セブンイレブンの看板

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「国内5万店限界説」が指摘されてきたコンビニ業界だが、店舗数が約5万8000店となった今でも、業界は成長し続けている。「コンビニ生みの親」といわれた鈴木敏文氏のセブン&アイ・ホールディングス会長電撃退任劇、ファミリーマートとサークルKサンクスの運営母体である旧ユニーグループ・ホールディングスとの経営統合、そしてそれによるローソンの業界3位転落など、ここ数年だけをみても激しく変化するコンビニ業界は、今後どこへ向かうのか。

 今回は8月に出版された『コンビニの傘はなぜ大きくなったのか ―コンビニファンタジスタ 知れば話したくなる、あなたの知らないコンビニ活用術26―』(NextPublishing)の著者で、 ローソンのバイヤーとして約600品の商品開発に携わった経験を持つ流通アナリストの渡辺広明氏に話を聞いた。

――セブンイレブンがインドネシアからの撤退を発表しました。酒類販売の禁止措置や日本本社との連携の支障などが撤退の背景と報道されています。地場のコンビニエンスストアがいくら台頭しても、現時点でセブンイレブンを撤退に追い込むほどの競争力があるとは思えません。真相はなんでしょうか。

渡辺広明氏(以下、渡辺) 現時点で真相はわかりません。酒類の売上構成比が大きかったのであれば、販売禁止は大きなダメージになります。それから、たぶんエリア本部となった現地企業の力が弱かったのではないでしょうか。自国の企業を育成するために外資を規制するケースは珍しくありません。小売業の場合、たとえば出店地の規制です。良い条件の立地への出店は自国の企業を優先させ、外資は収益性を期待できる立地に出店できないわけです。現地でトップランクの企業なら政府とのパイプが太いので、外資規制に対して特別な措置を受けられるでしょうが、そうでない企業は、外資規制で一気に追い込まれてしまいます。

 また、陣取り合戦でもあるコンビニで、インドネシア国内企業のアルファマートとインドマレットが1万店以上の店舗を展開していて、すでに好立地を押さえていたこともあり、進出が遅きに失したのも撤退の大きな理由かもしれません。

――コンビニに日本国内の出店余地はまだあると思いますか。

渡辺 全国のコンビニ店舗数は約5万8000店です。今後の需給関係を予想するうえで鍵になるのは、買物弱者が増えていくことです。経済産業省は買物弱者を「流通機能や交通網の弱体化とともに、食料品等の日常の買物が困難な状況に置かれている人々」ととらえ、その数は過疎地や高齢者が多く暮らす団地などを中心に約700万人と推計しています。

 買物弱者の多数を占める高齢者は日常の買い物で700メートル以上歩かないと言われています。たとえば私の母は76歳になりましたが、10分歩いたところにある総合スーパーよりも、たとえ1品につき10円や20円高くても近所のコンビニに行くようになりました。しかも東日本大震災以降、各コンビニともPB商品の品揃えを増やしたので、「コンビニは案外安い」という評判が浸透してきています。

 買物弱者の増加とともに、日常の買い物については、コンビニと「まいばすけっと」などの食品ミニスーパーの需要が高まっていくでしょう。したがって、店舗数の伸びが鈍化しても、1店舗当たりの売上が増える可能性はあります。

●イートインコーナー併設店

――渡辺さんはご著書でイートイン併設店の成長性を取り上げています。併設店の業績は従来型の店舗に比べると、かなり上回っているのでしょうか。

渡辺 いえ、イートインコーナーの併設効果はまだ検証されていません。複数の商品を購入した来店客が、どの商品を通常通り持ち帰って、どの商品をイートインで食べたのか。イートインコーナーで飲食する目的で来店した客は何人か。イートインコーナーで飲食される商品の単価はいくらか。今のところ、こうした分析はされていません。

 ただ、イートインコーナーの需要はどんどん高まっています。郊外のコンビニでは、若者だけでなく高齢者がイートインコーナーを集いの場に活用している光景もたくさん見られます。都心のコンビニでは、ビジネスパーソンが打ち合わせ場所として利用する機会が増えています。打ち合わせ費用が1人当たりコーヒー代の100円で済むので、コンビニを利用すれば安上がりなのです。

 現状で新規出店のほとんどがイートインコーナー併設型で、コンビニ全店の50%が併設可能とみられ、3年後の店舗数を6万店と仮定すれば、約3分の1の2万店前後が併設型に転換している可能性もあります。

――他にも新しい出店形態で注目している事例はありますか。

渡辺 ローソンがオフィス向けに始めた「オフィスグリコ」のような方式でセルフレジを活用して軽食などを販売する「プチローソン」は、伸びると見ています。これを店舗数にカウントすれば、店舗数は相当な勢いで増えていくのではないでしょうか。

――ローソンの発表によると、7月30日時点でITや金融など39企業の57カ所に導入が完了。また、導入が決定している拠点は65企業101カ所で、当初計画通りという状況だそうです。セブンイレブンが参入して、シェアを奪ってしまうことも想定できますか。

渡辺 あり得ると思います。コンビニ淹れたてコーヒーを最初に導入したのはサンクス・サークルKですが、その後セブンイレブンが導入して一気に展開したことで、いつのまにかセブンイレブンが最初に手がけたようなイメージが世間に広まりました。同じことがオフィス設置型のコンビニで起きることは、十分に考えられます。

●セブンイレブンの強さの秘密

――昨年のことですが、ファミリーマートを数店経営していた元オーナーに取材したら、こんな話をしていました。「ファミリーマートの店舗に入った途端、セブンイレブンとの品揃えのギャップにガッカリしてしまう」と。セブンイレブンと他社との決定的な違いはなんでしょうか。

渡辺 端的に言って、セブン&アイ・ホールディングス元会長の鈴木敏文氏が在籍していたか、在籍していなかったか。その違いです。鈴木氏は天才であって、他社の経営者がどんなに優秀でも太刀打ちできません。

 鈴木氏に限らず、小売業を立ち上げて大企業に育て上げた経営者は、ほとんどが天才です。ファーストリテイリングの柳井正氏、ダイソーの矢野博丈氏、ドン・キホーテの安田隆夫氏、ヨドバシカメラの藤沢昭和氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、皆さん天才ですよ。天才ゆえに、経営の話を聞いていても、時折何を言っているのか理解できない面もあります。

――ローソン時代の渡辺さんから見て、鈴木氏の手腕はどんな局面に表れていましたか。

渡辺 徹底力です。ファミリーマートとローソンで、新商品の販売など新しい施策が全店舗に周知徹底される割合が60%程度の場合でも、セブンイレブンではあっという間に80%の店舗に周知徹底されていました。それだけの差がありました。軍隊のようにトップの命令直下で即座に動く組織風土が形成されているからですが、これは鈴木氏の手腕の賜物でしょう。

――大物創業経営者の後を誰が継いだところで、同様のリーダーシップは発揮できません。鈴木氏は正確には創業者ではありませんが、日本におけるセブンイレブンの創業者ですね。退任して1年がたちましたが、セブンイレブンの今後をどう見ていますか。

渡辺 鈴木氏の指導を直々に受けた人たちが経営幹部で在籍している間は、とくに不安材料はないのはないでしょうか。しかもセブンイレブンの場合、経営全体のシステムの完成度が相当高いので、天才が退任しても、そう簡単にはぐらつかないと思います。ただし、神通力が完全に消えるであろう5年後にはわかりません。

――メーカーやベンダーとの関係も、他社に比べて強固に固めているのでしょう。

渡辺 メーカーもベンダーも、当然のことですが、より多く販売してくれるチェーンとの取引を優先します。戦略商品の納品も、より多く販売してくれるチェーンを優先して生産や物流の体制を組んでいます。一方、メーカーやベンダーに対しては、意欲を引き出すかかわり方も極めて重要です。

――どんな方法で意欲を引き出すのですか。

渡辺 たとえばメーカーが提案してきた新商品を手に取って、バイヤーが「何これ? こんな美味しくない物が売れるわけがないだろう」とはねつけるような態度を取ったら、メーカーの担当者は意欲を失うでしょう。どのメーカーでも「こんな商品をつくりたい」という思いを持っています。その思いをどうすれば商品化して、コンビニで売れるようにするかという視点で、いっしょに取り組む姿勢が不可欠です。

●コンビニのこれから

――昨今は、コンビニには宅配便やネット通販の受取拠点として機能することが期待されています。しかし、荷物を保管するスペースの確保や、従業員の手間を考えると簡単ではないと思います。

渡辺 荷物の保管スペースなら、棚最上段から天井までのスペースを活用する方法が考えられます。床に置くことにとらわれる必要はありません。従業員の手間については増員すれば解決しますが、そのためには受取手数料を上げることが必要でしょう。現在の手数料は1個につき50〜140円前後といわれていますが、人件費を確保するには2倍に引き上げたいところだと思います。

 日本フランチャイズチェーン協会の調査によると、コンビニの平均客単価は614円です。粗利益率は30%前後なので、これに宅配便の受取手数料をどれだけ加えられるか。その額次第では人件費を確保できて、宅配便の受取事業を安定的に運営できるようになるでしょう。要は知恵の勝負です。

――コンビニの新たな機能には、地域ケアの拠点機能もあると思います。ローソンが介護事業所との複合店舗を出して話題になりましたが、地域ケアの拠点としてコンビニを機能させる路線は有効でしょうか? 自治体を取材すると、コンビニを有力な地域資源ととらえて、訪問介護などケアの拠点として期待する意見が多いですね。

渡辺 ケアの拠点にすることが目的ならば、介護事業所が店舗を併設するなどして、コンビニ経営を手がけるほうがうまくいくでしょう。逆に、コンビニが介護事業も手がけるというパターンはうまくいかないと思います。

――どんな機能を付加するにしても、従業員の確保がハードルになるのではないでしょうか。

渡辺 今後 人手不足が深刻化するのは間違いありません。さらにコンビニ経営で勘違いしがちなことは、オーナーや店長が従業員を部下として扱い、定着率が下がり、従業員不足に拍車をかけることです。企業の管理職経験者が独立してコンビニのオーナーになると、前職の感覚で従業員を部下として扱おうとする傾向が強いのですが、従業員はアルバイトなので、嫌なことがあれば、すぐに辞めてしまいます。

――いまや中小企業では、雇用主よりも“退職”という切り札を持った従業員のほうが、立場が強くなったケースも増えています。従業員にはどんな接し方をすればよいのですか。

渡辺 コンビニの従業員にはフリーター、主婦、外国人、学生などいろいろな立場の人がいます。店の方針を上から降ろしたところで、素直に従ってくれるとは限りません。フランチャイズオーナーには、それぞれの立場の人たちの心に寄り添うことが求められます。企業の管理職出身者は従業員を一律に「部下」として見る感覚が身についているので、なかなか一人ひとりに寄り添うことができないようです。コンビニ経営には向いていないといえるでしょう。

――かりに渡辺さんがセブンイレブンか、ファミリーマートか、あるいはローソンから経営指導を依頼されたら、どんな戦略を提言しますか。

渡辺 セブンイレブンは先ほど申し上げたようにシステムの完成度が高く、石橋を叩いて新規案件を実施する企業風土のため、ドラスティックな提案で外部のコンサルタントが思い切って切り込む余地はあまりありません。ローソンは総体的に見てコンビニ業界3位というポジションに落ち着いてしまったので、おもしろいコンサルティングができないのではないかと思います。

 私が手がけてみたいのはファミリーマートです。ファミリーマートはドン・キホーテと提携して共同店舗の出店や共同で用品開発を仕掛けていくと報じられていますが、機会をいただけるなら、私は両社共同のPB商品開発をやってみたいと思っています。どのジャンルで、どんな商品を開発してみたいかはまだイメージしていませんが、両社の経営資源を活用すれば、革新性の高い商品を開発できるのではないかと思います。

――ところで、渡辺さんは消費者としてはどのコンビニが好きですか。

渡辺 ローソンに22年勤務したので、やはりローソンに愛着はあります。ただ、弁当だけは苦手で、あまり食べたいとは思いません。ローソンに限ったことではありませんが、コンビニ弁当のレンジで温めたあとの、ラップ・フィルム・容器のかすかな匂いが嫌なのです。私はローソン時代に直営店の店長を3年半務めたことがあり1人で3店舗の掛け持ちをしたりの環境で、25年前当時の直営店のコンビニ店長は今と違って、残業時間が毎月100時間をゆうに超えていて、いつ過労死しても不思議ではない労務環境に置かれていました。ラップなどの匂いからは、その時代の過酷な環境を思い出してしまうので、コンビニ弁当は好きになれないんです。

――ありがとうございました。
(構成=小野貴史/経済ジャーナリスト)