちに世界遺産を強く意識するようになる。検定を通じて世界遺産の魅力と意義を広めたいと奮闘中。

○世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。

主催: 世界遺産アカデミー

開催月: 3月・7月・9月・12月(年4回)

開催地: 全国主要都市

受検料: 4級3,000円、3級4,500円、2級5,500円、1級9,700円、マイスター1万9,000円、3・4級併願7,300円、2・3級併願9,500円

解答形式: マークシート(マイスターのみ論述)

申し込み方法: インターネット又は郵便局での申し込み

その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて。

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