トレヴァー・ホーンが奏でる“輝かしい未来への憧れ”の扉―― モダンな響きとヒューマンな温もりが同居したサウンドに心沸き立つスタイリッシュな夏の宴

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 キーワードは「輝かしい未来へのオマージュ」。

 鮮烈な印象を残した前回の公演以来、5年ぶりの来日となるトレヴァー・ホーンが『ビルボードライブ東京』のステージに上がった。

 1979年にバグルスのプロデューサーとして「ラジオ・スターの悲劇」をヒットチャートに送り込み、一躍“時の人”として名を馳せたトレヴァー・ホーン。当時の最先端のテクノロジーを駆使し、斬新な響きとモダンな質感を伴った音作りを提示した彼は、83年にはZTTレコーズを立ち上げるなど、先鋭的なサウンド・クリエイターとして、世紀を跨いで活動を続けてきた。また、ミュージシャンとしてはバグルスのジェフ・ダウンズと共にイエスに参加し、80年に『ドラマ』をリリース。その後の解散に伴いメンバーからは退いたものの、再結成した同グループの『ロンリーハート』(83年)をプロデュースし、復活の重要な役割を担ってきた。他にもABCやマルコム・マクラーレン、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやグレイス・ジョーンズ、さらには来月公演が予定されているアート・オブ・ノイズなど、ハイパーなアーティストを数多く手掛けてきたトレヴァー・ホーン。

 今回のステージは、2人の女性ヴォーカルを含む辣腕揃いの9人体制。メンバーの中にはアルバムをプロデュースしたこともあるゴドリー&クレーム(元10cc)の片割れ、ロル・クレームも。80〜90年代にトレヴァーが関わってきたさまざまなアーティストの名曲が矢継ぎ早に演奏され、英国流儀の捻じれたポップ&ロックをコンテンポラリーな響きで披露。会場は麗しいメロディに包まれ、輝かしい未来を想起する“モダン・サウンド”が広がった。

 ステージにはシンセやサンプラーを中心とした電子楽器が並び、浮遊感溢れる音が絹の布のように織り重なっていく。だが、意外だったのは、“テクノ世代”のイメージが強い彼らの演奏が予想以上にダイナミックなバンド・サウンドで、ヒューマンな温もりに満ちていたことだ。

 サンプリングを多用したクールなサウンドをベースとしながらも、ギターやヴォーカルが頻繁にエモーショナルな顔を覗かせる。硬質でプラスティックな感覚が強い音と、ヴァーチャルなテイストが滲む歌詞なのに、観客に届けられる旋律には体温が宿っている。不思議な感覚なのだが、なぜか心地好い。それはきっと、現代のシビアなリアルさとは異なる、一種の“夢”や“憧れ”が込められている音楽だからかもしれない。2010年代の今、ある種の批評として機能する瞬間が感じられる彼の音楽性には、実はディープなフィーリングが溶け込んでいるのではないか――。トレヴァーの音楽が、単なるバブルガム・ミュージックではなく、極めて批評性に富んだモダン・ポップであることが、21世紀になって露になってきたように感じられた。

 ライブはスタイリッシュな印象ながら、英国人的なユーモアも込められた人懐っこい肌ざわりも備えており、観客とアーティストが一体感を心地好く味わうことができる時間が流れていった。また、僕が観たセカンド・ショウの中盤には、共にサマーソニックに出演していたリック・アストリーが飛び入りして、イエスのナンバーを熱唱。観客の盛り上がりは最高潮に達した。もちろん、その前後にはみんなが待ち望んでいた数々のヒット曲もきちんと織り込まれ、終始、楽しさに溢れたエンタテイメントになっていたのも嬉しい。彼らが抱いていた「輝かしい未来へのオマージュ」を垣間見ながら、上質なポップ・ミュージックを満喫することができた。

 トレヴァーが奏でる前衛的でありながらも温もりのあるサウンドは、まさにユニーク。英国流の捻じれたモダン・ポップを堪能するためにも、早い再来日を期待したい。

◎公演情報
【トレヴァー・ホーン】
2017年8月22日(火) - 23(水)※終了
ビルボードライブ東京

Photo: Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。暑さがぶり返してきた8月下旬。夏バテで重たい身体を引きずっている人もいるのでは?こんな時期に楽しみたいのが、北イタリアの瓶内二次発酵ワイン=フランチャコルタ。フランスのシャンパーニュと同じ手法で造られた発泡ワインは、クリーミーな泡と繊細で爽やかなアロマが晩夏にピッタリ。冷製のオードブルや夏野菜のグリル、カペリーニなどと好相性なので、減退した食欲を活性化させてくれる。軽快さと味わい深さが両立したノーブルな液体が喉元を通過していく心地好さは格別。ぜひ、お試しを!