8月14日、英シンクタンク「IISS」のマイケル・エレマン氏は、「北朝鮮は、闇市場経由でウクライナもしくはロシアから旧ソ連製エンジンを入手・使用している」との報告を発表した。

 この発表を受けて「北朝鮮はエンジンを分解した上で技術やノウハウをコピーするリバースエンジニアリングに成功している」という専門家の指摘もあり、米政府関係者も含めて北朝鮮の兵器開発力について議論が巻き起こっている。

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北朝鮮が3Dプリンターでミサイル開発?

 また、複数の専門家から「北朝鮮が3Dプリンターでミサイル開発・製造を行っているのではないか」との指摘も出ている。特に注目すべきは、核兵器開発すら懸念されていることだ。

 その代表格はモントレー国際問題研究所(米国カリフォルニア州)の軍備管理の専門家、ロバート・ショウ氏である。ショウ氏は、アジアタイムズの取材や彼自身の論文で次のようなことを述べている。

「2016年5月に北朝鮮のピョンヤンで開かれた第19回国際見本市では、米国製の3Dプリンターを剽窃したパンフレットが置かれていた。北朝鮮が先進的な3Dプリンター技術を取得した証拠はまだないが、高性能の3Dプリンターを一定量欲しがっていることは確かだ。

 北朝鮮のロケットの残骸を回収したところ、北朝鮮がロケットの主要部品は、一般的な既製品のみを輸入し、他は国内生産していることが分かった。国内生産では、外国製品のリバースエンジニアリングによって得た技術を基に、コンピュータ制御で加工を行っているという。

 3Dプリンターは、ミサイル開発に必要なあらゆる人的・資金的・時間的コストおよび専門性を大幅に削減することができるので、大きな脅威である。だが、現在の国際的な輸出管理体制は、3Dプリンターが存在しなかった冷戦時代の産物のため、輸出を禁止する法律や制度がほとんどない。しかも、こうした機材はアリババ等のECサイトで容易に入手することができる(実際、輸出管理対象の機材が販売されている)。

 このままでは北朝鮮のような国家、そしてテロリストらが武器生産に活用しかねない。3Dプリンターの拡散を防ぐ新たな対策が必要だ」

3Dプリンターは核兵器開発に貢献できる

「3Dプリンターでミサイル開発・生産が可能」というショウ氏の指摘は事実と考えるべきだろう。

 2015年には、米陸軍とNASAが3Dプリンター製部品を75%使用したロケットエンジンの噴射実験に成功している。また、ショウ氏が論説で引用しているように、2016年5月には、カリフォルニア大学の学生が3Dプリンターを用いて製造したロケットエンジンで長さ5.7メートルのロケットの発射に成功した。ロケットは高度12000メートルまで飛行したという。アメリカの大学生にできるのだから、北朝鮮については言うまでもない。

 もちろん、弾道ミサイルのロケットエンジンのような複雑なシステムを丸ごと作るのは不可能であろう。だが、輸入の難しい一部の部品は生産できるはずだ。ここ最近の北朝鮮の急速な技術拡大は3Dプリンターの活用によるものという可能性も考えられる。

 さらに畏怖すべきは、3Dプリンターを使ってミサイルだけでなく核兵器も開発できるという事実である。

 スタントン核安全保障研究所の研究員、トリスタン・ヴォルペ氏とジョージタウン大学准教授のマシュー・クロイニッヒ氏は、2015年にワシントンクォータリー誌に寄稿した論文で「3Dプリンターが核兵器開発に貢献できる」と警鐘を鳴らした。3Dプリンターを使うと、国際的な監視下にあるために入手が難しい遠心分離機の重要部品など核兵器開発に必要な特殊部品を低コストで素早く誰にも知られずに入手できる。これに対する対策が急がれる――という趣旨である

経済制裁を無力化する3Dプリンター

「北朝鮮が3Dプリンターを重視している」という指摘も本当だろう。というのは、3Dプリンターの特性が経済制裁を受けている国家との相性が極めて良いからである。

 つまり、これまでの工作機械が「何かを削る(subtractive manufacturing)」方式だったのに対し、3Dプリンターは「物質を追加していく(additive manufacturing)」方式である。そのため、材料を大幅に節約できる。

 また、金型をいちいち生産する必要がないから、兵器開発における設計・試作・生産の一連の流れを高速化・低コスト化できる。さらに前述のように“極秘裏”で、そしてマシンさえあればどこででも開発・生産できることも、北朝鮮にとって都合がいい。いちいち、国際社会の厳しい監視の目をかいくぐって部品の入手に四苦八苦しなくても済むわけだ。

抜け穴だらけの輸出規制

 では、3Dプリンターを手にして核兵器を開発する可能性がある北朝鮮の脅威に、我々はどう対応すべきだろうか。

 現在、3Dプリンターは不拡散政策や経済制裁の大きな穴になっている。例えば、国防総省の技術研究プロジェクト「NextTec」の責任者を務めたピーター・シンガー氏は、「米国は戦闘機の部品から石油関連の機器まであらゆるものを制裁の対象としてきた。10年以上にわたって外交政策の要だったその制裁が、3Dプリント技術によって時代遅れになるおそれがある」と指摘している。

 また、国連軍縮上級代表の中満泉氏は今年6月の国連安全保障理事会での演説で、「3Dプリンターがドローンやダークウェブ(検索エンジンでは見つけられない闇ネット)とともに、テロリストに対して大量破壊兵器を生み出しかねない」と危機感をあらわにしている。

 CISTEC 調査研究部主任研究員の井上道也氏も、2015年の日本安全保障貿易学会の発表において、「3Dプリンターの輸出規制はほとんどされていない。ガスタービンエンジンの部品製造のための専用3Dプリンターのみ、ワッセナーアレンジメントの規制品目リストに掲載された。他方、工作機械等、従来形の除去加工装置が規制されているのに、汎用3Dプリンターは規制されていない」との指摘を行っている。

 これらを踏まえれば、3Dプリンターの輸出規制を早急に国内外で議論していくべきであろう。

日本が「抜け穴」になってはならない

 我が国ではただでさえ3Dプリンターが低く評価されており、関心が払われていないため、また規制もほとんどないため、このままでは日本が北朝鮮等のならず者国家やテロリストが3Dプリンターを入手するための「抜け穴」になりかねない。要するに日本経由で高性能な3Dプリンターが北朝鮮やテロリストへ渡りかねないのである。

 かつて、東芝の子会社の東芝機械はソ連へ工作機械を輸出し、それがソ連の攻撃型原潜のスクリューの静粛性向上に貢献したとの疑惑を米国政府に抱かせ、日米の外交問題にまで発展してしまった。それと同じ過ちを繰り返してはならない。

 何よりも北朝鮮が日本経由で入手した3Dプリンターを活用して開発・生産したミサイルと核兵器を日本へ撃ち込む、もしくは脅迫する事態は絶対に回避すべきである。北朝鮮と3Dプリンターという一見、奇妙な結びつきは、そうした事実を我々に示唆しているのである。

筆者:部谷 直亮