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2017年7月29日〜30日に大阪で開催された第35回日本美容皮膚科学会総会・学術大会で興味深い講演があった。

京都大学大学院・薬学研究科の伊藤美千穂准教授による、「匂い」が持つ薬効の可能性を示したシンポジウムだ。

お香は生薬と同じ材料

匂いは五感の中に含まれる要素であり身近な存在だが、感覚的で数値化し辛く、「科学になりにくい」ともいわれる。伊藤氏自身、研究に取り組み始めてから数年は1本も論文にできなかったという。

それでもなぜ、匂いに注目したのか。日本の伝統文化のひとつに「薫香」、いわゆるお香がある。お香で用いられる植物材料は生薬に使われるものと同じ植物が多い。11世紀に書かれた中国の漢詩「香十徳」でも、香の匂いにリラックス効果や精神安定作用が期待できると書かれているという。

もともと生薬用植物を研究対象としていた伊藤氏も、生薬の効果と匂いに関係があるのではないかと考えた。

しかし、たかが匂いがそこまで人体に影響を与えるだろうか。匂いが生じる仕組みは、空気中に浮かぶ分子が動物の体内に取り込まれると「匂い」として認識されるというものだ。体内に分子が取り込まれるということは、薬を服用して薬効成分を体内に取り入れるのと同じ作用が起きる可能性はゼロではない。

難しいのはその効果の検証だ。まず気体状態なので量が非常に少ない。また条件や記憶、主観に大きく作用されるため、人を使って検証してもほとんど効果が確認できないという。

そこで、空の水槽を利用してマウスの行動回数を測定する装置を作成した。さまざまな生薬の匂いを装置の上部から注入し、その際に装置の中の一定のエリアをマウスが何回動き回っているか数値化。鎮静効果を比較するというものだ。

こうして測定してみると、お香でも使われる香料のひとつ「沈香」を注入した場合、何も注入されていない場合に比べマウスの行動量は半分以下になっていることがわかった。アロマテラピーでリラックス効果があるとされるラベンダーオイルと比較しても、少なくなっていたという。

睡眠薬に匹敵する作用も確認

こうしてさまざまな薫香成分の効果を測定し続けたところ、さらにさまざまな知見が確認できた。特に強い効果を発揮したのは「枕香」という睡眠時に枕に入れるお香に含まれる、「甘松香」という香料だ。なんと甘松香の匂いに晒されたマウスは20分で完全に寝てしまうという。

分析の結果、甘松香に含まれ「valerena47(11)-dien」という成分が作用していることがわかった。経口の睡眠薬をマウスに与えた場合の睡眠導入作用や睡眠援助作用と比較しても、甘松香の匂いを嗅がせた場合の効果はほぼ同じだった。カフェインを与えて人為的に興奮させたマウスに対する鎮静効果も確認されている。

また、ストレスを感じると血中濃度が高まる「コルチゾール」を測定すると、狭いところに押し込めストレスを与えたマウスでも、甘松香の匂いを嗅がせるとストレスを感じない状態にまでコルチゾールが低下したといったデータもある。

ちなみに最も効果を発揮するのは「かすかに香る」程度で、薄すぎたり濃すぎたりすると効果が出なかったり、匂いがきつすぎて逆に活発になってしまうようだ。

リラックス効果をもたらす製品や、薬として確立できないか模索しているものの、ある匂いを特定の個人だけに届けることは非常に難しく、残念ながら実現していないという。

第35回美容皮膚科学会総会・学術大会
シンポジウム4 「感覚の科学」
※敬称略
座長:
水谷 仁 (三重大学名誉教授)
宇津木 龍一 (クリニック・ウツギ流)
演者:
伊藤 美千穂 (京都大学 薬学研究科)
川副 智行 (資生堂 グローバルイノベーションセンター)

医師・専門家が監修「Aging Style」