日本戦に臨むオーストラリア代表で招集外となったキャプテンのミレ・ジェディナク【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

想定内だった主将招集外。負傷癒えず自ら…

 ロシアW杯の切符をつかめるか。日本代表は30日にW杯アジア最終予選でオーストラリアと対戦する。天下分目の大一番、勝てばW杯、負ければサウジ戦に運命を委ねるという状況だ。両国はこれまでも重要なタイミングで対戦してきたが、今回は史上最大の一戦になるかもしれない。そんな試合に向けて、オーストラリア代表は万全の陣容を整えてきた。(取材・文:植松久隆【オーストラリア】)

----------

 8月23日、日本代表に一日先んじて、運命の日豪戦を戦う豪州代表メンバー23名が発表された。

 現地報道では、キャプテンのミレ・ジェディナク(アストン・ヴィラ)が外れたことが大きく取り上げられた。しかし、これは充分に予想の範囲内。いわゆるサプライズに含まれるレベルのものではない。

 長くそけい部の痛みに悩まされるジェディナクは、いまだに所属クラブでフルに練習をこなせていない。回復傾向にあるのは間違いないが、長時間の移動と完治していない故障を抱えながらシーズン序盤の大事な時期に不在にすることのマイナスを鑑みて、自らアンジ・ポスタコグルー監督に代表招集辞退を申し入れたという。

 一定レベル以上のリーグでのコンスタントな出場機会を重視するポスタコグルー監督からしてみれば、そもそもジェディナクは呼べる基準を満たしていなかった。とはいえ、彼はキャプテンであり、精神的な支柱としての役割もある。

 しかし、コンフェデ杯で主に代役を務めたマーク・ミリガン(メルボルン・ビクトリー)がきっちりとその責務を果たせることが周知されており、さほど大きな問題にはならない。コンフェデ杯では強豪相手に戦いながら、ボランチの一角を長く占めてきたキャプテン不在の戦い方のシュミレーションも済ませた。

 結果として、ミリガンを軸にアーロン・ムーイ(ハッダースフィールド)、マッシモ・ルオンゴ(QPR)、ジャクソン・アーヴァイン(バートン・アルビオン)などの組み合わせで十分にしのげるとの判断があった。そんな状況を察知した主将は、「フォア・ザ・チーム」に徹して、自ら受話器を取りポスタコグルー監督への国際電話を鳴らすことを決意したのだろう。

負傷中でも欠かせない守備の要とは。若い2人の技巧派にも注目

 それとは対照的に、同じケガからの回復途中でもトレント・セインスベリー(江蘇蘇寧)は、順当に選ばれた。セインスベリーは、6月のコンフェデ杯のチリ戦でジェディナクと同じそけい部を痛めて途中退場して以来、実戦から遠のいている。

 ただ、こちらはメディカルレポートの結果もよく、すでに練習に復帰していることもあってゴーサインが出た。この一連の過程で、セインスベリーの重要性の高さがはっきりと示された形だ。いずれにしても、ジェディナクに続いて3バックの要を担うセインスベリーをも欠くという最悪の事態を、サッカルーズは回避できた。

 その3バックは、セインスベリー、ベイリー・ライト(ブリストル・シティ)、ミロシュ・デゲネク(横浜F・マリノス)の3人がファースト・チョイス。彼らに何らかの緊急事態が発生した時のために、マシュー・スピラノビッチ(杭州緑城)、ライアン・マクゴーワン(アル・シャールジャ)という2人の経験豊富な中堅選手を控えに配して万全を期す。

 全体的な顔ぶれを見渡すと、善戦で終えた6月のコンフェデ杯からは、さほど大きなメンバー変更はない。

 3-2-4-1という新システムにおいて攻守両面でカギを握る左右のウィングバック的なアウトサイドハーフ。その左サイドは、ブラッド・スミス(ボーンマス)で揺るがない。こちらもケガで離脱していたスミスの復帰の目途が立つと、その代役として参戦したコンフェデ杯でインパクトのある働きを見せられなかったアジス・ベヒッチ(ブルサスポル)が、当然のようにお役御免となった。

 それ以外にも、やや人材過多気味の攻撃的MF勢でムーイ、トム・ロギッチ(セルティック)という常連と役回りが重なる選手が外され、MFムスタファ・アミニ(AGF)、FWアワー・マビル(パソス・デ・フェレイラ)という一芸に秀でた個性派タイプが残った。この2人に関しては、あまり馴染みがない読者も多いと推測されるため若干の説明をしておく。

日本の天敵・ケーヒル。チーム内での重要度は下がったものの…

 アミニは、アフガニスタン系の父親とニカラグア出身の母親を持ち、18歳でボルシア・ドルトムントに引き抜かれるなど早くから将来を嘱望された技巧派MFだ。欧州移籍後に数年にわたって伸び悩んでいたが、活躍の場所をデンマークに移した昨季からは安定した活躍を見せ続け、ようやく代表定着を果たしつつある。その卓越した技術と広い視野とパスセンスで、層の厚いMF陣に食い込み存在感を発揮できるかに注目したい。

 一方のマビルは、南スーダン難民の家族ながらケニア生まれという出自で、10歳の頃に難民として豪州に移住してきた。アフリカ系の独特のリズムとスピード感あふれるドリブルで相手DFをきりきり舞いにさせるそのプレースタイルは、日本にとっては非常に厄介な存在となる。アデレード・ユナイテッドでブレイクして欧州へと勇躍。今季は所有元のデンマークのミッティランからレンタルで出たポルトガル1部ですぐに試合出場を果たすなど、その爆発的なポテンシャルが欧州の地で開花しつつある。

 当然ながら、日本の天敵であるティム・ケーヒルに関して触れないわけにはいくまい。ジェディナクの不在で、ピッチ内外でのベテランとしての存在感は高まるが、戦力としてはひと頃よりはその重要性が相対的に低くなってきているのは否めない。

 その理由としては、ケーヒル自体の衰えも否定はできないが、それ以上にエースFWのトミ・ユリッチ(ルツェルン)の本格化によって、チーム全体のケーヒルに対しての依存度が相対的に下がってきているからだと考えるのが正しい。これまでのキャリアで、途中出場から爆発的な決定力で数々の輝かしい得点シーンを現出させてきたケーヒルが彼自身にとって一番ふさわしい役回りにフォーカスできるようになったと考えれば、脅威はまだまだ残っている。軽視は禁物だ。

日豪戦はメンタル面で豪州優位? 熱戦必死の超大一番に

 ポスタコグルー監督は、メンバー発表の会見で「(日本戦とその後のタイ戦に向けて)私たちがフォーカスしているのは、日本でポジティブな結果を得て、それからメルボルンの母国の土の上でこの最終予選を勝利で終えるということ」と語った。

 この発言での「日本戦でのポジティブな結果」とは何を意味するのか。それは、普通に考えれば、最終戦にホームでグループ最下位のタイとの対戦を残すがゆえに「ドローでも問題ない。日本戦は負けなければいい」という考えになりがちかもしれない。仮に日豪戦で引き分けても、タイ戦に勝てば2試合で勝ち点4を積み重ねて、最終的に勝ち点20まで積み上げられる。そうなれば、上位2位でのフィニッシュはより現実的になる。

 果たしてポスタコグルー監督は、そのように考えているのか。豪州フットボール界にセンセーションを巻き起こしたアンジ・ポスタコグルーという監督をブリスベン・ロア時代から知る身として、その心の内を忖度すれば、「負けなきゃ御の字だが、俺は勝ちたい」と考えているように思う。ポスタコグルー監督が、昨年のメルボルンでの日豪戦でのまさかの守備的な戦いで、ホームで勝ち点3を取れる試合を逃して引き分けに終わったのと同じ轍を踏むとは到底考えられない。

 日豪戦を前に行われるUAE対サウジアラビア(29日、アル・アイン)で、仮にサウジがアウェイで勝てば、その2日後の日豪戦のガチンコ度はグンと上がる。そうなれば日本へのプレッシャーはさらに高まり、ピッチの内外で「負けられない」思いがよどむに違いない。そうなれば、これまでのW杯最終予選で日本と5戦戦って負けのないアウェイに乗り込むサッカルーズが、メンタル面で俄然優位に立ってしまう。

 今回の埼玉決戦は、日豪戦の歴史の中でも特筆すべき熱戦となることは必至。それが日本にとって「歓喜」で終わるのか、「絶望」で終わるのか…筆者は、切に前者を願う。と同時に、それが決して簡単なタスクではないことも非常によく分かっている。泣いても笑っても、運命の日豪戦まで、あと6日ーー興奮は収まらない。

(取材・文:植松久隆【オーストラリア】)

text by 植松久隆