『二十六夜待ち』 ©2017 佐伯一麦/ 『二十六夜待ち』製作委員会

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映画『二十六夜待ち』が12月23日から東京・テアトル新宿ほか全国で公開される。

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佐伯一麦の同名小説をもとにした同作は、震災で全てを失い、福島・いわきに住む叔母の工務店に身を寄せる由実と、記憶喪失の謎めいた男・杉谷の関係を描く作品。杉谷が店主を務める料理店で働き始めた由実が、やがて心と身体を添い合わせるようになる、というあらすじだ。

いつも何かに怯え、孤独を抱える杉谷役を演じるのは井浦新。料理のシーンでは吹き替えを使用せず、全て井浦自身が包丁を握っているという。心に傷を抱えた由実役には黒川芽以をキャスティング。劇中には長回しによる2人の濃厚なベッドシーンも登場し、R-18指定の作品となっている。

監督・脚本を務めたのは、『かぞくのくに』『アレノ』『海辺の生と死』などの越川道夫。撮影を河瀬直美監督『2つ目の窓』、西川美和監督『永い言い訳』、是枝裕和監督『誰も知らない』『海よりもまだ深く』などに参加した山崎裕が手掛けた。

井浦新は劇中のラブシーンについて「僕にとって今作のラブシーンは、あそこまでの生々しさで演じるのは、初めての挑戦でした。監督がラブシーンは正面からしっかり撮りたいと仰っていましたが、黒川芽以さんと現場で芝居を作っていく中で、ワンシーンワンシーン、その瞬間瞬間にお互いの傷や不安を重ね合わせることによって癒し合いながら、爆発的にラブシーンを表現できたのではないかと思っています」とコメント。

黒川芽以は撮影を振り返り、「撮影中は、越川監督はじめスタッフさん、キャストさんとの信頼関係が増していき、安心して身を預けて、演じることだけに集中していました。完成したら、思った以上に恋愛ものになっていました。これは、すごいことになったので、ぜひ観て頂きたいです」と語っている。

■井浦新のコメント
まず黒川芽以さんが綺麗だったなと思いました。芽以さんが演じた由実と言う女性が抱えている光と影を愛おしく感じることのできる映画になったと思い、完成した映画を観ていました。
杉谷は難しい役でした。すべての記憶を失っていて、何かにいつも怯えながらも、料理人として、店に来てくれるお客さんや自分によくしてくれる人たちとの関わり合いというものがあって、そのどちらも演じていくことはやはり難しい。現場で感じた事を大切にしながら演じていました。それは、苦しさを抱えながらも、由実さんと野の草花を摘んでいる時の楽しさであったりするのですが、映画の中の自分の演技や表情を見ていて、いつも眉間に皺を寄せている男にならなくてよかったな、一辺倒な演技にならなくてよかった、と。杉谷は自分自身の苦しさの中で、時には残酷に思えるくらい由実さんの辛さ、津波の記憶や心の傷を受けとめることができない。でも、自分が杉谷を演じていた時の気持ち以上に、映画の中では、次第に由実さんの存在が杉谷の体や気持ちの中に浸透し、やがては包み込まれていくのだと感じました。杉谷というひとりの男の動物らしいところも人間らしさも見え、いろんな杉谷の感情面が出ていてホッとしました。
僕にとって今作のラブシーンは、あそこまでの生々しさで演じるのは、初めての挑戦でした。監督がラブシーンは正面からしっかり撮りたいと仰っていましたが、黒川芽以さんと現場で芝居を作っていく中で、ワンシーンワンシーン、その瞬間瞬間にお互いの傷や不安を重ね合わせることによって癒し合いながら、爆発的にラブシーンを表現できたのではないかと思っています。ちょうど20年ぐらい前のデビュー作、『ワンダフルライフ』(98/是枝裕和監督)の撮影でもある山崎裕さんが、今作も撮影を担当されているという安心感は大きいと思います。あ、ここは手を撮ってたんだとか、びっくりしたところもありましたし、何気なく自然の流れの中で動いている体の動きを山崎さんはずっと追っていてくれているんだな、と完成した作品を見て気づかされました。映像が美しく、そして「優しい」。登場人物全員が愛おしく見えてくる。映画を見ていてフラッシュバックするところもありました。「こんな時間に、こんな月を眺めたことがあったような気がする」という杉谷の台詞ではありませんが、20年前ぐらいに、僕はやはり山崎さんが撮影した絵の中にいて、その時もやはり月を見上げてたな、と。

■黒川芽以のコメント
台本を頂き【あ、これは20代最後に思いっきり挑める作品だ】と思い嬉しかったです。
物語の舞台はいわき市。忘れたい女と思い出せない男の、それぞれの孤独。形は違うけど、みんな居場所を探している。切ないけど、少しほっこりできる作品になりました。
撮影中は、越川監督はじめスタッフさん、キャストさんとの信頼関係が増していき、安心して身を預けて、演じることだけに集中していました。
完成したら、思った以上に恋愛ものになっていました。これは、すごいことになったので、ぜひ観て頂きたいです。

■越川道夫監督のコメント
原作の佐伯一麦さんとは、震災の直前にBOOKcafe火星の庭の前野さんが企画した『海炭市叙景』の仙台でのトークイヴェントで初めてお会いしました。2011年の2月のことでした。それからすぐにあの大震災がありました。その後に書かれたこの短編小説を、映画にできないかとずっと考えていたので、い、井浦新さんが出演を快諾してくれ、黒川芽以さんが20代最後の作品として出演を熱望してくれたのは本当に嬉しく、映画化にあたっては紆余曲折がありましたが、ふたりは待っていてくれていました。すべての記憶を失い、あたかな人々に囲まれながらも、いつも孤独と怯えの中にいる井浦さんの演じる杉谷。震災を経て叔母のもとに身を寄せる黒川さんの演じる由実もまた、孤独と痛みの中に身を置いています。孤独なふたつの魂が、月(杉谷)と波(由実)がお互いにひかれあうように心と体を寄り添わせていく姿を、ふたりは演じて切ってくれました。そして、完成した映画を観た今、杉谷と由実が寄り添い、ふたりで紡いでいく時間がこの後も、長く長く続いていくことを願わずにいられません。