『ハロー張りネズミ』劇伴音楽、バトルとホラー要素をどう表現? “絵合わせ”の演出に注目

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 現在放送中であるTBS系金曜ドラマ『ハロー張りネズミ』の何気なく流れてくる予告編音楽が印象に残っている方も多いのではないだろうか。本作はSOIL & “PIMP”SESSIONSが劇伴を担当。また同バンドが“SOIL & “PIMP”SESSIONS feat.Yojiro Noda”として、RADWIMPSのボーカリスト・野田洋次郎と共に制作したという主題歌「ユメマカセ」も注目されている。主題歌と劇伴に同じ作家が関わるというのは現在よりはむしろ一昔前により多く見られたが、そこにはドラマ作品全体の連関性も感じられる。そんな本作を彩る音楽の中でも今回は「劇伴」に焦点を当てて解説していきたい。

 まず、『ハロー張りネズミ』について簡単に紹介する。本作は漫画原作でこれまでに実写映画やテレビドラマ、さらにはOVAなど様々な形態で映像化されている。東京都板橋区の下赤塚にひっそりと事務所を構える「あかつか探偵事務所」の探偵「ハリネズミ」こと七瀬五郎(瑛太)とその仲間たちが、ときには人情味あふれた哀しい事件を、またあるときには想像を超えた難事件に挑んでいく(参考:『ハロー張りネズミ』オフィシャルサイト)。本文でも記述するバトルシーンやホラーシーンに加えて、コメディ的な要素など、様々な見所を含む充実した作品となっている。

■バトルシーンに付加された種々の劇伴

 本作は「探偵もの」であるためにもちろんバトルシーンは何度も見られ、その際に使用される劇伴に様々な工夫が見られる。一般的に、劇伴で使用されるバトル曲には大きく「格闘」と「逃走」の2種類がある。このことを踏まえた上で、すでにオンエアが終了している放送回より特筆すべき3つのシーンを例に挙げていく。

・「追っかけ」の音楽といわれる一種のバトル音楽 第2話で、木暮久作(森田剛)が仲井隆(吹越満)の家から逃走するシーンがあるが、このシーンでは「追っかけ」の音楽といわれる一種のバトル音楽が使用されている。「追っかけ」の音楽とは説明的な音楽に分類され、「カー・チェイス」や「ヘリコプター・チェイス」をはじめとし、このシーンのように「人間の足」によるものもある。実際にこのシーンで使用された劇伴では、「疾走感があり、ウッドベースが4分音符で刻んでいるフレーズ」から構成されていた。こういったウッドベースのフレーズはジャズの中の一部で定石であり、インスト・ジャズバンドであるSOIL&”PIMP”SESSIONSとしての作品色も感じられた。

・短い要素を執拗に反復させることで緊張感を感じさせるバトル音楽 第3話で、木暮久作とヒットマン(高橋努)の探偵事務所内での命がけバトルシーンがあった。しかし、このシーンで流れていた劇伴はそれほど激しいものではなく、音名でいうAとB♭の音をひとかたまり2小節とし、それを執拗に反復させるというものだった。この反復により「緊張感」が生まれ、対峙のカットも含むバトルシーンが激しさとは別の角度の劇伴で見事に演出されていた。

・現実的なバトルシーンを幻想的に見せた音楽 同じく第3話で、七瀬五郎とヒットマンの取っ組み合いの結果、建物から共に落下するシーンの演出も印象的だ。このシーンの映像はスローモーションが用いられており、劇伴では低音が持続するアンビエント風の要素が使用されていた。スローモーションとアンビエントという、どちらも停滞した要素を持つ映像表現と音楽表現を同時に用いることで、「現実的」なバトルシーンを「幻想的」に見せる効果があった。これも一種のバトル音楽と言えるだろう。

■ホラーシーンを演出した種々の劇伴

 本作では、第4、5話を中心にホラーシーンに合わせて「恐怖」を感じさせる劇伴が数種類登場した。「恐怖」の音楽は感情移入的(説明的)な音楽に分類される。「映像との兼ね合い」という視点から特徴的だった劇伴を、ここでもまた3つのシーンを取り上げて記述する。

・「カット・アウト」の手法を用いたホラーシーンの効果的な演出 「カット・アウト」とは、簡潔には「再生している音声を電気的にストンとカットする」手法である。第5話の開始早々、睡眠中の七瀬五郎がみていた夢のホラーシーンに対して、不協和音(不調和な音の集まり)に金物系のパーカッションも組み合わされた強烈なホラー音楽が使われていたが、夢から覚めると同時に劇伴に対してカット・アウトの手法を用いて「映像と音楽の両面で現実に戻す効果的な演出」が確認された。カット・アウトには、楽曲自体が終わることによるケースもあるが、このシーンでは、楽曲自体が終わっていなかったものをカットしたために、より現実に戻す効果が強く感じられた。

・怨霊の声を模した音声と劇伴との同居 第5話で、七瀬五郎と河合節子(蒼井優)が怨霊退治のために床柱がある和室に向かっていくシーンで流れていた劇伴では、ボコーダーを使用して作られたような怨霊の声(所謂、「ロボット・ボイス」)を模した音声が使用されていた(劇伴とは別に状況内音声として付加されていたとも考えられる)。「恐怖」を音楽で表現する際は「無調性(調の中心を感じさせず、明確なハーモニーや旋律を持たない)」の音楽を用いることが非常に多く、このシーンの劇伴も例外ではない。したがって、非現実的な音声とも違和感なく同居していた上に、怨霊に近づいてきたことを暗示させるといった映像と音楽との結びつきも感じられた。ちなみに、このシーンでも、「ドアの取っ手」が勝手に動く瞬間に合わせて劇伴のカット・アウトが用いられ、ドキッとするようなアクセントになっていた。「カット・アウト」は「恐怖」を感じさせる劇伴と相性が良いとさえ感じる。

・「ホラー音楽」と「バトル音楽」の両要素を含んだ劇伴 同じく第5話、一連のホラーシーンのクライマックスで怨霊が初めて顔を見せたシーンの劇伴は、強力なアンビエント、パーカッションのループ、ストリングス、怨霊の叫び声(状況内音声とも考えられる)など、様々な要素が混在した迫力のある音楽で、「ホラー音楽」と「バトル音楽」の両要素を含んだものとなっていた。恐怖とバトルといった両面で状況をダイレクトに説明し、第5話のクライマックスに強烈な印象を残した。上述したロボット・ボイスとは異なり「怨霊の叫び声とはっきり分かる要素」を取り入れることにより、映像と音楽との距離感が一気に縮まっていることにも注目すべきである。

 以上、放送終了回で見られた特徴を記述してきた「バトル音楽」と「ホラー音楽」であるが、どちらにおいても映像でのアクセントのポイントに合わせて劇伴も従属するような「絵合わせ」の演出が見られたという共通点がある。もちろん、本作の劇伴は完成映像を見ながら秒単位で映像に合わせて作曲されているわけではない。そういった意味でも、上述した「カット・アウト」のような「音楽の進行状況に関わらず用いることができる手法」は、絵合わせ的な演出において重要な役割をもっている。

 インスト・ジャズバンドという枠には収まりきらないほど多様な音楽を生み出しているSOIL & “PIMP”SESSIONS。先日8月23日にサントラ盤も発売されたが、ドラマ終盤ではどんな音楽が展開されるのか楽しみに待ちたい。(文=タカノユウヤ)