テレワークで仕事時間が増える? 先行するアメリカから学べることとは

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 安倍政権が経済政策としてこのところ力を入れているのが「働き方改革」。その中のひとつがワークライフバランスで、仕事と生活の境を明確にし、働きすぎることなく余暇も含めた生活の基本的な時間を大切にするという考え方だ。

 この背景には過労死につながる働きすぎの是正、余暇時間などの拡大による消費の増進、恋愛や家族と向き合う機会を増やし、婚姻率や出生率の上昇を狙ったものになる。しかし先の国勢調査の結果のとおり、日本の人口は減少局面が明らかで、その人口も少子高齢化により労働力不足が避けられない。少数の労働者で効率よく仕事をこなさなければならず、働き方そのものを改革して生産性を高めるという命題も突き付けられているのだ。その手法のひとつに「テレワーク」がある。

◆「テレワークの日」
 テレワークとはパソコンや情報通信技術(ICT)技術を使い、場所を選ばずどこでも仕事ができるワークスタイルを意味する。オフィスに出社することなく自宅で仕事をするなどで、オフィス・スペースの省力化、通勤時間の有効活用などが狙い。また女性は育児しながら働け、男性もそれを支援しやすくなる。

 推進する目的で政府が今年の4月に発表した「テレワーク・デイ」は、2020年の東京オリンピックの開催予定日と同じ毎年の7月24日に制定された。オリンピックの開催期間に、海外からの観戦客たちがホテルから会場に移動する際、あのラッシュアワーのすし詰め電車に辟易してしまわないようにする目的があり、ロンドンオリンピックでの成功例から考案された。そして「働き方改革」のひとつとして、テレワークがその後も定着することに期待がかかっている。

◆海外メディが取り上げる
 先月のその日、政府の呼びかけに応じて大手情報通信会社など900社を超える団体が参加したが、大手企業以外に採用が進んでいないプレミアムフライデーと同じような結果を危ぶむ声もある。

 それでも海外からの注目は高く、複数の海外の通信社やメディアがテレワーク・デイを取り上げている。通信社のロイターは、政府やメーカーの研究機関への取材から、12時間近くもオフィスで対面で働くことを求められてきた日本では、テレワークの普及が他の先進国に比べて遅れていること、また、若い世代のライフスタイルの変化に合わせたインセンティブとしての機能がテレワークに期待できることを指摘する。そして、いくつかの日本企業はフレキシブルではない長時間の労働が明らかに生産性の低下を招くことに気づいており、長時間労働が美徳とされてきた企業文化は変わりつつある、という見方を示している。

 ブルームバーグは、中央大学のシミュレーションとして、東京オリンピックの期間中に92万人の来訪が期待されており、この期間、東京の通勤者の少なくとも20%がテレワークに参加しなければ効果がないという結果を紹介している。テレワーク・デイへの参加を政府は呼び掛け1,000社を募ることを目標としたが、テレワーク推進フォーラムのウェブサイトによると、実施登録数は速報値で現在637件となる。またテレワーク応援登録数として290件とあるが、ブルームバーグでも紹介している鉄道会社の70ヶ所のシェアオフィス事業などがこれに該当するのだろう。この会社では毎年10%ずつシェアオフィス需要が伸びているとしている。

 インデペンデント紙は、過労死の抑止、労働者人口減少への対策などで、プレミアムフライデーと同様に、政府の直面する課題への対策と経済への刺激効果も含めた施策になると伝えている。海外メディアの注目は、これらが先進国中の有益な事例となるかどうかに対する関心の高さといえそうだ。

◆テレワーク先進国の米国では
 労働者に占めるフリーランサーが将来50%を占めるとされる米国では、そもそも広い国土や管理職が独立した部屋を持つオフィス環境などから、電子メールやWeb会議が必要とされてきた。2013年のUSAトゥデイの記事によると、当時すでにテレコミュート(在宅勤務)ワーカーが1,300万人以上存在しており、憧れるビジネスマンも多いとし、その成功の秘訣を次のようにまとめている。

1.仕事のスペースを自宅では明確に分ける。
2.仕事中は家族や友人のプライベートな連絡には答えない。
3.プロフェッショナルな態度として、電話会議中などは犬などを遠ざけておく。
4.仕事のペースメーカーになるようなテレワークの同僚を持つ。
5.気分転換として自宅オフィス以外にカフェなどを利用する。
6.メールやSNSのチェックは一定の決まった時間に同時に行うようにする。
7.適度にショートブレークを取り、正午などには仕事から離れる。
8.仕事に没頭しすぎず、社会との接点を大切にして興味を維持する。
9.食べすぎなどを避けるため、仕事中は水以外の食べ物などをデスクに置かない。
10.健康を最優先する。言い訳をして睡眠時間や運動時間を減らさない。

 この記事ではテレワークにより満足度や実際の生産性の向上がみられた研究結果を紹介している。他にも幸福度を高めるなどの効果を示す調査結果もあるようだ。

◆テレワークで仕事時間が増えた!?
「テレコミュート(在宅勤務)は本当にワークライフバランスの改善になるのか?」というタイトルのビジネスニュースデイリーの記事が興味深い。それによるとアイオワ大学とテキサス大学の調査結果では、パートタイムワーカーも含めた在宅勤務者は、フルタイムのオフィスワーカーに比べ週平均で3時間ほど余分に働いてしまっているというのだ。そしてそれは賃金には反映されない。研究者によると、単にオフィスでの仕事が自宅に置き換わっただけで、さらに仕事へ邁進する結果になっているとしている。その理由として、上司に直接見てもらえないため、成果についてより厳しくナーバスに捉えてしまい、働きすぎにつながったとしている。

 実はこの調査、1989年から2008年までのデータを基に行われており、2000年代後半の不況が終わる手前の結果なので、当時はテレコミュート(在宅勤務)が下手をすると失職につながる危険があると在宅労働者の多くが心配していたはず、と研究者は述べている。テレワークを導入する際は、その意図や退職につながるものではないことを、経営者は充分に従業員へ伝える必要があると言えそうだ。

 この調査結果は現在の日本にとって示唆に富む内容かもしれない。日本は今、低調な経済を脱するひとつの手段として、テレワークの導入を計画している。テレワークがリストラの準備段階とならないような実益のある計画と、その労働者の理解が大切なのではないだろうか。