新卒不足で「1人100万円」でも採れない

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■企業は1人採用するのにいくら投じているのか?

「売り手市場」と言われる新卒採用活動で、企業同士の競争が激化している。

経団連の指針では選考活動の解禁日は「大学4年生時の6月1日」となっているが、これは形骸化している。実際には「大学3年生時の8月」に始まるインターンシップが、就職活動のスタートになる。本来のインターンシップは「採用とは関係のない就業体験」だったはずだが、いまでは「採用直結型インターンシップ」が増えている。

たとえば大手食品会社の採用担当者はこう指摘する。

「大学3年生時の6月1日に、就職情報会社のインターンシップサイトがオープンします。当社だけではなく同業他社も、その時点からエントリーを受け付け、その後は面接でインターンの合否を決めます。終了後は参加者のフォロー活動として工場見学や職場見学会の開催や大学訪問による学内セミナーの開催もある。翌年3月には企業説明会が始まりますが、インターンシップ選考と並行して一般選考も始まり、終わるのは6月末。その後は来期のインターンシップの準備が始まり、ほぼ一年中、採用活動がありますね」

▼採用費総額の平均は499万4000円 上場企業は1237万1000円

それでも大企業はまだいいほうだ。

中小企業の場合は、大企業と同じように前年の夏にインターンシップを開始しても、採用活動が終わらず、越年するところも珍しくない。それだけ長期化すれば、費やす人手も資金もバカにならないだろう。

では採用活動にいったいどれぐらいのお金を注ぎ込んでいるのだろうか。

就活サイト・マイナビの調査*によると、採用費総額の平均は499万4000円である。このうち上場企業は1237万1000円で、非上場企業は372万7000円だった。

*マイナビ「2017年卒マイナビ企業新卒内定状況調査」より。調査対象は国内2572社(上場企業19%・非上場企業81%/製造業33.8%・非製造業66.2%/従業員1000人以上18.9%、300〜999人26.7%、100〜299人30.9%、100人未満23.5%)。

■大手ゲーム開発会社「採用1人に100万円超」

採用費に占める割合が大きいのが、何と言っても広告費だ。これは、就職情報誌や就職情報サイト、新聞など一般に公開される採用情報を掲載・出稿するための費用である。

それに加えて、入社案内やホームページ・ダイレクトメールなどのツール作成費、DM発送費、セミナー運営費、アウトソーシング費(データ処理・電話オペレーターなど)、資料発送費といった細かな「採用経費」もバカにならず、総計のコストは想像以上にかかるのだ。

上場企業の採用費が多いのは採用数が多いからだと考えられる。入社予定者1人あたりの採用費平均は42万3000円だが、非上場企業の場合は46万7000円と高くなる。大企業に比べて知名度も低く、採用に苦戦している中小企業に採用費が重くのしかかっていることが推測できる。

もちろん個々の企業によって採用費は異なる。

▼最も採用費が多かった企業は1億6500万円

大手ゲーム開発会社の採用担当者はこう指摘する。

「採用数は30人以下ですが、インターンシップの開催を含めて他の大企業なみのイベントを開催しているので1人あたりの採用費はどうしても高くなる。全体で2000万円超、1人あたり100万円は超えていると思います」

これは決して珍しいケースではない。産労総合研究所が調査*によると、従業員1000人以上の企業の採用費総額の平均は2381万9000円という。しかも2000万円以上が全体の37%を占めている。

*産労総合研究所「2015年度新規学卒者の採用活動・管理の実態」より。回答のあった上場企業および産労総合研究所会員企業296社のうち、従業員1000人以上の企業105社分を分析。

驚いたのは、最も採用費が多かった企業は1億6500万円だったことだ。「非製造業」というこの会社が、いったい何人を採用したのかは不明だが、仮に200人だとすれば、1人あたりの採用費は82万5000円になる。

実際には、新卒1人を採用するのに、それ以上の金額を注ぎ込んでいる会社も少なくない。

■大企業より中小企業のほうがコストをかけている

従業員1000人以上の大企業で、1人あたり100万円以上と回答した企業は5.5%だった。従業員1000人未満の企業を含めた全体平均は39万1000円だから、2倍以上の金額となる。だが、じつは大企業より中小企業のほうが、「1人あたり100万円以上」の割合はさらに高い。

従業員300〜999人の企業では1人あたり100万円以上が8.6%。299人以下の企業では10.0%となっている。大ざっぱに言って、従業員1000人未満の企業のうち、10社に1社が新卒1人を採用するために100万円以上をかけていることになる。

仮に20人採用すれば2000万円以上になる。負担は重いが、費用をかけた分だけ、必要な採用数を確保できるのであればいい。しかし現実はさらに厳しいという。

 

▼中小企業を中心に就活サイト離れが進行か

従業員200人弱のあるIT企業は2018年卒の採用戦略を見直し、大手就活サイトの利用を中止したという。

「これまでは大手のサイトを通じてたくさんのエントリー数を集めて、その中から選考するスタイルでしたが、数年前から見向きもされなくなりエントリー数が激減しています。実際、受験者も少なく、採用数に達しなかった。就職情報サイトには300万円近く支払っていますが、あまり効果がないので利用をやめました。今年は中小のSNSサイトのスカウトメールを使って直接学生と接触したり、全国の大学や研究室を訪問したりしています。地道な活動ですが、リアルな場所で顔をつきあわせたほうが学生の人柄を知ることができ、採用にもつながりやすい」(採用担当者)

先のマイナビの調査では、採用費のなかで「就職サイトなどの広告費」の割合は40%を超えている。中小企業を中心に就活サイト離れも進行していると聞く。就活戦線が長期化する中で、大企業、中小企業に限らず、採用戦略も大きく見直されてくる可能性もある。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)