「圭の欠場は残念だが、全米オープンは見どころいっぱい」と松岡修造氏

 シーズン最後のグランドスラムであるUS(全米)オープンテニス(8月28日〜9月10日、アメリカ・ニューヨーク)の開幕が近づいてきた。夏の終わりを告げるテニス4大メジャーの最終戦……WOWOWの解説者を務める松岡修造氏(以下、敬称略)が真っ先に思い浮かべるのは、あの名プレーヤーだ。

「ジミー・コナーズなんですよ」
 
 松岡が19歳で、USオープンの予選に初挑戦した時、当時彼を指導していたボブ・ブレットコーチが、コナーズとの練習試合をセッティングしてくれた。

 コナーズは、グランドスラム8勝の元世界ナンバーワン。闘志むき出しのプレーと「Come on!」と叫びながらつくる派手なガッツポーズでファンを熱狂させ、”闘将”と呼ばれた。USオープンでは5回優勝してニューヨーカーを虜にし、まさに1970年代から80年代にかけてアメリカテニスを象徴する選手だった。

 練習はグランドスタンド(USオープンで3番目に大きなショーコートだったが、2016年に役目を終え、現在は新しいグランドスタンドが完成している)で行なわれたが、その練習試合で松岡は0-6で敗れた。プロ駆け出しの若い松岡にとって、コナーズのテニスに打ち込む姿勢は、プロとしての洗礼を受けたような大きなインパクトとなった。

「それがあまりにも強烈で、彼は一切手を抜かなかった。コナーズさんからテニスの厳しさと、『どんな時でも100%で』ということを教えてもらった」

 USオープンはシーズン最後のグランドスラムであるがゆえに、選手によって大会への臨み方はそれぞれ異なると、現役時代の経験を踏まえて松岡は語る。

「僕のフィーリングと、トップ選手の位置付けは違った。自分は、どのグランドスラムでも勝ちたいと思っていたし、どこでも一所懸命だったし、そして、普通のツアー大会でも一所懸命だった。でも、トップの選手は違います。グランドスラムで勝つために準備して戦っています。しかも、彼らにとって全米は最後のグランドスラムですから、たとえ、多少のケガをしていても”戦う”のが全米なのではないでしょうか」
 
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 今年の全米オープンに話を移す。松岡も、そして日本のファンも大いに期待していた錦織圭(ATPランキング10位、8月21日付け以下同)が欠場することが発表された。グランドスラム4大会のなかでも、一番相性がいい大会だけに非常に残念だが、注目の日本人選手は他にもいる。

 まず、6月にATPアンタルヤ大会でツアー初優勝を成し遂げ、先日のウエスタン&サザン・オープン大会でもベスト8まで進出した杉田祐一(43位)だ。USオープンは28歳にして、本戦初出場となる。

「期待大ですね」と松岡は、自分の46位を抜き、日本男子プロテニス選手として2番目に高い世界ランキング、43位になった杉田を高く評価している。日本を拠点にして成長した彼の功績を踏まえて、「壁をなくしてくれた」と話した。

 これまで杉田は、2009年からUSオープンの予選に挑戦し続けてきたが、いずれも本戦に上がることができなった。

「ずっと低空飛行だったけど、墜落しなかった。我慢してきたからこそ、ここ(本戦初出場)で墜落したくないという思いは誰よりも強い。そして、このレベルに居続けたいと強く思っているはず。(この世界ランクに)まぐれで入ったわけではなく、テニスの実力で入っている。安定感があるし、攻撃力があるし、自信もある。杉田はハードコートが得意なので、チャンスだと思っているはずです」

 杉田が持ち前の粘り強いプレーをすれば、ニューヨークでも勝機を見い出せるはずだと指摘する。


「パワー勝負になると厳しい部分はあるので、力みがないといい。ムチャクチャ打つのは杉田のテニスではない。攻撃しなきゃと思い過ぎるとドツボにはまる」

 かつて松岡を指導し、今は杉田を見ているボブ・ブレットコーチは、フォアハンドストロークの高い打点で打つショットを交ぜてほしいと注文をつける。ブレットコーチは、「杉田ほど安定したストロークを持っている選手はいないし、バックのいいフィーリングを持っている人はいない」と評価する。一方で、杉田の頑固なところには、世界的なコーチでさえ根負けして、松岡に助けの電話を入れるほどだという。

 松岡は、杉田には他の日本人にはないような彼独特のモノの捉え方をするメンタルの持ち主だと感心する。

「杉田のいい意味での勘違いポジティブは、対戦相手にとって一番嫌なもの」と松岡は言い、かつて自分が現役時代に初めてプレーした時のマイケル・チャンと杉田をだぶらせる。

「(松岡がチャンより長身だったため)ちゃんと自分がプレーできれば、全部エースになるけど、ちょっと狂い始めると、ジワジワとプレーされて、マイケルのすべてが大きく見えるようになった。そういう素養が杉田にはある」

 杉田がUSオープン初出場で初勝利を挙げられるか注目だ。

 一方、日本女子では、19歳でUSオープン2回目の出場となる大坂なおみ(WTAランキング45位)に期待を寄せる。昨年は初出場ながら3回戦まで進出し、ベスト16まであと一歩のところで惜敗した。

「大坂さんは今、彼女の良さが少し消えちゃっているように思います。本来、彼女はスマッシュをバックフェンスに直撃するような、全部100%強打だった。今は躊躇しているけど、学んでいるということですよね。これまでは感性で強打したけど、今は感性じゃなくて、いろんなチョイスが見えてしまい、迷いにつながっている。彼女のテニスを見ていて、それが伝わってくる。でも、それは悪いことではありません。成長していくうえで必要なことですから」


 それでも松岡は個人的に、安定志向ではなく彼女本来の魅力であるパワーテニス志向に進むべきだと考えている。もちろん、どちらを選択するのかは、大坂自身なのだが……。

「周りから何を言われようと、ゼロ戦略でとにかく打ちまくるというのを、どちらかというと僕は望んでいました。そのテニスなら世界ナンバーワンにはなれないけど、グランドスラムで優勝できる。今の彼女のチョイスだと、彼女の良さがどこまで出るかわからない」

 大坂は前哨戦のひとつ、WTAトロント大会では、カロリナ・プリスコバ(1位)と対戦した3回戦で腹筋痛が再発して途中棄権したため、その回復具合が気になるところだが、ケガさえ回復してコンディションが良くなれば、USオープンで上位進出の可能性を十分秘めている。

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 最後に松岡に男女の優勝者予想を聞くと「ナダル、フェデラー、ティーム、ズベレフがタイトルに近いのではないでしょうか」と名前を挙げた。成長著しい若手と復活したベテランに熱い視線を注いでいるという。

 20歳のアレクサンダー・ズベレフ(6位)は、北米ハードコートシーズン絶好調で、ATPワシントンD.C.大会で初優勝、さらにマスターズ1000(以下MS)・カナダ大会でも初優勝し、ランキングを自己最高の6位まで上げてきている。現在一番勢いのある選手で、USオープン優勝候補の最右翼にのし上がった。

「ズベレフ、(ドミニク・)ティーム(8位)、この2人が次の世界1位になれる可能性がある。テニスに対してまじめですし、安定したテニスを持っている。ティームは、全仏で見た時の印象だと、まだかなと思った。ズベレフは攻撃テニスなので、少し粗いんですよ。まだかなと思っていたけど、錦織が『今だ」とスイッチを押しちゃいましたね(ワシントンD.C.大会準決勝で初対戦し、ズベレフが錦織を圧倒した)」


 今年のオーストラリアン(全豪)オープンとウインブルドンで優勝した36歳のロジャー・フェデラー(3位)は、MS・カナダ大会で準優勝したが、背中をひねってケガをしたため、MS・シンシナティ大会以降の出場を見送った。USオープンでは2008年以来9年ぶりの優勝を狙う。

 そして、今年のローランギャロス(全仏)優勝者で31歳のラファエル・ナダル(1位)は、2014年7月以来3年ぶりに、8月21日付けのランキングで世界ナンバーワンに返り咲いた。USオープンでは第1シードとして、2013年以来4年ぶりの優勝を目指す。

 混戦必至なのは女子の優勝戦線だ。松岡に訊いたところ、「わかりません、というが本当の答えです」と、優勝予想の難しさに対して思わず本音が漏れた。

 今年1月にオーストラリアンオープンで優勝したセリーナ・ウイリアムズ(15位)が妊娠して戦列を離れたため、世界1位の座がたびたび入れ替わるようになり、アンジェリク・ケルバー(6位)が奪還した後、現在はプリスコバ(1位)が新しい女王となっている。

 またグランドスラムでは、ローランギャロスで、まったくノーマークだった20歳のイェレナ・オスタペンコ(12位)が初優勝したり、ウインブルドンでガルビネ・ムグルサ(3位)が初優勝したりと戦国時代の様相を呈していて、USオープンでも新チャンピオンの誕生が見られるかもしれない。

「女子の優勝を予想したければ、1回戦から毎日、テレビで全米を見てほしい」

 ニューヨークでの戦いの火ぶたは、まもなく切って落とされる。男女の激しい優勝争いはもちろん、伸び盛りの日本勢の活躍も期待されるUSオープンで繰り広げられる熱いテニスから目が離せない。

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