中央大学名誉教授の長尾一紘氏。

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 5月3日の安倍首相の憲法改正発言は、改憲問題における雰囲気を一変させ、にわかに憲法改正論議が加速している。

 特に「自衛隊の憲法明記」について、各方面から賛否の意見が挙がっている。では、実際に自衛隊はどのように憲法に明記できるのか? この度、憲法学者の中央大学名誉教授の長尾一紘氏に話をうかがった。

 ちなみに長尾氏は、「外国人への地方参政権付与合憲説」を日本で最初に紹介した学者である。だが、その後、理論的反省と民主党政権時代の政策への危機感から、自説を撤回し、「外国人参政権違憲」の著書、論文を発表したことで、一躍注目された。

◆自衛隊の合憲性、3つの学説

 安倍首相の憲法改正発言は、極めて強いインパクトを与えました。改憲問題について、改憲派も護憲派も、多くの論者は強い関心を持ちながらも、あきらめのような、惰性的な雰囲気の中におりました。それが安倍発言によって、にわかに現実の問題としてこれを見るようになったのです。この安倍発言を踏まえて、9条改正に関する問題をみることにしたいと思います。

 安全保障の憲法問題としては、「集団的自衛権の合憲性」と「自衛隊の合憲性」の2つの重要な課題があるといわれてきました。

 「集団的自衛権の合憲性」については、安倍内閣が平成26年の閣議決定で、それまでの政府見解を変更したことにより、長年政府を悩ませてきた問題を解決しました。

 もう一つの「自衛隊の合憲性」については、学説は3説あります。

A 自衛隊は「軍隊」である。したがって憲法違反である。
B 自衛隊は「軍隊」ではない。したがって合憲である。
C 自衛隊は「軍隊」である。日本国憲法は自衛のために軍隊をもつことを禁止してはいない。したがって合憲である。

 Aは、護憲派の憲法学者の多数が主張するところです。政府見解は、Bに近いとみることができます。政府において、自衛隊は普通の意味での軍隊ではない、などと説明されます。Cの論者は、自衛隊は普通の意味での軍隊である、と主張します。

◆護憲派は「自衛権」そのものを否定する

 日本の自衛権論は、世界の常識から大きくかけ離れているようです。護憲派の多数は、「日本国憲法の下において、自衛権の保障はなされているが、自衛のための戦争をなすことは否定され、自衛のための戦力をもつことも否定されている」と主張します。

 ここで注意すべきことは、「自衛権」という言葉の理解です。「憲法上自衛権は保障されている」と言いながら、「自衛のための戦争」は否定され、「自衛のための戦力」を持つことも否定されています。このような主張には、用語上の混乱があると言わざるをえません。

 「自衛権」を持つということは、自衛のために実力を行使しうることを意味します。そして、自衛のために実力を行使しうるということは、「自衛のための戦争」を行いうるということを意味します。自衛戦争を行いうるということは、「自衛のための戦力」を保有しうるということを意味します。これが国際常識であり、国際法上の原則です。

「自衛権の保障はあるが、自衛戦争はなしえない」という主張、そして「自衛権の保障はあるが、自衛のための戦力はもちえない」との主張は、国際常識に反するものです。

◆専守防衛の問題点

 次に、B説とC説ですが、この2説の間には、大変大きな違いがあります。

 政府はB説の立場から、「専守防衛」を主張しています。このため、日本の防衛力は格段に低いものとなっています。政府の「防衛政策の基本」そのものが自衛権を不当に制限しているからです。

 「専守防衛」の意味については、一般に次のように説明されています。